貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

55.囚われの侯爵令嬢①

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報告は迅速に。
プライドは二の次ですわね・・・



歯車の回る音を聞きながら、私は二つのペンダントを取り出す。
一つは、オニキスで通信用にと渡されたもの。
もう一つは、オパールの小さなペンダント。
実は、どちらも魔王陛下が置いていってくださったもの。
オパールのペンダントは、盗聴防止機能と通信機能ノイズを抑える効果を持つ。

まさか、こんな場面で使うことになるとは思いませんでしたわ。
少し震える指先をまずは、オパールのペンダントへと添える。

「我が声を無に。無断で紡がれし音の回廊を遮断せん」

呪が終われば、ふわりと風がわたしを包む気配を感じる。
無事に発動できたようですわね。
少しの安堵を感じつつ、呪を唱えた声が震えていたなと思う。
命が危険にさらされたのも、こうして連れ去られたのも初めての事ではないはずですのに。
ただ、初めてのこともあった。私自身に向けられた明確な悪意とも言える感情。
社交界でも悪意に晒されることは多くあったけれど、それとは比較にならぬほどのものだった。
これでは、馬鹿にされてしまうかしら。
でも、連絡は迅速にですものね。
そう、自分を奮い立たせて、オニキスのペンダントへと触れる。
その上から念のため、四つ折りにしたハンカチを被せる。
ペンダントは、ヘーゼルと繋がるものを使う。

「遠き地の声を是に。我が声を遠き地に。音の回廊を構築せん」

暫くすれば、声が返ってくる。

『どうかしたのか』

ヘーゼルの声に少しだけ安堵を感じる。
私、心細かったのですわね。

「ヘーゼル。ごめんなさい。恐らく、私は攫われました」

そう、前置きし私のわかる範囲の事を伝えます。
密告者と名乗る者が現れたこと。
赤の記憶を最後に、つい先ほどまで意識がなかったこと。
今居るのが、水車の粉挽き場でありそうなこと。
外が騒がしいこと。
側に騎竜と思われる遺骸があること。
なるべく詳細に主観が混じらぬように説明するり

『ふむ。水車の動きはわかるか』

「水はゆるりと流れているよう。あまり、動きは早くないわ」

『騎竜の遺骸の腐敗具合わかるか』

「ごめんなさい。詳しくはわからないわ。ただ、あまり進んでいないと思うわ。でも、腐敗が始まっているわ』

騎竜の遺骸の腐敗。これは、契約者の死を意味する。
見つけて直ぐ、私は腐敗は遅いと感じた。
それは、おそらくつい最近まで、契約者が生きていたということ。
例外は、安息地へと、安置すること。

『水車の水面に何が浮いているか』

「水面?これは、葉っぱかしら?楓のように先の別れた葉。
先は、1・2・・・5つかしら。それが、3枚ほど浮いているわ」

私の返答に、ヘーゼルは少し考え込むように黙りこみます。
そのタイミングを見計らったように、扉がガタガタ音を立てて開かれました。
私は思わず身構え、水車の柱へと身を隠します。
ヘーゼルへ誰か現れた旨と、通信用ペンダントは発動したままにしておくことを伝え、盗聴防止用ペンダントの発動をやめる。
慌てたような足音が響く。それとは別に、落ち着いた足音がこちらへと向かってくる。

あ、これは、すこしまずいかもしれませんわ。
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