貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

18.殿下の短絡と騎士の憂鬱②(カイナ視点)

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辺境伯は怒らしては駄目だ。
本当に怖い。


第二王子殿下の陰が程なくミリュエラの居場所を突き止めてきた。
どうやら、市中を駆け抜けて馬車に乗り込んだところに出くわしたらしい。
そして、殿下はミリュエラのアトリエへと向かう。

アトリエに着いて直ぐひと悶着あった。
それはそうだ。先触れも何もなく、突然の訪問なのだから。
王子がこれで良いのかよ。ほんとに。常識が迷子だよな。

テイラー家の家令と若干もめていると、ミリュエラが姿を現した。
どうやら、騒ぎを聞きつけたらしい。

「やぁ。テイラー嬢。少々、信じられない話を小耳にはさんでね。態々わざわざ来てしまったよ」

いや、殿下。それ駄目だから・・・
私は、殿下にバレないよう、ミリュエラにすまんと軽く頭を下げる。
ミリュエラは、私の意図を読み取ってくれたのか、小さく肩をすくめる。

「態々お越し頂き、恐縮です。殿下に立ち話もなんでございますあので、応接室へどうぞ」

ミリュエラの言葉には、若干の棘を感じる。
これは、来なくて良いのに。とか、思ってそうだな。

応接室に入ると、殿下はさっさとひとつある大きめのソファへと腰を下ろす。
メイドは、淹れ立てのお茶を殿下の前へ置き、ミリュエラの背後へと下がる。
王族相手に毒味なしで茶を出すとか、歓迎する気ないな。これは。

王族を出迎える際、お出しするお茶から菓子まで毒味を行う。
基本は、侍従をつれているから、彼らが行う。
だが、今日のように侍従を連れず、毒味役が居ない場合は、もてなす側が王族の前で毒味を行う。
王族に対し、敵意がありません。と表明する機会でもある。

だが、今回テイラー家は、毒味を行わなかった。
それが、何を意味するのか。
一番想像しやすいのは、敵意があるという表明。
もう一つは、歓迎していない表明。

今回は、おそらく後者であろう。
侯爵やクルツが居れば、前者を否定しきれないが。

第二王子殿下は、気にした様子もなく話し出される。

「今日来たのは、信じられない話を小耳にはさんだからなんだ」

信じられない話と言うのは、言うまでもなくシュトラウス辺境伯とミリュエラの親交の事だ。
ぶっちゃけると、第二王子殿下とミリュエラはまだ婚約すらしてないし、正式な顔合わせすらしていない。
なので、ミリュエラが誰と親交を深めようと第二王子殿下が口出しできる話ではない。はずなんだがな・・・
あぁ。そう言えば、ミリュエラが婚約を断るって話も聞いているから、そちらの可能性もあるのか。
まぁ、どちらにしろ現段階で殿下がとやかく言える話ではない。はずなのに、なんでここに居るんだろうなぁ・・・

少し遠い目をしながら、王太子殿下の指示があるため、殿下の後ろに待機する。
あ。これ、もしかしなくても、殿下が暴走ひたら、私が止めないと駄目なのか?・・・侍従居ないし、駄目なんだろうなぁ・・・
ミリュエラに何かあっても嫌だし、頑張るしかないか。

「テイラー嬢が私との婚約を断ろうとしている。というモノなんだけれどね」

それから、殿下は頭の痛くなるような理由をつらつらと述べられています。
これ、王が聞いたら、また頭を抱えて胃痛と闘う羽目になるのでは?
そんな事を思いながら、ミリュエラに目を向ければ、目が死んでいた。
表情こそさして変わらなかったが、目が色々物語っていた。
そんな表情のミリュエラが助けを求めるように私に視線を送ってきた。

