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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
51.侯爵令嬢からの情報(ユミナ視点)
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声が聴けて話せて・・・でも触れることのできない距離で・・・
音もなく、テラスの扉が開く気配がする。
・・・この感覚に慣れるのってどうなのだろうか。
「ヘーゼル。音もなく、声もなく入ってくるな」
マルクスから、一通りの報告を受け、どうするのが最善かを、考えようとした矢先だった。
「何故自分だと?」
私は、ここ数日でマルクスとヘーゼルの名を呼ぶまでには、信用を得られたらしい。
それに、何故と言われてもな・・・
「君の気配はわりと独特だから、わかりやすい。
でも、本気で隠されたら多分私では分からないとも思う」
「ふむ」
ヘーゼルは、マルクスの隣まで行き、どこまで話したのかを聞き、マルクスは一通りは話した。と、答えている。
「辺境伯。このペンダントだ。鍵になるのは魔力。
人が使うのは、古の血族であること。
あるいは、稀にいる魔力持ちか」
ヘーゼルは、私へとペンダントを手渡してくる。
古の血族でもなく、魔力持ちではない私にはただのペンダントだろう。
魔族の道具として、知識としては知ってはいた。
人には扱えぬ道具と認識をしていたが、なるほどなと思う。
確か、カミラ殿下が見せてくれた、古い文献に古の血族は魔力持ちなのだと。
古の時代は、魔力に溢れ、人も魔力持ちが多かったと。
一通り、ペンダントを検めて、ヘーゼルへと返す。
「とりあえず、自分が使うことになるとは思うが、試してみる」
そう言うと、ヘーゼルは呪を口ずさむ。
「遠き地の声を是に。我が声を遠き地に。音の回廊を構築せん」
しばらく明滅すると静かになる。
『ヘーゼルですの』
ミリィの声だ。久々に聞いた気がする。
「是。マルクスから預かった」
『そう。無事使えたようで、何よりですわ。私も使えるようですし』
私や家族と話すときとは、違った雰囲気なのだろうと、何となく感じる。
「今、辺境伯とマルクスもいる」
『マルクスはわかりますけれど、ユミナ様もですの?』
あ、これは少し戸惑った雰囲気だろうか?
なんだろうか。対面で話すよりも、表情という情報が無いからなのか、ミリィの感情がわかりやすい気がする。
「お嬢、辺境伯いたらダメなのかい?」
『え。いえ、ダメではないのだけれど。ちょっと、心の準備が・・・』
ミリィの反応に、思わず笑いを漏らしてしまえば、不満を感じる声がかけられた。
『ユミナ様。何を笑ってらっしゃるのですか』
「いや。可愛らしい反応だなと」
私がそう答えれば、ペンダントの向こうで息をのむ気配がする。
ヘーゼルとマルクスが微妙な顔をしているが、気にしないことにする。
「事が終わるまでは、声すら聞けないと思っていたから。
声だけでも聞けて、言葉を交わすことが出来るのは、思ったよりも楽しいみたいです」
『・・・そうですね。私も楽しいですし、嬉しいです』
・・・ふむ。少し照れながら伝えてくれているのだろうと、想像したら触れられないのが辛い。
そう、思えばそばで、マルクスが声を殺しながら笑っているのに気づいた。
・・・これは、私が何を感じたかバレているのだろう。
少しばかり・・・いや、かなり嫌かも知れない。
「ふむ。生暖かく見守っていたいところだが」
今まで黙っていたヘーゼルが、そう前置きし話し出した。
いや、見守って貰わなくていいのだが。むしろ、遠慮したい。
「そちらで、何か動きはあったか」
『あったと言えばあったかしら。ついさっきお爺さまから来た情報がひとつ』
使者の護衛に付いていた、騎竜とその騎士の一人が傷だらけで帰城し、一つの情報を報告したらしい。
騎竜の首を落としたのは、目深にフードをかぶり、木の根のようなものを操る一のような者だと。
『人なのかもしれないし、違うかも知れない。
ただ、一撃で首をはねたそうだから、人ではない何かという説が今のところ強いそうよ。
一応、特徴や外見が一致する者を捜しているけれど、今のところそれらしい情報はないわ』
・・・目深のフードに木の根だと?
