貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

56.囚われの侯爵令嬢②

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怖いけれど、怖がってばかりはいられませんわ
私は、皆に・・・ユミナ様に・・・また、会いたいのですもの



「やぁ。知の姫君。いや、氷の毒華の方がいいかい?」

私が身を寄せ柱の少し手前。
足音は、そこで止まりそう声を掛けてきた。

「黙りはあまり推奨しないかな。ああ。自己紹介がまだだったね。
俺の名前は、ハインリッヒ・メビウス。
この国では、メビウス伍長って言った方がわかりやすい?」

・・・メビウス伍長。

「そうですわね。この国で、成人した者でメビウス伍長の、名を知らぬ貴族はいないでしょう。
昼行灯を気取る知略家。そして、残酷で残忍と名高いとお聞きしておりますわ」

少し震える声を自覚しつつ、柱から離れ相手を見据える。

「ご存じとは思いますが、私はテイラー侯爵の娘、ミリュエラですわ。
私が、何故ここに居るのかは、わかりませんけれど。
メビウス様はご存じですの?」

震えそうになる膝を何とか押さえ込み、メビウスへと問いかける。
まともな答えを期待しているわけではありませんわ。
ただ、私に向けられる冷え切った何かを紛らわすには、今は話すことしかできませんもの。

「へぇ。この状況で、俺に問いかけれるんだ。
肝が据わってるのかな?それとも、ただ鈍いだけ?」

内心、どちらでもありませんわ。と愚痴りながら、小首をかしげておく。

「表情が動かないって聞いてたけど、ホントなんだねぇ。
まぁ、いいか。教えてあげるよ。どうせ、君帰さないし」

側に積まれた、ひいた粉が詰められているのであろう麻袋へと腰をかけながら、メビウス伍長は楽しげに話してくださいました。
私に向けられた、冷え切った何かはそのままに。

「もう、わかってると思うけど、君は俺に攫われた。
まぁ、それなりに大変だった。君の側には、常に誰かが居るし、護衛は意味わからないくらい手練れだし。
君一人攫ってくるのに、こちらの犠牲がそこそこ出た。
腹立たしいことに」

腹立たしいという言葉と共に、向けられた冷たい何かが強くなる。
何とか耐えれましたけれど、これは怒り?
・・・違うわね。多分殺気とかそう言うのな気がする。
悪意なんていう生やさしいものではないわ。

「それ程まで手間をかけたのに、君が何の役にも立たなかったら、どうしてくれようね?
君はね、辺境伯への牽制と脅しに使う予定なんだよね。
因みにこれを考えたのは、参謀気取りの大佐殿なんだけどね。
失敗したら、俺に全責任なすりつける気でいらっしゃるんだけど、そうはいくかよって感情なんだよねぇ」

酷く冷たい笑みをたたえ、メビウス伍長は遠くを眺めている。
デモ、何かしら?一貫して私に向けられる冷たい殺意とは別に、何か深く暗い何かを感じるわ。

「まぁ、そんなわけだから、大人しくしておいてね。
この小屋の中なら自由にしてていいよ。何もないけど。
あと、逃げようとか思わないでね。まだ、生きていたいでしょ?」

そう言って、メビウス伍長は、小屋から出て行く。
小屋の中に残るものはなく、少しばかりのパンと水に小さなランタンが残された。

パンと水はそのままに、ランタンを片手に水車の処まで戻る。
そして、オパールのペンダントを取り出し

「我が声を無に。無断で紡がれし音の回廊を遮断せん」

呪を唱える。

「ヘーゼル。聞いていましたか」

『聞いていた。取りあえず、無事で良かった』

『嬢ちゃん。さっきのメビウス伍長だよな?』

ヘーゼルとの会話にマルクスが混ざる。

「ええ。本人かはわからないけれど、そう名乗っていたわ。
そして、わたしは本人だと思う。ずっと、冷たくて暗い何かを感じていたから」

『そこにいるのが、メビウス伍長であれば、自分とマルクスは直ぐ側まで来ている』

『俺とヘーゼルは、諜報に入り込まれて、独立宣言と共に宣戦布告した村をおさめに来たんだ。
そして、その村で暗躍してるのがメビウス伍長な』

「まぁ」

私は、なんと言って良いかわからずに、呆けたような声を発してしまった。

『ただ、自分もマルクスも直ぐには動けない。暫く一人でも何とかなるか』

私は少し考え、答える。

「何とかなるかは、わからないけれど。何とかしましょう。
ただ、何か事が起これば、私は何も出来ませんけれど」

『承知した』

『なるべく早く動けるようにはする』

わかりました。と、返答をし、全ての発動を停止する。
どっと何かが抜け落ちたような感覚が、身体を襲い私は倒れそうになる。

思ったよりも、力の消費が大きかった。
そこに、精神的負担がのしかかっているのも原因かも知れない。

あまり長く使うのは、危険かも知れませんわね。

そう考えながら、私は小屋の中の探索をはじめる。
どのような造りで、何があるのかを把握するために。

不安や恐怖が無いと言えば嘘になる。
ただ、わかっているのは、また皆に、ユミナ様に会いたいということ。
そのための、努力を惜しみませんわ。
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