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27話 では百歩譲って条件がございます。
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「おはようございます」
週明けだ。
私は清々しい気持ちで今日を迎えている。昨日は翔様のマンションで楽しく過ごし、その余韻にも浸っていた。たくさんお話したし、彼の瞬い笑顔が記憶に刻み込まれている。友達以上、恋人未満って関係だけど、今は幸せだと感じている。
それと、謝恩会で全てを曝け出したので、もう遠慮なくララ様から教わったお化粧を施し出社した。背筋を伸ばして胸を張ってだ。
そんな私にフロアの方々から暖かい挨拶を受けた。あの日を境に状況は一変したのだ。
それともう一つ。絵梨花やお局が浮いた存在になっている。空気を読んでか周りの同僚たちが近寄らない。そんないつもと違う雰囲気の中で課内ミーティングが始まった。
「えー、まずスタッフリーダーの交代です。池園さんから……」
課長の業務連絡は事前に聞いていない指示が盛りだくさんだった。誰も知らない内容に動揺が走る。
おっと、いきなりですね。
この部署を実質取り仕切っていた主任代わりの絵梨花に、何の予告もなくリーダーを同期男子に交代すると宣言したのだ。
「えっ!?な、何で?」
絵梨花は突然のことに信じられず、声をあげて非難する。
「どういうことです?何も聞いていませんけど!」
「理由は個別に話します。それと新人の橋口さんの教育係を綾坂さんに交代する。よろしく頼む」
「は、はい。かしこまりました」
新卒女子はお局が指導していたが、ほぼ独り立ちしてる状態。いまさら教育係の交代とは意図がわからない。
『お局と新卒を引き離すのでしょうね。彼女は絵梨花グループに従ってただけだから』
『そうか。にしても、専務が出向と公表した途端にこの采配、すごい手のひら返しです』
まさかこんなに早く報復人事的なことをするとは、流石に驚いている。
一方、絵梨花は全く納得していない表情だ。それとは真逆に、お局はどこか覚悟していたような雰囲気を感じた。
「綾坂さん、ミーティングが終わったら会議ブースへ」
「はい」
「池園さんは後で呼ぶから待ってなさい」
「……」
キッっと絵梨花に睨まれたけど、知らん顔をする。そう言えば、同期男子も後輩男子も絵梨花やお局と話すそぶりすら見せない。謝恩会の席で酔っ払って「彼女たちとは連まらない」って言っていたけど、あれは本心なんだと思った。
やはり皆さん、専務を恐れていたんだ。
私は謝恩会を機に雰囲気がガラリと変わったフロアを実感した。
「綾坂さん、これを……」
会議ブースで課長から渡されたプリントは見覚えのある怪文書だった。
「こ、これは!?」
演技ではなく本当に驚いた。課長がそれを持っていることが不可解だったのだ。
「有志一同からの密告があってね。ま、他にも色々あると」
彼らがお局から奪って課長に提出したの?
「綾坂さん……すまない!」
はい???
「以前から君が池園さんたちからモラハラを受けていたことは気づいていた。だが、見て見ぬ振りをしていた。知っての通り、私も専務に目を掛けて頂いた恩があるから躊躇していたんだ」
まぁそうでしょうね。そう思っていましたわ。
「君からBCCでメールが来るようになって悩んだ。これはSOSだと思ってね」
「いえ、課長に何かを求めた訳ではございません。ただ、彼女らの現状を知って貰いたくて」
「うむ……で、色んな証拠があると聞いたが、それを表に出すつもりか?」
「はい。専務の異動でその影響力が弱まりましたので、人事労政や組合に相談を考えています。池園さんたちを追放したく」
「そ、そうか」
うん?雲行き怪しいな。まぁ課長としては迷惑な話でしょうね、こんな不祥事は。しかもお世話になった専務の御令嬢が絡んでる事案なんて。
「なぁ、こうしないか?私から彼女へ厳重注意した上で配置転換させよう。リーダーを変えたのもその布石。あ、それと山本さんも同罪だ」
つまり、公にしない代わりに課長の権限で絵梨花やお局をこのフロアから追い出すってこと?
「納得できません」
「だったら彼女らに詫びてもらおう。これでどうだろうか?」
ふーむ。詫びた上で配置転換ですか。いや、甘いな。そもそも絵梨花が詫びるとでも?