「ミリィ。一つ質問してもよいか」
『なんでしょうか』
私は、記憶の奥底から、一つの記憶を引っ張り出しながら確認をする。
「目深のフードは、フード付きのローブだったかわかるか」
『服装ですか?お待ちを。報告では、着古された外套とその下に丈の長いローブ。フードは、おそらくローブのものだろう。とありますわ』
「私に、心当たりがいくつかある」
一つは、ユーグと言われる人外。精霊に近いと言われている。
人外にしては珍しく、友好的。木の枝を自在に操ることが出来、木の精霊だと言われることもある。
次は、ウッドマン。木の精霊で人型をしている。
気性の荒いものもおり、恐れられている。
排他的な種族で、他の種族へとても厳しくあたることが多い。
最後は、魔族。厳密には、魔族の眷属。
隣国の大半の地と隣接している魔界を統べる魔王の側近の眷属にその様な者がいる。
姿形は人と大差ないように見えるが、腕は木の根と木の枝だと言われている。
『人外に精霊、魔族ですか。どの場合でも、ろくな事にならない気がしますわ』
私もそう思う。
ただ、話を聞くかぎりでは、ウッドマンの可能性は低く、魔族の可能性が高い。
そして、それは同時に一番違って欲しいものでもあった。
音もなく、テラスの扉が開く気配がする。
・・・この感覚に慣れるのってどうなのだろうか。
「ヘーゼル。音もなく、声もなく入ってくるな」
マルクスから、一通りの報告を受け、どうするのが最善かを、考えようとした矢先だった。
「何故自分だと?」
私は、ここ数日でマルクスとヘーゼルの名を呼ぶまでには、信用を得られたらしい。
それに、何故と言われてもな・・・
「君の気配はわりと独特だから、わかりやすい。
でも、本気で隠されたら多分私では分からないとも思う」
「ふむ」
ヘーゼルは、マルクスの隣まで行き、どこまで話したのかを聞き、マルクスは一通りは話した。と、答えている。
「辺境伯。このペンダントだ。鍵になるのは魔力。
人が使うのは、古の血族であること。
あるいは、稀にいる魔力持ちか」
ヘーゼルは、私へとペンダントを手渡してくる。
古の血族でもなく、魔力持ちではない私にはただのペンダントだろう。
魔族の道具として、知識としては知ってはいた。
人には扱えぬ道具と認識をしていたが、なるほどなと思う。
確か、カミラ殿下が見せてくれた、古い文献に古の血族は魔力持ちなのだと。
古の時代は、魔力に溢れ、人も魔力持ちが多かったと。
一通り、ペンダントを検めて、ヘーゼルへと返す。
「とりあえず、自分が使うことになるとは思うが、試してみる」
そう言うと、ヘーゼルは呪を口ずさむ。
「遠き地の声を是に。我が声を遠き地に。音の回廊を構築せん」
しばらく明滅すると静かになる。
『ヘーゼルですの』
ミリィの声だ。久々に聞いた気がする。
「是。マルクスから預かった」
『そう。無事使えたようで、何よりですわ。私も使えるようですし』
私や家族と話すときとは、違った雰囲気なのだろうと、何となく感じる。
「今、辺境伯とマルクスもいる」
『マルクスはわかりますけれど、ユミナ様もですの?』
あ、これは少し戸惑った雰囲気だろうか?
なんだろうか。対面で話すよりも、表情という情報が無いからなのか、ミリィの感情がわかりやすい気がする。
「お嬢、辺境伯いたらダメなのかい?」
『え。いえ、ダメではないのだけれど。ちょっと、心の準備が・・・』
ミリィの反応に、思わず笑いを漏らしてしまえば、不満を感じる声がかけられた。
『ユミナ様。何を笑ってらっしゃるのですか』
「いや。可愛らしい反応だなと」
私がそう答えれば、ペンダントの向こうで息をのむ気配がする。
ヘーゼルとマルクスが微妙な顔をしているが、気にしないことにする。
「事が終わるまでは、声すら聞けないと思っていたから。
声だけでも聞けて、言葉を交わすことが出来るのは、思ったよりも楽しいみたいです」
『・・・そうですね。私も楽しいですし、嬉しいです』
・・・ふむ。少し照れながら伝えてくれているのだろうと、想像したら触れられないのが辛い。
そう、思えばそばで、マルクスが声を殺しながら笑っているのに気づいた。
・・・これは、私が何を感じたかバレているのだろう。
少しばかり・・・いや、かなり嫌かも知れない。
「ふむ。生暖かく見守っていたいところだが」
今まで黙っていたヘーゼルが、そう前置きし話し出した。
いや、見守って貰わなくていいのだが。むしろ、遠慮したい。
「そちらで、何か動きはあったか」
『あったと言えばあったかしら。ついさっきお爺さまから来た情報がひとつ』
使者の護衛に付いていた、騎竜とその騎士の一人が傷だらけで帰城し、一つの情報を報告したらしい。
騎竜の首を落としたのは、目深にフードをかぶり、木の根のようなものを操る一のような者だと。
『人なのかもしれないし、違うかも知れない。
ただ、一撃で首をはねたそうだから、人ではない何かという説が今のところ強いそうよ。
一応、特徴や外見が一致する者を捜しているけれど、今のところそれらしい情報はないわ』
・・・目深のフードに木の根だと?
「ミリィ。一つ質問してもよいか」
『なんでしょうか』
私は、記憶の奥底から、一つの記憶を引っ張り出しながら確認をする。
「目深のフードは、フード付きのローブだったかわかるか」
『服装ですか?お待ちを。報告では、着古された外套とその下に丈の長いローブ。フードは、おそらくローブのものだろう。とありますわ』
「私に、心当たりがいくつかある」
一つは、ユーグと言われる人外。精霊に近いと言われている。
人外にしては珍しく、友好的。木の枝を自在に操ることが出来、木の精霊だと言われることもある。
次は、ウッドマン。木の精霊で人型をしている。
気性の荒いものもおり、恐れられている。
排他的な種族で、他の種族へとても厳しくあたることが多い。
最後は、魔族。厳密には、魔族の眷属。
隣国の大半の地と隣接している魔界を統べる魔王の側近の眷属にその様な者がいる。
姿形は人と大差ないように見えるが、腕は木の根と木の枝だと言われている。
『人外に精霊、魔族ですか。どの場合でも、ろくな事にならない気がしますわ』
私もそう思う。
ただ、話を聞くかぎりでは、ウッドマンの可能性は低く、魔族の可能性が高い。
そして、それは同時に一番違って欲しいものでもあった。
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