番様と私

羽柴 玲

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❤︎拾われた僕と拾った私  壱 sideクリストフ

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 一番始めに感じたのは、甘い匂いだった。
 誘われるように、入った路地裏で見つけたのは、変わった毛色の子猫だった。
 いや、正確にはサビイロネコという種らしいが、よくわからない。ただ、子猫ではなく成体らしい。秘書が「世界最小のネコなんですよ!」と鼻息荒く言っていた。私としては「そうか」という感想しかない。
 そもそも、私や秘書もネコの亜人だ。種は、私がクロアシネコで秘書がサーバルだ。
 とはいえ、人型をとってしまえば、獣化した時の大きさは関係ない。成人していれば、成人らしいサイズになる。現に、獣化時は秘書の方が大きいが、人型は私の方が大きい。
 ん?ああ。申し遅れた。私の名は、クリストフ・メーベル。メーベル商会の商会長を務めている。
 容姿は、ネコの亜人としては、一般的なのではないか?髪は限りなく黒に近い灰。耳と尾は種としての耳をそのままだ。身長は壱九〇ほど。それなりに鍛えているので、細身のわりには筋肉がある方だと自負している。

 さて、話を冒頭に戻すが、やはりサビイロネコから甘い匂いがする。
 少し衰弱はしているようだが、これくらいであればしばく様子を見れば大丈夫だろう。私は、サビイロネコを胸に抱き、商会の事務所兼屋敷へと帰った。

 ❧❧❦❧❧

 寝起きの悪い私でも、あの朝は驚きに目が覚めた。
 だってそうだろう。身に覚えもない女が裸で私の腕の中で眠っていたのだから。
 女の容姿は、美女と言えるかはよくわからないが、少なくとも私の好みではあった。チラリと見える胸元は、慎ましやかなところも悪くはない。女を彩るように散る金茶の髪が艶めかしさを感じさせた。
 前夜はいつもと変わらず床についたはずだった。一月ほど前に、拾ったサビイロネコを抱いて寝るのも、この一週間の日常だった。
 では、この女は何処どこから現れたのか。警備の隙をつけるほど、甘い警備をしているつもりはない。
 それに、何よりも頭が痛いのは、この女に私が反応していることだった。欲望が首をもたげ芯が通りつつある。体も心なしか熱い。何より本能的に、触れたいと思っていた。
 無意識に手を伸ばし、首から鎖骨へと指先を這わし、胸元へと到達するかしないかのタイミングで、女が身動みじろぎした。そして、寝返りを打つタイミングで、ポンッと姿を消した。
 慌てて女のいた場所に触れ、見回すが女の姿はない。いるのは昨夜床を共にした、サビイロネコだけだった。
───これは、甘い匂い…か?サビイロネコから?
 そう感じていれば、身体の熱は治まることを知らず、痛いほどの情欲に満たされている。
「はぁ…」
 私は身を起こし、バスルームへと向かう。どうやら、熱を発散させねばどうにもならないらしいことを理解する。
 何故なぜと、思わないこともない。今まで、これ程までに欲望に満たされ、情欲をかき立てられたことはない。ましてや、発散させねば治まらないほどの熱は、経験したことがなかった。
 シャワーから落ちる湯は、何時いつもより暑く感じる。己の身体が熱いためだろうか?欲望がしっかりと首をもたげ、芯を通していることを確認する。今まで触れもせず、これ程までになったことはあっただろうか?記憶を探ってみるが、心当たりはない。
 私は私自身へと手を伸ばし、優しくて宛がってやる。それは、やはり硬く、芯を通していた。軽く握り扱いてやる。
 脳裏には無意識に先ほどの女の姿が浮かぶ。
 触れた首は細く…それでいて柔らかくて…触れることが叶わなかったあの慎ましやかな胸は柔らかかったのだろうか。
 脳裏で私は、その胸へと触れる。

