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28話 ああ、その顔が撮りたかったのよお。
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「綾坂先輩……」
デスクに戻った私の元に新卒女子がオドオドしながら挨拶に訪れた。絵梨花Grだった彼女はこれまでのこともあり、相当気まずい様子だ。いえ、私もだけど。
でも彼女はまだ修復が効く。ここは我慢して大人になろう。
「色々あったけど、一から始めましょうね。宜しくお願いします」
「申し訳ございませんでした。わたし……」
「悪いのは絵梨花。あなたの立場じゃ仕方ないわ」
「はい。心を入れ替えますので、どうかご指導お願い致します」
「うんうん、私の仕事量は多いからねー」
お局の倍以上のアウトプットを出してると思うわ。覚悟しておいてね。
彼女は私の隣へ席が移動する。その手伝いに同期男子と後輩男子が重いデスクを運んできた。
「ねぇ、綾坂さんも在宅勤務したいでしょう? 俺がシフト組むことになったから、遠慮なく希望を言ってよね」
「ありがとう。でも当面は彼女に仕事を教えるから、暫くは大丈夫ですよ」
「そっか。それは仕方ないね。あ、あとさ、業務報告資料は俺が作るけど、最初は慣れないから手伝ってほしいんだ」
「はい。勿論ですわ」
そんなのお安い御用。つか、少しずつ私の仕事が分散されるような気がして、嬉しく思えた。
「綾坂さん、課長が……」
おっと、ついに来たか。
今、この場に絵梨花とお局はいない。会議ブースに呼ばれているからだ。なので私を呼ぶのは方向性が定まったと推測した。
職場で管理しているビデオカメラを片手に、課長の元へ出向く。
「失礼します」
課長の手招きで隣に座った。目の前には、困惑した表情を浮かべる絵梨花としょんぼりとした様子のお局がいる。
「綾坂さん、二人と話して事実関係を確認した。君の花を傷つけたり、PCを破壊するよう指示した事実を認めた。まだ余罪はあるだろうが、まずは人として謝らせる」
ほう。課長命令で詫びさせるの? それはちょっと違う気がするけど……まぁここでとやかく言うまい。
「かしこまりました。では、お約束通り動画を撮影します。これは証拠であり、当然のことながら部門秘として私が管理いたします。はい、どうぞ」
課長がお局に目で合図する。彼女は少し恥ずかしそうに、ポツリポツリと言葉を発した。
「あ、あの……このたび私は綾坂さんの大切なお花に悪戯してしまい、た、大変申し訳ございませんでした。全て池園さんの指示です。でも、手を下した責任は私にあります。……ご、ごめんなさい」
頭を下げたお局は以前の威勢の良さなどすっかりなくなり、痛々しいほどに恐縮していた。
「はい。他の部門へ異動していただければ、訴えは起こしません。では次!」
絵梨花はまだ納得していない様子だ。
「つぎっ!」
「……ねぇ、謝るけどさぁ、御父様には内緒にしといてよ」
私は録画をストップした。
「条件を満たさない場合は池園さんだけでも訴えますよ。諮問委員会にて重い懲戒処分を受けることになりますが?」
「だーかーらー、御父様にチクるとややこしくなるって。いくら子会社に行っても元役員でしょう?課長にも迷惑がかかるのが分からないの?」
うるさい女だ。
「課長、やはり先に専務へ連絡しますね」
私は席を立つ。
「あっ、ち、ちょっと待って、わ、分かったから、ほら池園さん、先ずは謝るんだ!」
チッ……と彼女の舌打ちが聞こえた。
「あー、分かりましたよお。はい、始めますね~」
反省の色が全く見えない絵梨花に苛立ちを覚えながら、ビデオカメラのスイッチをONにした。
「えー、この度は色々意地悪して申し訳ありませんでした。職場に馴染もうとしない根暗なあなたにイライラして集団で虐めたことを認めまーす」
「どう?」って感じて彼女は私を見る。その目は敵意に満ちていた。
求めていた動画ではない。納得し難い内容だ。だけど、これが彼女にとっては精一杯なのかもしれない。スイッチOFFした私は溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
「課長、彼女らの異動はいつ頃になりますか?」
「フリーエージェント制度に従って早急に決める」
「なるべく早めに決めてください。それと一緒の空間に居たくないので、このお二人は在宅勤務でシフトを組むよう、リーダーに提案しています。ご了承ください」
「いいのか?君も在宅希望だったろう?」
「新卒の指導があるので結構です。それに、このお二人は居ても居なくても全く業務に差し支えありませんから!」
「なっ……!」
