貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

40.辺境伯の戦②(ユミナ視点)

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嘘か真か分からないが、彼の逸話を知らぬ者はいない。



時がたつにつれ、あちらとこちら、顕著な違いが出てきた。
しかけてきているあちら側には、余裕があるが、先がわからないこちらは側は、疲弊して焦れてきているな。
それは、そうだろうな。と思う。
ここ、何年も数日厳戒態勢が続いたことはないものな。
私が物心ついてからもない。おそらく、もっと前から無いはずだ。

正規の兵より、雇い傭兵の方が、まだ余裕がありそうか。
私は、傭兵達のまとめを頼んでいる者の所へ足を運ぶ。

「状況はどうだ?」

声をかければ、筋肉が隆起した手足を携えた彼は、私へと向き直る。
隻眼の傭兵。ミラルド。傭兵として名をはせており、彼の逸話を知らぬ傭兵はいないと言われるほどだ。
十数年は家が雇ってるから、それより前の話なんだろう。
目立つ容姿をしているしな。

彼の容姿はとにく印象的だ。
隻眼と赤髪。赤髪は、短く切られてはいるが、燃えるような赤だ。
顔には、髪と同じ色の顎髭を携えおり、左目から左頬にかけて大きなキズがある。
そして、両手と両足の筋肉は隆起し、胸板も分厚い。
嘘か本当かは知らないが、弓矢による狙撃では心臓に矢傷は達しず、剣を突き立てても、致命傷に達するまでに、剣が折れるらしい。

「領主か。あまり、いい状況じゃねぇな」

ミラルドは、外壁から隣国方面へと指を指す。
そこには、こちらを見据えるように野営を続ける軍がいる。

「あくまでも、国境の向こう側で、侵犯をすることもない。
だが、武器を持っていることを示し、常に存在を認識させてくる。国境警備も気を張ってる。
このままだと、こちら側が一方的に疲弊させられる。
それに、正規兵の奴らが、そろそろ限界だろう。
俺たち傭兵ほど、命を危険にさらされ続けることに耐性がない」

それに頷きながら、思わずため息がもれる。

「世話をかけるな」

「いや?今回は、情報が多くて助かるぜ?」

ミラルドは、豪快に笑う。
そうか、情報は心の余裕も生むのだな。

「今回は、知の侯爵がついてくれているからな」

そう、漏らせばミラルドは目を見開く。

「知の侯爵って言えば、テイラー様か?なるほどな。どおりで、魔物の森の情報もキッチリあるわけだ」

「知っているのか?」

私の問に、いや。と、返答をよこしてくる。

「俺たちの要員はさかれない、領主自身も出掛けたそぶりもない。誰が収集してんのかとは、思ってたけどな。
侯爵様のやっぱり情報網ハンパないな。一度、敵方に雇われてたことあるが、勝機を見いだせなかった」

だから、さっさと契約切って、おさらばしたんだけどなー。俺も若かった。
そう、言いながら笑っている。
いや、わりと笑い事ではないのだが?

いくつかの情報の交換と状況の整理をミラルドと行い、領主館へと戻る。
そして、ちょうど同じタイミングで戻ってきた、ヘーゼルとかち合う。
マルクスはどうしたんだ?常にツーマンセルを組んでたはずだ。
ヘーゼルは、私を認識すると慌てたように口を開いた。

「悪い知らせがある」

執務室へと急ぎ、話を聞く。

―――隣国へと赴いた騎竜の首が戻り、使者と騎竜の主である騎士の行方がわからない。

沈黙と共に、嫌な方向へと事が動いた気がした。
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