貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

23.殿下の疑惑と公爵の思惑(ユミナ視点)

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考えれば、考えるだけ不自然さがでてくるな・・・



「また、両の目には、違法施術による洗脳の兆候は現れていない。
現在確認されている薬物の使用による、独特な体臭も確認されていない。
話術による洗脳の可能性は否定できないが、肯定するだけの材料も今のところ存在しない。こんなところでよろしいか」

私の言葉を聞き、クルツは考え込んでいる。

ふむ。議会資料と同じまとめ方をした調書から、違和感を拾えるだけの力は付けているのか。

議会資料は、様々な観点と視点をごちゃ混ぜに纏めている、乱雑な資料だ。
議席権を保持する貴族は、そこから小さな違和感や矛盾を拾って対応する能力を求められる。
それらの能力を持たぬ物は、無能と呼ばれ、悪ければ貴族位の剥奪もありえる。

ミリィの怪我や意識が戻らないこの現状で、まだまだ甘いところもあるが、年のわりにはよく出来ている方だ。
家令達もよく支えている。彼らの能力も高いのだろう。

テイラー侯爵家か・・・

テイラー侯爵家は、この国では知らないものはいないと言われるほどだ。
侯爵家だからと言うよりは、その歴史の長さともう一つの名によるものだ。
テイラー侯爵家は、国の歴史と共に存続している貴族の一つで、古の血族と呼ばれている。
そして、何よりも知と情報に長けている。
国の要職にこそ就いていないが、議席権を常に保持している。

ミリィの事がなければ、あまり近づきたい家ではなかったな。
シュトラウス家とは、家格が違いすぎるからな。

シュトラウス家は、どちらかと言えば新興貴族の一つだ。
辺境伯としては、古参の部類ではあるが。
辺境伯領は、広くはないが国境に隣接しているため、不信を感じられれば、直ぐに変えられる。
辺境伯が、完全に世襲ではない理由がそれだ。
とはいえ、シュトラウス家は現在ほぼ世襲になってはいるのだが。

テイラー家が知ならシュトラウス家は武と言えるだろう。

そうこうしているうちに、クルツが首を振り顔を上げた。

「何かを判断するには、少々情報が足りないですね」

「そうだな。私も同じ考えだな。
ふむ。第二王子殿下も昔はもっと思慮深い方だったのだがな。
ここ数年で何があったのか」

私は、クルツに私の知っていた第二王子殿下を教える。
実は、第二王子殿下の放蕩ほうとう殿下という噂は、ここ数年の話なのだと。
第二王子殿下は、御年17歳。因み、王太子殿下は18歳だ。
10歳位までの第二王子殿下は、勉強はお嫌いながらも、頑張られており、優秀な方だった。
それ以降は、私も辺境伯を襲名し、王都を離れていたのでよくわからない。
恐らく、クルツは10に満たない頃の話のはずだ。

クルツは、私の話を聞きながら、少し驚いている。

「言われてみれば、第二王子殿下のヒドい噂は、成人された頃からですね」

クルツの言葉に、頷く。
わが国では、15歳で成人として扱うため、ここ2年ほどの噂と評価が、過去からの評価のように扱われている。
成人して、公に出ることが増えたからと言えなくもないが、腑に落ちない部分がないとは言えない。
考えれば、考えるだけ不自然さがでてくる。
とは言え、ミリィに働いた狼藉は、許す気はないが。

「どちらにしろ、これ以上進むと何だか王位継承問題に巻き込まれそうな気がします」

クルツの言葉が、一瞬理解できなかったが、あぁ。と理解する。

「安心しろ。テイラー家は、わりとど真ん中にいるぞ」

「へ?」

クルツの間の抜けた返事に、笑いを堪えていると、部屋の扉が乱暴に開かれた。

ばぁんっ!!!

「ミラは、大丈夫なのか!?」

入ってきたのは、テイラー侯爵だった。
連絡をもらい、慌てて帰ってきたといった感じだ。

「お爺さま。お帰りなさい。姉さんは、目覚めれば大丈夫だと医者は言っていました」

侯爵にクルツが説明する。
私は、そっと席を立ち、侯爵に側を譲る。
私とか眼中になさそうだな。

「そうか。して、第二王子殿下は?」

「王宮にお帰り頂いております。あとこれを」

クルツは、先ほどまで自身が見ていた調書を侯爵に渡す。
読み進める内に、調書を持つ侯爵の手が小刻みに震え出す。
おそらく、握りつぶしたい衝動を堪えているんだろうな・・・

