貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

34.辺境伯の思いと熱と②(ユミナ視点)

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自分のこらえ性のなさに驚くな・・・



テイラー邸の、応接間で私は過去のことを話していた。
とある令嬢を殿下と共に助け出した時の話だ。
今思えば、何故気づかない。と、思うことだが、とある令嬢はミリィだった。
そして、その流れでミリィの特殊能力について聞いた。
古の血による異能。殿下以外で身近には居なかった。
聞いてみれば、ある意味壮大な能力ではあった。
香りと記憶か。ミリィは何故その能力を必要としたのか。
テイラー家の養子であることと何か関係があるのだろうか。

そんなことを考えていれば、侯爵に散歩を勧められた。
何でも、クルツと領地に関する話をしたいから。とおっしゃっていた。
ミリィに聞かせたくない何かなのか、はたまた私に聞かせたくない何かなのか。
そう、勘ぐるものの大人しく、散歩に出掛けることにした。
なんでも、温室を案内してくれるらしい。

私は、ミリィと隣だって歩きながら、普段よりも少し距離を縮めることにした。
少し手を伸ばせば、腰を抱けるほどの距離に。
ミリィの様子をうかがえば、嫌がっているようには見えない。
これは、どちらかというと、戸惑いだろうか。
わたわたと慌てるように距離をとろうとしたのをそっと阻止する。
それ以降は、この距離で居てくれている。

それにしても、自分の行動に若干頭が痛くもある。
30手前でありなが、まるで10代のような行動をしているわけで。
もう少し、大人の余裕が欲しくはある。
そんなことを表には出さずに考えていれば、温室が見えてきたらしい。

「ユミナ様、あれが温室ですわ。今の時期ですと、南国のお花が咲くように調整されているはずです」

庭園の先のガラス張りの建物がみえる。
侯爵邸の庭に思っていたより立派な温室があることに驚く。
国家予算並みの資産を保有している。と言う話は眉唾ではないのかも知れないと片隅で思う。

「南国の花ですか。私は、南国には行ったことがないので、楽しみですね」

そういえば、私は南国には縁が無いなと思う。
領地が北にあるというのもあるとは思う。

「シュトラウス辺境伯領は確か、北にあるご領地ですものね」

「ええ」

どうやら、ミリィも同じ事を思ったらしい。
シュトラウス領は、国の北の端にある。
国全体が比較的暖かな国という事もあり、極寒の土地という程でもない。
ただ、国内で数少ない雪の降る領地の一つではある。

ミリィと連れだって、温室へと足を踏み入れる。
そこには、みたことの無い植物が多くあった。
色鮮やかで、ヒビットな色の植物が多い印象を受ける。

「これは、ハイビという花で、香りが少しきつめなのです。
実は、食虫植物なのだそうです」

温室を歩く間、ミリィが知るかぎりの知識で説明してくれる。
何だろうな。庭師の趣味なのか、テイラー家の方針なのかはわからないが、薬草として使うことのできるものや食虫植物が多い。
ミリィ自体もあまり嫌悪感を持っているようでもなく、食虫植物という花を綺麗だとか可愛いと評価している。
確かに、綺麗だし可愛い見た目をしているから、まちがいではない。
が、食虫植物と知っていてその評価をするミリィは令嬢として少し変わっていると思う。

温室を一通り見終わり、東屋へと向かう。
温室の東屋は広くはなく、一人がけの椅子が小さな机を挟み向かい合うように置かれている。
手を伸ばせば触れることの出来る距離ではあるが、必然的に距離が開く。

「少し名残惜しいな・・・」

思わずそう口にしていた。ミリィをチラリと見れば、よくわからないような顔をしている。
ミリィを椅子へと座らせながら、嫌がられている素振りや嫌悪感を感じている様には感じないし、これくらいなら許されるか?と思わずのように考え、意識することなく実行に移す。

ミリィがキチンと座るのを確認し、普通なら離すべき手を絡め取る。
指と指を絡め指の腹で滑らかな肌を感じながら、反応を確かめる。
咄嗟に手を引かれることもなく、嫌悪感は感じていないようだ。

名残惜しさを感じながら、しつこくならない頃合で手を離す。
私は、平静を装いながら向の席へと腰を落ち着ける。
顔は温室へと向け、目はミリィの様子を観察する。

どうやら、私の行動に戸惑いながら固まっているようだ。
無表情のようにも見える戸惑いの表情で頬を薄く染めている。

ああ。よくわからないながら、何かいたたまれなさを感じているよかもしれない。
少しの邪な思いがバレてなければよいがと思ったが、この調子なら大丈夫かもしれない。
やらかしておいてなんだが、見る物がみれば、いやらしいと非難を浴びる手つきだったからな。
若干遠い目をしながら、反省しておく。
カミラ殿下あたりにばれた日には、腹を抱えて笑われるのが目に見えている。
王太子殿下もダメだな・・・あれは絶対残念な目で見てくる。

ひとしきり、そんなことを考え終わり、再度ミリィを見ればまだ固まっていた。
こちらを恨めしげに見てはいるが・・・
自分の行動で反応が返ってくるのは、何というか面はゆいな・・・
そして、少し可笑しくもある。
17歳なのだから、慣れていないのは当たり前ではあるのだが、戦場に身を置くことの多い私の行動で、こう初心な反応が返ってくる。
10も年下の女性の反応に振り回されている。とか、可笑しい。
ハレスに旦那様は、もう少し情緒とか機微とか育てて下さい。と、眉間に皺を寄せ愚痴をすっぱくして言われるわけだな。

くくっと、思わず漏れた笑いに肩を揺らせば、ミリィに見とがめられる。


「・・・ユミナ様」

普段よりも少しだけ低い声。怒らせてしまっただろうか・・・

「いや。すまない。反応が可愛らしくて少々意地の悪いことをした」

素直にあやまると、少しだけ逡巡した後、ミリィが告げてくる。

「あまり、いじめないで下さい。それに・・・一人でわたわたしているのは、何だか寂しい気がします」

正直、驚いた。ミリィに寂しいと告げられたことに。
私も大概、わたわたしているんだがな。
年上の矜持というか、男のプライド的な何かで、表に出さないだけで。
この時、私は頭で考えるよりも、本能に近い何かで

「そうだな・・・」

と、答えながらミリィへと手を伸ばす。
触れるか触れないかのところで、温室へと誰かが踏み入った気配で我に返る。
手を引きながら、私は何をしようとしていたかを自問自答した。



そこまで、思い出したところで、頭を抱える。
自分の行動についてだ。

確かに同じ屋根の下にミリィが居ることに若干浮かれてはいた。それは、認める。
ミリィへの反応が可愛らしく、私の心がくすぐられている事も認める。
しかしだ・・・ミリィから決定的な何かをもらっていないこの状況で、私は何をしようとしていた?
たどり着く答えに、常識ある大人としてどうなんだと思う。
まさか、これ程にまで、理性が仕事をしないとは思わなかった。
こらえ性がないと言うことに気づかされ、いや。と否定する。
これは、多分あれだ。対ミリィに対してだけだ。
そうであってくれ。と、希望を含む結論を出し、片付けなければならない仕事をするために、私は書斎へと向かった。
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