『すまん。私には殿下の口をふさぐことはできん』

そんな思いを込め、私は肩をすくめ、頭を左右にふる。
私の意図を組んだのか、ミリュエラは遠い目をし、覚悟を決めたような表情を見せる。

「殿下。大変申し訳ないのですが、わたくしには王子妃は務まらないと思いますので、お断りさせていただく予定でございました」

ミリュエラはストレートに断りの言葉を口にした。
多分、若干自棄やけを起こしている。まぁ、わからなくもないな。
おそらくだが、ミリュエラは十分王子妃を務めるだけの教養は持っている。
その上で、断りの言葉を言われている。と考えれば、第二王子殿下の未来はあれだよな。
そんな感じで、現実逃避をしていたため、私の反応は少しばかり遅れた。

「なっ!?なぜだ!」

気づいた時には、第二王子殿下はミリュエラへ詰め寄っていました。
まずい。お止めしないと。殿下はどうでもよいが、ミリュエラにけがはさせたくない。

「な、何故と申されましても…先ほど申し上げ」

「お前には断る理由がないだろ!氷の毒華と呼ばれているお前ごときが!」

くそ。なんで、こんなバカが第二王子なんだ。
私は、内心悪態をつきながら、ミリュエラを伺いみる。
若干おびえてはいるようだが、殿下へのあきれも見え隠れしていた。
とりあえず、大丈…

「危ないっ!」

私の声は、声として発せられていたかはわからない。
殿下の腕をつかみ、それ以上ミリュエラに近づけないようにした矢先、ミリュエラがソファーに足を取られ、バランスを崩した。
私は、殿下の勢いを止めきれず、さらにミリュエラに近づけてしまった。それが原因で、ミリュエラは更にバランスを崩し、暖炉に向けて倒れていく。

ごんっ

「姉さん!」

ミリュエラは、暖炉の角に頭をぶつけ、駆け込んできたクルツに抱き留められている。
くそ。私の責任だ。そばにいながら、みすみす怪我をさせるなど。
私は、押し寄せる自己嫌悪と格闘しながら、クルツの後から入ってきた男性へと目を向ける。

「殿下。一体何があったのかお教え願えますか」

ひゅっ

私は、殿下に向けられた怒気の余波で、息をつめのどが鳴った。
騎士になって、初めて感じる類の恐怖だった。一瞬、首が飛ぶかと思った。

「私は悪くない!!!」

この怒気を向けれてもなお、殿下は自分のせいではない。と反論されました。
それを受け、眉間にしわを寄せ、彼は私へと目配せを送ってきました。

…私が、第二王子殿下付きではないとご存じなのか?
いや、私が王太子殿下の命で第二王子殿下についていることは、一部の人間しか知らないはず。
しかし、彼は私を知っているようだが…
私は、頭の中で彼の顔と貴族名鑑を照合していく。
そして、頭を抱えたくなった。
う…ぁ…まじか。あれが、シュトラウス辺境伯か。辺境を預かっているだけあって、半端ないな。
私は、殿下の腕をつかんだままそんなことを考える。
その間、シュトラウス辺境伯は、諸々の指示を出している。流石、現当主である。

「シトラン殿、部屋の準備ができ次第、殿下と隣へ移って頂き、話を聞かせて下さい」

「はい。承知しております。私の力不足で申し訳ありません」

私は、辺境伯とクルツに対し、謝罪とともに頭を下げます。
殿下は、身動きされることなく俯かれています。
辺境伯はミリュエラの側によられるのを確認し、私は殿下の腕を引きソファーへと座らせる。
殿下はなされるがまま特に反応を示さない。しかし、私は殿下から目を離すことなく、先ほどの辺境伯の怒気を思い出す。
あれは、本当に怖かった。生きてきた中で一番恐怖を感じた。
辺境領を預かる領主で、本人も前線に立たれるだけはある。
実践を知るものと知らぬものの差を見せつけられた気がした。
そんな彼を怒らしてしまった第二王子殿下には同情しなくもないが、自業自得だと思う方が強い。
おそらく、施政者としての資質に難ありと思われることだろう。
そんなことを思いながら、私は心に一つの誓いを立てる。

シュトラウス辺境伯は怒らせてはいけないと。
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