「うむ。して、シュトラウス殿はどちらに」

うん。わかっていた。気付いていらっしゃらないことは。

「・・・お爺さま。お隣に立ってらっしゃいます」

クルツが私に視線を向けながら、隣にいることを知らせる。
侯爵は、隣?と疑問符を浮かべながら、私を振り返る。

「おお!すまなんだ。ミラのことで気がはやって、気づかなんだ」

「いえ。お気になさらず。お邪魔しております」

侯爵とクルツと私は、先ほどの見解を含む話をする。
いくつか、侯爵の考えが挟まれるものの、概ねクルツと私がたどり着いた考えに落ち着く。

「少し、調べてみんといかんかの」

侯爵は、そう言うと考え込む。

テイラー侯爵は、公私で大分印象が変わるな。私的な場では、好々爺こうこうやといった感じだ。公的な場では、油断ならない爺なのだが・・・
そう言えば、継承問題について話していたんだった。
ミリィの枕元で話す話題ではないが、聞いてみるか。

「侯爵、ベルディナル公の動きについて何かご存じないですか」

私の言葉に、クルツは首をかしげているが、侯爵は私をうかがい見て、口を開く。

「王弟殿下からお聞きになったのか?」

「いえ。王弟殿下と王太子殿下の双方からおうかがいしました」

私の声に若干驚いたようだが、意地悪く聞いてくる。

「ふむ。王太子殿下が取込に来たか?」

それに、私は左右に首を振りつつ答える。

「辺境伯としては、継承問題に関わる気はないですよ」

そう答え、カミラ殿下の命に関わる何かが起きない限りは。と付け加える。

「相変わらず、食えぬ御仁よの」

その言葉に、曖昧に微笑みを返す。
辺境伯としては、継承問題に関わるつもりはなくとも、私はカミラ殿下の友人である。友人として友の命を失わせたくはない。
だから、シュトラウス家は、中立派の王弟殿下よりと言われるゆえんである。

「まぁよい」

そう、おっしゃり、侯爵は、話せるだけの内容を話してくださる。
クルツにも良い機会だとおっしゃって、話し始められた。

「現状、王位継承権保持者其れ其れに支持派閥ができておる。
テイラー家とシュトラウス家は中立派ではあるが、其れ其れ王太子殿下と王弟殿下とパイプがある。故に、其れ其れの殿下よりと言われておる。
一応、王太子殿下の派閥が大きく有利に働いておる。
だがの、第二王子殿下とテイラー家の婚約が浮上したことにより、第二王子殿下の派閥が勢いずいての。
その最たるものが、ベルディナル公爵家じゃ」

侯爵は、そこで一息つくとクルツの顔を伺う。
クルツは、一つうなずくと先を促す。

「ベルディナル公爵家は、こう考えた。
中立派のテイラー家が第二王子殿下と婚約すれば、第二王子殿下の派閥に取り込めると。まぁ、安直にもほどがあるわけなんじゃが、そこで更に安直にものを考えたわけじゃ。
シュトラウス殿と娘が婚約をすれば、シュトラウス殿も派閥に取り込めるとな。
テイラー家とシュトラウス家は、中立派では筆頭貴族にあたる。
それを取り込めれば、第二王子殿下の派閥は躍進するじゃろうが、わしもシュトラウス殿も第二王子殿下の派閥に下るつもりはないから、既に破綻しておる。
先代公爵も知略家ではなかったが、当代の公爵はあれじゃの。控えめに言って、馬鹿だ」

最後の言葉に、クルツと私は、苦笑を浮かべる。控えめに言って、馬鹿なのか・・・

「今のところベルディナル公自体は、これといって動きは確認できておらんが、シュトラウス殿の周りでなにかあったかの?」

「いえ。それ程のものはないです。ただ、粉をかけられまして、ミリィ・・・テイラー嬢に目撃されました」

私は、頭を抱え俯く。
そうだった・・・ミリィの誤解がまだ解けてなかったんだった・・・
色々ありすぎて、忘れていた。

「どうゆうことじゃ?」

私の代わりに、クルツが侯爵に今日あったことを伝えている。
ミリィを泣かせてしまった可能性まできっちりと・・・

「なんじゃ。そんな事があったのか。なるほどの。それで、シュトラウス殿が居合わせたのか。にしても、ミラも間が悪いのぉ」

侯爵は、何処か面白そうにしている。
目が・・・目が笑っている。面白がられている・・・侯爵も人が悪い。

「まぁ、ミラのことは当人同士に任せるとして、ベルディナル家が動き出したの可能性が高いの。
そうなると、第二王子殿下の件も早急に調べる必要があるか。
ふむ。どうするかの」

侯爵は、私をうかがうように目線を向けてきた。
うかがうと言うよりは、品定めのような目線だな。これは。
私がいる場所で、話すべきかどうか迷う話題でもあるのだろうか。
しばらく、腹の探り合いをお互いにしていたが、私の忍耐が尽きそうなタイミングで、侯爵が口を開いた。

「シュトラウス殿なら、まぁよいか。これから話すこと見ることは、他言無用で頼む」

「承知しました」

何のことかはわからないが、テイラー家の機密に関わることのような気がする。
・・・さっさと、席を外しておいた方が賢明だったかもしれない。
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