貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

38.辺境伯の出立(ユミナ視点)

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さて、私に出来ることをせねばな。



私は、領地からの急使による連絡を受け、慌ただしく帰還の準備をしている。

王都から辺境伯領までは、馬車だと時間がかかる。
王都と辺境伯領を分断する、渓谷と大河を渡るために、大きく迂回しなければならないからだ。
早馬ならば2日程。それは、人が渡るのがやっとという吊り橋の存在のおかけだ。
その橋を渡れぬものは、大きく迂回するしかない。
しかし、それより速いものもある。
王家所有の騎竜だった。騎竜たちの世話になれば、半日ほどで着くことが出来る。
ただ何点は、慣れぬものは気を飛ばしてしまうと言うことだな。

今回、私は、辺境伯領との連絡に利用している、騎竜に同乗を許可されている。
出立までに四半時ほどの時間に準備をしている。
そこへ、テイラー侯爵が二人の男性を連れて現れた。

「辺境伯。少し時間をいただいても?」

私はうなずき、侯爵の側へとよる。二人の男性は、黙礼をしてきた。

「テイラー家は、今回彼ら二人をシュトラウス辺境伯家ではなく、シュトラウス辺境伯に対しつけます」

そう、話し出された侯爵の話は、少しばかり驚く内容だった。

二人の男性は、名をヘーゼルとマルクスと言うらしい。
ミリィが提案し、侯爵の許可の元、私個人に一時的に下につけてくださるらしい。
主には、情報の収集と精査、あとは、テイラー家との連絡および情報共有に利用してくれとのことだった。
有事の際は、腕はそこそこ立つはずだから、それを使っても良い。と言うことらしいが・・・

なんだ?彼らの視線は、見定められているような居心地の悪さを感じる。
確かに腕はたつと思う。手合わせをしていないが、死線をくぐり抜けてきたもの特有のにおいを感じる。

「彼ら自身が話さないかぎり、詳細は伏せるけれど、これらは半日ほどで辺境と王都を移動できる。急使としても有能だよ」

侯爵の言葉に驚きながらも頷いておく。
騎竜以外で、半日の移動が出来るのは初耳だな。
ただ、なんか追及したらダメな気もするんだよな。

「侯爵、ありがとうございます。
ヘーゼルとマルクスだったか。よろしく頼む」

そう言うと、マルクスは私に興味を持ったのか、話しかけてきた。

「へぇ・・・旦那は騎竜での移動だから、途中までは別行動だよな。
移動中俺たちは、自由にしていいのかい?」

その言葉に少し考え、答えを出す。

「テイラー家と辺境伯家に不利益にならなければ、基本君たちを縛る気はない。
それに、その方が君たちの実力が発揮できそうな雰囲気だしな。
君たちの雰囲気は、傭兵に近い気がする。気概まではどうか分からないが。
そうだな。可能であれば、道中で情報を拾ってくれ」

私の言葉に、二人はうなずき合うと、侯爵へ何か告げている。
そして、

「委細承知。我らは先に出る」
「了解。俺らは先に行くな」

そう言うと、立ち去っていく。

王宮内で、いきなり気配を消さないあたりは、教育は行き届いているらしい。
無い気配が急に現れるのも、あるはずの気配が急に消えるのも問題だからな。

侯爵も、私も失礼するよ。と、同時に去って行かれた。
情報に長けた者がついてくれるのは、ありがたいな。

準備が終わり、あとは騎竜の準備が終わるのを待つだけとなった。
そこへ、タイミングを、見計らったかのように、カミラ殿下が現れた。

「ユミナ」

殿下に臣下の礼をとる。

「よい。顔を上げよ」

殿下の言葉で、私は立ち上がる。
公の場で殿下と相対するのは久しくなかったな。

「何事も無いことを祈っている」

その言葉に、頷くと殿下は少し意地の悪い顔をみせる。

「ところでだ。その鞘飾りどうした」

私は、ああ。と、答えて鞘飾りを一撫でする。

「テイラー嬢に頂いた」

辺境伯の地では、戦士の安寧を祈願する。
戦場へ出る戦士が無事に帰って来ることを願って渡される。

「ユミナ・・・おそらく、テイラー嬢は辺境の風習に則って渡したわけではないと思うぞ。まぁ、その意味合いもあるかもは知れないが」

殿下の言葉に私は首をかしげる。

「他にも意味があるのですか」

「この国の古くからの廃れた風習がある。テイラー家は、確かその風習を続けているはずだ」

殿下は、そう言い、詳しくは無事に事が済んでから、テイラー嬢にでもきくといい。と、付け加えられた。

「教えては下さらないのですか」

殿下を恨めしげに見れば、苦笑され

「テイラー嬢にきいた方がいいからな」

そうおっしゃられました。
まぁ、なにはともあれ、無事に帰ってくることだ。
そう告げるだけ告げると、立ち去って行かれる。

言うだけ言って、爆弾すら投下して、颯爽と去って行かれたな。
あの方は、相も変わらず自由だな。

そこまで考えて、いや。と、思い直す。
自由に見える。というのが、正しいだろう。
あの方は、自由を謳歌しているようで、多くのものに縛られているからな。
というか、限りある自由を存分に使うのが昔から上手い。
そういう所は、一生敵わないと思う。

そうこうしていれば、騎竜の準備が終わり、出立が可能であることを告げられる。

さて、私に出来ることをしに戻ろうか。
ミリィにまた、会うために。ミリィが住む地を守るために。
そして、無事に戻る。

そう、胸に刻み込み、私は騎竜へとまたがり、
北の辺境。北の国境。シュトラウス辺境伯領へと旅立った。
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