そこで初めて絵梨花の悔しがる表情が見て取れた。
──ああ、その顔が撮りたかったのよお。
デスクに戻った私の元に新卒女子がオドオドしながら挨拶に訪れた。絵梨花Grだった彼女はこれまでのこともあり、相当気まずい様子だ。いえ、私もだけど。
でも彼女はまだ修復が効く。ここは我慢して大人になろう。
「色々あったけど、一から始めましょうね。宜しくお願いします」
「申し訳ございませんでした。わたし……」
「悪いのは絵梨花。あなたの立場じゃ仕方ないわ」
「はい。心を入れ替えますので、どうかご指導お願い致します」
「うんうん、私の仕事量は多いからねー」
お局の倍以上のアウトプットを出してると思うわ。覚悟しておいてね。
彼女は私の隣へ席が移動する。その手伝いに同期男子と後輩男子が重いデスクを運んできた。
「ねぇ、綾坂さんも在宅勤務したいでしょう? 俺がシフト組むことになったから、遠慮なく希望を言ってよね」
「ありがとう。でも当面は彼女に仕事を教えるから、暫くは大丈夫ですよ」
「そっか。それは仕方ないね。あ、あとさ、業務報告資料は俺が作るけど、最初は慣れないから手伝ってほしいんだ」
「はい。勿論ですわ」
そんなのお安い御用。つか、少しずつ私の仕事が分散されるような気がして、嬉しく思えた。
「綾坂さん、課長が……」
おっと、ついに来たか。
今、この場に絵梨花とお局はいない。会議ブースに呼ばれているからだ。なので私を呼ぶのは方向性が定まったと推測した。
職場で管理しているビデオカメラを片手に、課長の元へ出向く。
「失礼します」
課長の手招きで隣に座った。目の前には、困惑した表情を浮かべる絵梨花としょんぼりとした様子のお局がいる。
「綾坂さん、二人と話して事実関係を確認した。君の花を傷つけたり、PCを破壊するよう指示した事実を認めた。まだ余罪はあるだろうが、まずは人として謝らせる」
ほう。課長命令で詫びさせるの? それはちょっと違う気がするけど……まぁここでとやかく言うまい。
「かしこまりました。では、お約束通り動画を撮影します。これは証拠であり、当然のことながら部門秘として私が管理いたします。はい、どうぞ」
課長がお局に目で合図する。彼女は少し恥ずかしそうに、ポツリポツリと言葉を発した。
「あ、あの……このたび私は綾坂さんの大切なお花に悪戯してしまい、た、大変申し訳ございませんでした。全て池園さんの指示です。でも、手を下した責任は私にあります。……ご、ごめんなさい」
頭を下げたお局は以前の威勢の良さなどすっかりなくなり、痛々しいほどに恐縮していた。
「はい。他の部門へ異動していただければ、訴えは起こしません。では次!」
絵梨花はまだ納得していない様子だ。
「つぎっ!」
「……ねぇ、謝るけどさぁ、御父様には内緒にしといてよ」
私は録画をストップした。
「条件を満たさない場合は池園さんだけでも訴えますよ。諮問委員会にて重い懲戒処分を受けることになりますが?」
「だーかーらー、御父様にチクるとややこしくなるって。いくら子会社に行っても元役員でしょう?課長にも迷惑がかかるのが分からないの?」
うるさい女だ。
「課長、やはり先に専務へ連絡しますね」
私は席を立つ。
「あっ、ち、ちょっと待って、わ、分かったから、ほら池園さん、先ずは謝るんだ!」
チッ……と彼女の舌打ちが聞こえた。
「あー、分かりましたよお。はい、始めますね~」
反省の色が全く見えない絵梨花に苛立ちを覚えながら、ビデオカメラのスイッチをONにした。
「えー、この度は色々意地悪して申し訳ありませんでした。職場に馴染もうとしない根暗なあなたにイライラして集団で虐めたことを認めまーす」
「どう?」って感じて彼女は私を見る。その目は敵意に満ちていた。
求めていた動画ではない。納得し難い内容だ。だけど、これが彼女にとっては精一杯なのかもしれない。スイッチOFFした私は溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
「課長、彼女らの異動はいつ頃になりますか?」
「フリーエージェント制度に従って早急に決める」
「なるべく早めに決めてください。それと一緒の空間に居たくないので、このお二人は在宅勤務でシフトを組むよう、リーダーに提案しています。ご了承ください」
「いいのか?君も在宅希望だったろう?」
「新卒の指導があるので結構です。それに、このお二人は居ても居なくても全く業務に差し支えありませんから!」
「なっ……!」
そこで初めて絵梨花の悔しがる表情が見て取れた。
──ああ、その顔が撮りたかったのよお。
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