貴方様と私の計略

Ⅰ.貴方様と私の計略 ～ 出会いそして約束 ～

17.殿下の短絡と騎士の憂鬱①(カイナ視点)

あれだな。
この方は多分ダメだ。軽率過ぎる。


私の名前は、カイナ・シトラン。
シトラン伯爵家の次期当主の座に一応付いている。
今は、王太子殿下付きの護衛騎士の職を賜っており、王位継承後は側仕えの騎士となる予定である。
しかし、現在は王太子殿下の指示で第二王子殿下の護衛として付いている。
指示を受けた当初は、第二王子殿下に何故付かなければならないのか、全くわからなかったが、数日程護衛に付くことで、その理由を理解した。

友人のミリュエラが第二王子殿下の婚約者候補の筆頭となっていた。
しかも、テイラー家を蚊帳の外に置いた状態でだ。
侯爵とクルツが、王と王弟殿下おうていでんかの御前で、第二王子殿下をお隠しするとかしないとか言っていたらしい。
あそこは、現当主も次期当主も過激だよな。
しかも、王と王弟殿下の御前でそんな話をしたにもかかわらず、罰せられていないとか。
考えるだけで恐ろしい。あまり、深く考えて片足でも突っ込んでしまったら、私の平穏はなくなるのが目に見えている。
触らぬ神にたたりなしだな。

まぁ、そんな感じで、テイラー家自体は第二王子殿下との婚約は願い下げとばかりにする気が無い。
ミリュエラの意思を尊重する。ってことで、話が付いたらしい。

第二王子殿下は、顔はお綺麗だし女好きする出で立ちではあるのだが･･･
はっきり言って、ミリュエラの好みではないと思う。
彼女の好みは、もう少しこう筋肉質な感じだし、何より馬鹿は嫌いのはずだ。
第二王子殿下は、王も認めるほど頭がよろしくない。
それなのに、継承権が二番目と言うことに、王は頭を痛めていた。
うん。王も気苦労が絶えないな。

で、当の第二王子殿下なのだが、ミリュエラとの婚約はわりと乗り気のようだ。
決して、好きだとかそう言った好意的な感情からではない。
ミリュエラは感情が乏しそうだから、都合が良い。と言った感情からだ。
第二王子殿下の言を借りるとこう言う理由らしい。

氷の毒華は、感情が見えない。
と言うことは、感情が乏しいと言うことだ。
ならば、私が今までと同じ様に生活していても、何も感じないだろうから都合が良い。
私はまだ、結婚する気も一人に絞る気もないのだから。

そう、側仕えの侍従じじゅうに声高こわだかに話しているのを聞いた。
聞いたときは、耳を疑った。殿下とあろう者が何を言っているのだと。勘違いも甚だしいと。

確かに、ミリュエラは氷の毒華と呼ばれている。
表情が凍った様に動かず、知略を労するかららしいが。
私から言わせれば、彼女の表情は動かないわけじゃない。
確かに、大きく動くわけではないが、ちゃんと見ていれば分かりにくくはあるが、感情を読み取ることが出来る。
そして、何も感じないわけでもないし、図太いわけでもない。
確かに、普通の令嬢とは違った強さを発揮するが、普通に悲しむし傷つきもする。

だから、私は第二王子殿下とミリュエラの婚約は反対だ。
私が反対したところで、何の足しにもならないのだが･･･


ある日、第二王子殿下の元に一つの噂が届いた。
ミリュエラが、第二王子殿下との婚約を望んでいない。と言った噂だ。
出処を探ってはみたが、わからなかった。
ただ、噂の内容と広がっている層から考えると、第二王子殿下を支持する派閥からではないかと思っている。

最初は、第二王子殿下もただの噂だと、静観しているように見えた。
腹の底でどう思っているかは、うかがい知れなかったが。
でも、ミリュエラが辺境伯と懇意にしているという話を聞いて、態度が一変した。

「何故、氷の毒華は、辺境伯と懇意にしている？！私との婚約の話が出ていると言うのに！！」

「殿下。落ち着いてください」

殿下の剣幕に少々腰が引けながらも、侍従が殿下を落ち着かせようと声を掛ける。
しかし、効果のほどはないようだ。

「氷の毒華は、腰が軽いのか？！」

その言葉に、キレるかと思ったが、何とか堪える。

「一度、窘たしなめる必要があるな！」

殿下は、そう言って自身の陰にミリュエラの居場所を探るよ指示を出された。

･･･陰にそんなことさせるなよ。何のための、陰にだと思っているんだ？
私は、そう思うことを止められなかった。

にしても、殿下の行動は、この国の王子の行動としては、いただけないものだった。
軽率で考えなし。私的で感情的。
どれをとっても、施政者として多分ダメだ。