わたくしのこと“干物女”って言いましたよね?

鼻血の親分

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10話 私のパーツはどこ行ったの?

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『こ、これが私……?』

お風呂場の鏡で自分の映る姿を見て愕然とする。

『うふふ、いい女になったわね。花』

目もくらむほどの美しいプロポーションだ。胸は制服の牡丹が千切れそうなほど大っきくなってるのは自覚してたけど、引き締まったウエストにプリプリでキュッと上がったヒップ……

通勤のエクササイズだけで効果が現れたの?

それだけではない。面貌めんぼうもそうだ。こんなにパッチリした目元だっただろうか?まつ毛もパーマをかけてるように長く上向いている。そして、高く真っ直ぐに通った鼻筋と美しい鼻の形。唇はふっくらと弾力がありセクシーだ。輪郭もシャープで目、鼻、唇のバランスが整っている。

黄金比率は完璧……!言わばハイレベルの“美人顔”に変貌してるのだ。

『まるで別人です……』
『でもベースは花だからね』

いえ、私のパーツはどこ行ったの?殆どララ様ではないでしょうか。例えるならプリクラの画像。二倍増しの盛り盛りだよ。

でも──

素材主としては複雑な心境だけど、美しいってやっぱり嬉しいもの。そんな気持ちがちょっぴり芽生えてしまった。

『週末はヘアーとネイルサロンへ行きましょうね』
『は、はい……ネイルサロンは未知の世界ですが』
『お手入れはしとかないとね。そのうち男性が見惚れるようになるから。でもバレないように、ちょっとづつ小出しにするのよ』

うん。それは自信がある。

今のところ、マスクで顔の半分は隠しているし、私と接する男性など殆どいない。そもそも興味すら持たれてないから、露出しない限りは分からない。お昼も一人ポツンと屋上でサンドイッチを摘んでるから、誰にも口元を見られてないよ。ひょっとして、いえ、恐らくこの会社で私の素顔をマジマジと眺めた人はいないのでは?
──とさえ思うくらい自信があるのだ。

完全なる規制解除は謝恩会か……

大きな不安と僅かな期待が交差する。そんな心境でビールを飲むと、私はいつの間にか眠っていた。


***


翌朝、絵梨花の出勤する日がやってきた。恐怖の日だ……

いつものように背筋を伸ばし胸を張って、おっぱいを揺らしながら通勤する。自己暗示の賜物なのか「見たけりゃ見なさい」と、開き直りの境地だ。すると、心なしか男性の視線が突き刺さるように感じた。いつもの道、いつもの電車、いつもの横断歩道なのに。

と、会社のゲート前でLINEが届いた。唯一アドレスを交換した翔様からだ。

「御葬式の手伝いをするつもりだったのにぃ……」

彼はララ様のご遺体を乗せた霊柩車に乗車して、地元まで帰るという連絡だった。そんな遠くまで運んでくださるとは知らなかった。でも御両親がこちらまで出向くことが厳しいので、地元で家族葬を行うそうだ。

『まぁ仕方ないわね』
『ララ様も自身の肉体にお別れしたかったのではないですか?』
『もういいのよ。私は綾坂花として生きてるんだもの』
『そうです……けど』

私はララ様のこと、あまり知らない。風俗嬢で誰かに殺されたってことくらいだ。生い立ちとか興味があるな。聞いていいものなのか……

『姿勢!ほら、考えごとすると背中の意識が疎かになるわね』
『は、はい。気をつけます』

気合いを入れ直し、背筋をピンっと伸ばして社内に入った。

『わたくしのことが知りたいようだけど、実家は茶道の家元よ。翔も嗜むけど、後継ぎは従兄弟って決まってるから二人とも上京したの』

そ、茶道って……すごっ!

『まぁ、華道、書道、舞踊、音曲……お習い事は何でもやらされたわ』

正真正銘のお嬢様だったんだ。でも何故風俗嬢になったのでしょうか?

『はいはい、わたくしのことはそれくらいにして、今は花のことが大事よ。さぁ今日もやるからね!』

あぁ、そういえば昨日のことを思い出した。結局、お局からの嫌がらせや圧力はなく、むしろ無視されて終業を迎えたのだった。彼女は一日中ソワソワしながら携帯を弄っていた模様。たぶんだけど、絵梨花に怪文書のことを相談していたのでは?と推測する。

さて、今日はとんでもない一日かもしれない。
どんな仕打ちが待っているのだろう。
いっぱい心が傷つく気がする。
いっぱい腹が立つ気がする。

だってあの絵梨花のこと。このままでは済ませないだろうから……






 
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