私は少し迷った。腹が立つが穏便に済ませたい課長の気持ちも分からないでもない。だけど──
「では、百歩譲って条件があります」
「何だ、その条件とは?」
「はい、それは……」
私は以下の条件を提示しました。
その① この建物から必ず追い出すこと。
その② 詫びること。その際、動画を撮影する。
その③ モラハラを専務にメールで報告する。
「これが許されるから、人事労政及び組合、場合によっては労働基準監督署への相談は取り下げます」
これが私の精一杯の譲歩だ。
「せ、専務にだと?」
「はい。私が勝手にメールを送らせていただきます」
「いや、待ってくれ。そんなことしたらどう転ぶか分からなくなる」
「そうですか。それで条件①②が遂行できない方向へ転んだとしたら、出るとこ出るまでです」
さあ、これで絵梨花らを説得してご覧なさい。日和見の課長さん。腕の見せ所よ……
週明けだ。
私は清々しい気持ちで今日を迎えている。昨日は翔様のマンションで楽しく過ごし、その余韻にも浸っていた。たくさんお話したし、彼の瞬い笑顔が記憶に刻み込まれている。友達以上、恋人未満って関係だけど、今は幸せだと感じている。
それと、謝恩会で全てを曝け出したので、もう遠慮なくララ様から教わったお化粧を施し出社した。背筋を伸ばして胸を張ってだ。
そんな私にフロアの方々から暖かい挨拶を受けた。あの日を境に状況は一変したのだ。
それともう一つ。絵梨花やお局が浮いた存在になっている。空気を読んでか周りの同僚たちが近寄らない。そんないつもと違う雰囲気の中で課内ミーティングが始まった。
「えー、まずスタッフリーダーの交代です。池園さんから……」
課長の業務連絡は事前に聞いていない指示が盛りだくさんだった。誰も知らない内容に動揺が走る。
おっと、いきなりですね。
この部署を実質取り仕切っていた主任代わりの絵梨花に、何の予告もなくリーダーを同期男子に交代すると宣言したのだ。
「えっ!?な、何で?」
絵梨花は突然のことに信じられず、声をあげて非難する。
「どういうことです?何も聞いていませんけど!」
「理由は個別に話します。それと新人の橋口さんの教育係を綾坂さんに交代する。よろしく頼む」
「は、はい。かしこまりました」
新卒女子はお局が指導していたが、ほぼ独り立ちしてる状態。いまさら教育係の交代とは意図がわからない。
『お局と新卒を引き離すのでしょうね。彼女は絵梨花グループに従ってただけだから』
『そうか。にしても、専務が出向と公表した途端にこの采配、すごい手のひら返しです』
まさかこんなに早く報復人事的なことをするとは、流石に驚いている。
一方、絵梨花は全く納得していない表情だ。それとは真逆に、お局はどこか覚悟していたような雰囲気を感じた。
「綾坂さん、ミーティングが終わったら会議ブースへ」
「はい」
「池園さんは後で呼ぶから待ってなさい」
「……」
キッっと絵梨花に睨まれたけど、知らん顔をする。そう言えば、同期男子も後輩男子も絵梨花やお局と話すそぶりすら見せない。謝恩会の席で酔っ払って「彼女たちとは連まらない」って言っていたけど、あれは本心なんだと思った。
やはり皆さん、専務を恐れていたんだ。
私は謝恩会を機に雰囲気がガラリと変わったフロアを実感した。
「綾坂さん、これを……」
会議ブースで課長から渡されたプリントは見覚えのある怪文書だった。
「こ、これは!?」
演技ではなく本当に驚いた。課長がそれを持っていることが不可解だったのだ。
「有志一同からの密告があってね。ま、他にも色々あると」
彼らがお局から奪って課長に提出したの?
「綾坂さん……すまない!」
はい???
「以前から君が池園さんたちからモラハラを受けていたことは気づいていた。だが、見て見ぬ振りをしていた。知っての通り、私も専務に目を掛けて頂いた恩があるから躊躇していたんだ」
まぁそうでしょうね。そう思っていましたわ。
「君からBCCでメールが来るようになって悩んだ。これはSOSだと思ってね」
「いえ、課長に何かを求めた訳ではございません。ただ、彼女らの現状を知って貰いたくて」
「うむ……で、色んな証拠があると聞いたが、それを表に出すつもりか?」
「はい。専務の異動でその影響力が弱まりましたので、人事労政や組合に相談を考えています。池園さんたちを追放したく」
「そ、そうか」
うん?雲行き怪しいな。まぁ課長としては迷惑な話でしょうね、こんな不祥事は。しかもお世話になった専務の御令嬢が絡んでる事案なんて。
「なぁ、こうしないか?私から彼女へ厳重注意した上で配置転換させよう。リーダーを変えたのもその布石。あ、それと山本さんも同罪だ」
つまり、公にしない代わりに課長の権限で絵梨花やお局をこのフロアから追い出すってこと?
「納得できません」
「だったら彼女らに詫びてもらおう。これでどうだろうか?」
ふーむ。詫びた上で配置転換ですか。いや、甘いな。そもそも絵梨花が詫びるとでも?
私は少し迷った。腹が立つが穏便に済ませたい課長の気持ちも分からないでもない。だけど──
「では、百歩譲って条件があります」
「何だ、その条件とは?」
「はい、それは……」
私は以下の条件を提示しました。
その① この建物から必ず追い出すこと。
その② 詫びること。その際、動画を撮影する。
その③ モラハラを専務にメールで報告する。
「これが許されるから、人事労政及び組合、場合によっては労働基準監督署への相談は取り下げます」
これが私の精一杯の譲歩だ。
「せ、専務にだと?」
「はい。私が勝手にメールを送らせていただきます」
「いや、待ってくれ。そんなことしたらどう転ぶか分からなくなる」
「そうですか。それで条件①②が遂行できない方向へ転んだとしたら、出るとこ出るまでです」
さあ、これで絵梨花らを説得してご覧なさい。日和見の課長さん。腕の見せ所よ……
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