────…
 手のひらにすっぽりと隠れるそれを、軽く刺激してやれば、女の頬は上気し口元が艶めかしく小さく開いていくのがわかる。
 感じるはずもないのに、胸の頂が主張を始めたことを手のひらに感じる。
 硬く芯を持ち始めた実を指先で挟み、しごく。指の腹でりつけるように撫で回し、唇を寄せる。舌先でつつき、そして舐め上げる。唇でしごきながらも、時折歯をたてる。女が軽く身をよじるさまに、気を良くした私は、片手を細くしなやかなももへと指先を這わしてやれば、女が足をりつけるように動いていることに気づく。
 何度か指先で、ももを撫で上げ、そっと内股うちももへと触れ大きくわり開く。私自身の体を間へと埋め、閉じられぬように固定する。
 女の秘所へと指を這わせれば、しとどにれていた。花弁を開き、蜜壺みつつぼの入り口を中指の腹で円をえがくように撫でる。蜜壺みつつぼへと入れぬように、細心の注意を払って刺激してやれば、指先に蜜が絡み、枯れぬことを知らぬように次々と溢れる蜜と合わさり、ぬちゅぬちゅと卑猥ひわい艶美えんびな音が私の耳を楽しませる。
 親指で花芯かしんを探り当て、腹で撫で回してやれば、女の身体が跳ね、その拍子に蜜壺みつつぼを撫でていた指が『くちゅん』という音をさせ中へと入り込む。
 しばくそのままで、『にちにち』と粘つくような音をさせながら、親指で花芯かしんを触れ続けていれば、蜜壺みつつぼがうねり収縮する。
 女の身体が緊張し弛緩しかんするのを感じながら、指を根元まですさめ、指先で腹の裏側辺りを刺激してやる。『くちゅくちゅ』という音を楽しみながら、二本、三本と指を埋めていく。
 女の顔は、卑猥ひわいに歪み、艶麗えんれいとした姿を惜しげもなく晒している。
 指の刺激は止めることなく、眺めていれば、とろんととろけた瞳に、なまめかしい口元に目が奪われる。少し視線を下げてやれば、慎ましやかな胸に、しっかりと主張する頂が目に入る。
 両乳房の間と頂のすぐ側へと咲かせた花がくっきりと見てとれた。
 胸へと空いた片手を伸ばし、手とは反対側へと顔を寄せる。てのひらと指先、唇と舌とで刺激を増やしてやれば、女は達したようたった。しばく刺激を続けてやれば、こわばりは溶け弛緩しかんした肉体を投げ出し、与えられている刺激を甘受かんじゅしているのだろう。
 私は、『ぐちゅん』という水音と共に指を引き抜き、己の芯が痛いほどの通った欲望を、女の花弁へと宛がった。二、三度蜜を絡めるように、花弁へとすれつけてやれば、女は身をよじる。
 私はそれを許さぬように押さえつけ、蜜壺みつつぼへと欲望を導き一気に突き上げる。すぐに抜けるほどにまで、腰を引き今度は焦らすように突き入れる。『ぐちゃぐちゃ』という音に、更に欲望を高めながら私は女を突き上げる。
 しばむさぼるように抽挿ちゅうそうを続けていれば、女が達した。私もしば抽挿ちゅうそうを続けていれば、女の中へと欲望をはき出した。
…────

「うっ…」
 肌を滑り落ちる熱を感じながら、閉じていた瞳を開く。
 私の手とそして、腰の辺りの壁へと己の欲望が吐き出されていることが見てとれた。
「はぁ…」
 胸には、達したばかりの開放感と少しの虚無感を感じていた。
 一体何をしているんだ。そういう思いが、おそらく虚無感を感じさせるのだろう。
 シャワーで己の欲望と汗を洗い流し、浴室をあとにする。そして私は、今朝のことなどおくびにもださず、仕事へと向かった。

 ❧❧❦❧❧

 あれから、何度目の朝を迎えただろうか。
 信じられないことに、あの女は毎朝の一時いっときに私のベッドへと現れる。
 私は、何かに突き動かされるように、彼女へと触れていった。肩から二の腕。掌に触れ、手を繋いだ。頬に触れた日もある。腹に触れ、脇腹から腰へ。ももに触れた。尻に触れ尻尾の付け根を撫でた日もあった。

 今日は、頬に触れ、口づけを落とし、胸に触れたところで消えた。
 彼女の胸は、慎ましやかでありながら、柔らかかった。

 彼女に触れてわかったことは、私の想像よりもずっと柔らかくて滑らかだったことだ。何処どこを触っても、滑らかで指が吸い付くようだった。 
 痩せすぎではない、細くしなやかな身体に私自身が溺れていることを自覚せずには、いられなかった。

 彼女から感じる甘い匂いは、フェロモンなのだろう。私を誘い、欲情させる匂いだ。そこまで考えて、私はあることに思いいたる。

───…つがい

 確か、つがいはフェロモンでわかるはずだ。
 なんだったか…甘い蜜のような香りと欲情。それから…抗えない束縛。そして、命をかけた愛情と嫉妬。だったか。
 確かに私は、彼女に甘い匂いを感じている。しかし、それはサビイロネコも一緒だ。あれからも、甘い匂いがしている。
 欲情は…否定できない。毎朝彼女に触れ、その後に彼女で吐き出しているのだから。
 抗えない束縛、命をかけた愛情と嫉妬は、わからないな。あぁ…でも、彼女が他の男のところで、素肌を晒し、ましてや受け入れているとしたら、受け入れがたいな。相手の男を痛めつけるだけで気が済むだろうか…いや、無理な気がするな。となると、これが嫉妬か…
 彼女は、まだ私のものではないというのにな。
 そうなると、つがいの可能性を切って捨てるのは難しいな。
「はぁ…」
 そして、私は今日もバスルームへと向かう。痛いほどに主張をしている欲望と情欲を彼女で吐き出すために。

