わたくしのこと“干物女”って言いましたよね?

鼻血の親分

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29話 これは一生の宝物だ。

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件名: 池園絵梨花さんの異動について

池園専務取締役様

購買部外注課の綾坂花と申します。突然のメールで恐縮ですが、何卒ご一読賜りますようお願い申し上げます。

私は当課に所属し、池園絵梨花さんから日常的にモラルハラスメントを受けております。詳細につきましては、リンク先のフォルダーをご確認いただけますと幸いです。なお、この件に関しては人事労政や組合への相談は現状では検討しておりませんが、彼女には責任を取らせていただく形での配置転換を実施する運びとなりましたこと、ご報告申し上げます。

購買部外注課 綾坂花
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膨大なギガバイトのデータがあるけど、全部送っちゃえー。……はい、送信っと。

『花、これでどう出るかしらねぇ』
『御父様が火消しするなら、とことん闘います』
『うふふ、強くなったわねー』

自分でもそう思う。ちょっと前までこんな日が来るなんて想像出来なかった。全てララ様のおかげだと言っても過言ではない。
仕事に関しても、押し付けられたから課の業務内容は全部知ってる。誰よりもできるって自負してる。
それに、容姿もララ様の生まれ変わりのようで前とは違って美しいに違いない。
まぁ人見知りの性格はまだあるけど、周りが暖かく接してくれるようになって少しずつ慣れてきた。

つまり、私は自信がついたのだ。

「先輩、お昼一緒にどう?」
「あ、そうね。えーと……」
「綾坂さーん、皆んなで食堂だよー」
「なるほど、食堂ね」

って、当たり前だよね。いつも屋上で一人ぼっちだったのが異常だったんだ。私は仲間と一緒に食堂へ行く。こんな日常に少し感動しながら昼食を共にした。

食堂から戻ってメールを確認するけど、専務からの返事はまだ来ていない。メール機能の予定表を見ると、空いている時間もあるから、少なくとも内容をチェックしてるのは間違いないだろうけど、もしかして内容を見て悩んでいるのかな?

──と、その時だった。

「ああああっ!」

大きな叫び声が聞こえてきた。慌てて課長が走って扉の前に立つ。

「ここここれは、専務!如何されましたか?」
なんと、そこには血相変えた池園専務が仁王立ちしていたのだ。

ええっ、まさかの乗り込み!?自ら!?

「うむ。……綾坂さんって誰だ?」
ヤ、ヤバいよ。どうすればいいの!?
でも逃げる訳にはいかない。私は怖くて目を閉じながらも、そっと手を挙げた。

「は、はい。綾坂花です」

フロアが凍りつく。そこへ弾けた声が聞こえてきた。

「御父様ーん!」
「絵梨花!こっちへ来なさい」
「はーい。うふふ」

彼女は専務に甘えるように寄り添いながらも、私には鬼の形相で思い切り睨む。

「御父様ー、この娘がわたくしを脅すのですう」
「うむ。綾坂さんとやら」
「はい」
「あのメールを確認したが……」

ふふん。と、絵梨花は勝ち誇っている。ちなみにお局は神妙な面持ちで固唾を呑んでいた。いえ、皆さん全員がそうだ。

万事休す、絶対絶命、孤立無援、八方塞がり、刀折れ矢尽きる……か。

──ところが、


「えっ……お、御父様?」
「申し訳なかった!」

は?謝罪?起死回生、一発逆転なの?

なんと専務は娘の非を認め詫びたのだ。

「おい、お前もしっかり謝らんかっ!この大馬鹿者がぁ!」

バッチーーン!

「ひぃぃっ!」

さらに平手打ちって!?今の時代、許されない暴挙ですわよ?専務、いくら実の娘だからって皆さんの前で!

「ほら!綾坂さんに謝れ!絵梨花!」
「あぁぁ、ご、ごめんな……うっう、うぇーん」
「おい、ちゃんとしないか!」
「だってぇぇ、ひっく」
「お前が悪いんだ!謝らないと許さんぞ!」
「ご、ごめんなしゃい……あやさかさん。わたくしがわるうございましたぁぁ……ゆるしてくださぁいぃ、あーん」

絵梨花は涙と鼻水を垂らしまくって号泣し、深々と頭を下げた。

こ、子供か!

「綾坂さん、本当に申し訳なかった。娘は私が引き取る。もう二度と此処へは来させない。それで許して貰えないか?」
「は、はい。元よりそのつもりでございます。専務、ケジメつけて頂きありがとうございました」

この時、後輩男子がビデオカメラを回していたのにふと気がついた。あの泣き顔が撮りたかったのだ。

ナイスですよ、IT担当。これは一生の宝物だ。




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