わたくしのこと“干物女”って言いましたよね?

鼻血の親分

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32話 詫びなさいよ、このクズ野郎っ!

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件名: 業務連絡

ランチにパスタ食べに行かない? 

東薔薇ハルト
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RE: 業務連絡

すみません。同僚とランチミーティングがあるので行けません。 

綾坂花
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

謝恩会以来、彼が出勤する日はいつもお誘いを受けていた。だけど気が乗らないので常に全力でお断りしてる。主任にはお世話になった反面、益々嫌いになっていたし、私は新卒女子や有志一同と食堂へ行くのが楽しみになっていたからだ。

でも、今回は是非とも行かねばならない。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
RE: 業務連絡

お誘いありがとうございます。同席させて頂きます。 

綾坂花
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
RE: 業務連絡

嬉しいよ、花。おごるね! 

東薔薇ハルト
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こ、こいつ、馴れ馴れしいな。しかも社内メールを私的利用しやがって。件名が“業務連絡”って何が業務なのよ。違うでしょうが。

よぉし、彼を問い詰めてやる。三年前のことを……


「花、この店、来たことあるかい?」
「いえ、ございませんが人気があるようですね」

見渡す限り満席に近い。まぁ殆どの社員だろうけど。食堂に飽きた皆さんがより美味しい昼食を求めて付近の店に群がっているのだ。

私は差し出されたパスタを口にしながら、強引に彼の雑談を遮って話を切り出すことにした。

「東薔薇主任、三年前のお話を聞かせてください」
「……ん?どうかした?」
彼はそれだけではピンと来ないようだ。
「主任が入社三年目に新卒女子の教育係を担当したこと、覚えてますよね?」
その言葉を発した途端、彼のフォークが止まった。
「な、何の話かと思ったら。まぁ覚えてるよ」
「伊集院ララ様……で間違いないですか?」
「ああ。で、彼女との関係は?あ、そっか。確か弟が生産管理に居るよな。謝恩会にも来てたしね。君と仲良さそうだったけど」
「はい。ご縁あって親しくさせて頂いてます」
「うむ、それを聞こうと思ってたんだ。二人は付き合ってるの?」

あ、あの、そう言う話は今どうでもいいでしょ。ったく軌道修正しなければ。

「いえ。友人です」
「そっかー、安心したよ」
「えっと、話を戻しますが主任はララ様が退職された原因、ご存知ですよね?」

彼は困った表情のまま愛想笑いを浮かべ、誤魔化そうとしていた。

「うーん、どうだろう。でも何で昔の話を聞くんだ?弟に何か頼まれたのかい?」
「いえ、彼は全く関知してません。主任、正直にお答えください。ララ様が殺されたこと、知ってました?」

その質問に彼は言葉が詰まった。暫く沈黙したけど、その重い口が開く。

「ニュースで見て知ったよ。色々ショックだった」
「色々……ですか?」
「ああ、殺されたのは勿論だが、あの娘が風俗で働いてたなんてショックだったよ」
「まぁそれはさておき……ララ様が退職する前、悩んで主任へご相談した事案についてですが」
「ま、待って。何が言いたいんだ?」
「セクハラのことです。主任は音声データをお受け取りになった。そのデータは今もありますか?」

明らかに彼は焦っていた。彼女を助けなかった後ろめたさがあるのだろう。それに私がここまで知ってるのは、どう考えても弟が絡んでる話だと自己判断したようだ。

「さ、探せば……あの、どうしようと?まさか部長を疑ってるのか?」
「お察しの通り。そのデータを私に送って頂けないでしょうか?」
「だから、今更どうする?」
「主任、それをお答えする前に言わせてください」
「な、なんだ」
「彼女から相談されたにも関わらず、なぜ適切に対応しなかったのですか?」
「それは……つまり、課長に忖度したと言うか……表沙汰にする勇気がなかったから……」
「はぁ?見損ないましたわ。あの時、主任が動いてくれたなら彼女の運命は変わっていたはず。殺されずに済んだかもしれないのに」
「……後悔はしてる」

段々腹が立ってきた。ガツンと言ってやる。

「だったらとっととデータよこしなさい!あなたのような気の小さい奴が教育係でホント残念でしたわ。せめてララ様に詫びなさいよ、このっ!」

彼は私の口調に驚き、口元が微かに震えていた。

「は、はなさぁぁん、怖いよ。分かった。詫びるから。……す、すみませんでした、伊集院さん。あなたの訴えを見捨てて退職させてしまい……ご、ごめんなさい……」

ふんっだ。

それ以降、東薔薇からの誘いは無くなった。






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