 ❧❧❦❧❧

 今日のサビイロネコは、どこかそわそわしていた。落ち着きがなく、ウロウロしては、私の顔を伺い、すり寄ってくる。それを永遠と続けていた。夜になっても、それは続いていた。不思議に思いながらも、してやれることもわからない。
 そろそろ寝るかという段になって、サビイロネコがもの言いたげに、私の足元に座った。
「どうした」
 特に何か考えていたわけではないが、サビイロネコへと問いかける。
 答えがもらえるとは思っていない。ただ、今日のサビイロネコの行動がいつもと違っていて心配していたから、口をついて出てきてしまっただけだ。
んにゃーごめんなさい
 サビイロネコが小さく鳴くと共に、白銀しろがね色の光がサビイロネコを包んでいた。
 しばくすれば、白銀しろがね色の光が晴れ、お仕着せを身にまとった女性が、座り込んでいた。

 女性は、座り込んだ状態で頭を下げている。彼女のまとっているお仕着せは、上品でそして落ち着いたものだった。何処どこかいいところへ勤めていたのかもしれない。
「君は…亜人だったのか…」
 頭ではいろいろと別のことを考えていたはずなのに、まず口をついて出た言葉はそれだった。
 サビイロネコは、獣であり獣人であるなどと考えていなかったからかもしれない。ただ、今思い返してみれば、聞き分けの良さや、こちらの言葉を正しく理解して行動している節があったなと思う。気づかなかったのは、思い込みと私が迂闊だからなのだろう。
「騙すようなことをしてしまい、申し訳ありません」
 サビイロネコの亜人の声は、少し低めの声だった。けれど、女性らしさを感じないわけではない。むしろ、女性らしい柔らかで涼やかな印象を受ける。
「黙っていれば、私は気づかなかったと思うが、どうして明かす気になったんだ?」
 サビイロネコは、頭を下げたままけれど、ゆっくりと話始めた。
「僕が黙っていることに耐えられなくなったから。僕の名前は、キャロライン。キャロルと呼ばれていました。貴方は、クリストフ・メーベル様でいらっしゃいますよね」
 彼女…キャロラインは、どうやら私のことを知っているらしい。いや、私と共に生活する上で知ったと言った方がいいのか?
「ああ。私は、クリストフ・メーベル。メーベル商会の商会長だ。キャロラインは聞いたことはないが、キャロルという名の君ぐらいの女性なら知っている。おとぎのネコワンダーキャットの姫に使える侍女長が同じ名前だったと記憶しているが」
 私は以前、おとぎのネコワンダーキャットへいったことがある。一度きりではあったが、姫に呼び出されたからだ。その際に、耳にした侍女長の名が、キャロル。確か、聡明な女性である一方、かわいげのない女性だと噂されていた気がする。
───彼女がその侍女長だったとすれば、思ったよりも若い女性だったのだな…
「はい。僕がそのキャロルです。分け合って、城を追い出され、職に就くこともできず、飢えて力尽きたところを拾っていただきました。僕は人を信じるのが怖かった。だから、メーベル様も信じることができませんでした」
 キャロラインの声は、少し震えているようで、どんどんとか細くなっている。
 頭を下げ続ける彼女の、ベッドへとついている指先も少し震えているように見える。
「そうか。何があったのか気になるところではあるが…何故なぜ話す気に?」
 私は再度問いかける。何故なぜ、私に明かす気になったのか。最初の問いの答えをまだもらっていないから。
「先ほども申しましたが、僕が黙っていることに耐えられなくなったから。メーベル様は優しかった。衰弱していた僕にご飯と暖かな寝床をくれました。僕が慣れるまで、一定の距離を保ってくれました。男性が怖かった僕でも、貴方の傍は心地よかった。僕は思ったよりも単純だったみたいです。だから…」
 キャロラインは、そこまで言って口を噤んでしまった。
 それにしても、彼女はいくつか気になることを言っていた。
 おとぎのネコワンダーキャットを追い出されたこと。人間不信であること。男性が怖いということ。城の侍女長を務めたほどの者が職に就けなかったこと。
───そういえば、姫の婚約者はキツネの亜人だったか?ネコの亜人とは相性最悪だろうに。
 基本的に一夫一妻であるネコの亜人と一夫多妻であるキツネの亜人では、恋愛観も結婚観も違うだろうに。
───確か…浮き名を流していた気がするな。あまり私は詳しくはないが…
 そんなことを考えていれば、キャロラインが徐に顔を上げた。
「貴方を好きになってしまった」
「彼女は君だったのか」
 いつもの顔で、でもいつもと違う表情の彼女が、私の足元に座っていた。
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