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就職活動で一時、コンタクトレンズに挑戦していたことを思い出し、牛乳瓶底の丸メガネを思い切って変えてみることにした。私は高橋直人に恋してるようだ。もうどうにも止まらないこの気持ちは、少しでも自分を良く見せたい願望で溢れている。
お化粧を施し、入念に髪を整え、カジュアルながら清楚でエレガントなスタイルで駅に向かう。
「社外で会うなんて……」
ワクワクするデート気分に浸っていた。会社主催のボランティア活動なのに、業務の一環ということを忘れ、頭の中は妄想でいっぱいだ。手を繋いで仲良くお散歩し、美しい花道をスキップしたり、子犬を撫でたりする。この世界は二人だけの特別なもの。
あぁ、今日あたり……ええっと、愛を深める時が来るのかしら。うふふ。大切な瞬間なので、ちゃんと恥じらわないとね。ついに、処女喪失……いえ、新たな一歩を踏み出す時かな~。
駅前には多くの従業員が集まっていた。社名が掲げられた幟も立っており、ボランティア活動の雰囲気に呑まれて、私の妄想は薄れていく。
コンビニ前で待っていると、高橋直人が現れ、ジーパンにポロシャツ姿という爽やかな風貌にうっとりしてしまい、再び妄想の扉が開かれる。しかし、「はい」と火バサミとビニール袋を渡され、「あ、ゴミ拾いだったんだ」と、また現実に戻る。とは言え、休日に彼と会えることの喜びは変わらず、たとえ会社の地域貢献活動であっても、嬉しい気持ちが優っていた。
手を繋ぐことは叶わなかったけれど、私たちはダイアリーの謎解きに取り組む前に、少しだけ世間話をして笑い合った。彼の笑顔を目の前で見て、この時間が永遠に続くことを願わずにはいられない。
そんな素敵な時間は容赦なく過ぎていく。拾ったゴミの回収袋を担当者に渡して、はい終わり。そして、待ち合わせの喫茶店に到着すると、松本絵梨は既にそこにいた。
「これが山田係長の一年分の日記です」
厚めのファイルに収められた用紙は収集状態も良く、三百枚以上のページが並んでいる。隣に座った高橋直人と一緒にファイルを開き、パラパラとめくっていくうちに私たちは驚きを感じた。
「え、手書きはないの?」
「そうだね、全て印字されてるね」
「はい。山田さんは、単に予言書として活用していたと思います」
「うーん。まぁ、明日の出来事が大まかに分かってるから、リスク回避の行動が取れる。それだけでも便利なものではあるけれど……」
「彼は若くして幹部社員の登用試験を受けるほど優秀だと聞いています。この日記がアシストしていたのかもしれませんね」
「このあたりを見てください。気になることが書かれています」
松本絵梨はファイルの特定のページを指した。
9月2日(金)
無断欠勤の長嶺理子を訪ねるためにマンションに向かいました。到着するとドアが開いており、部屋を確認、そこで倒れている長峰を見つけ、私はすぐに救急車と警察を呼び、その間に偶然見つけた不思議な日記を読み始めました。しかし、その内容は公にできないものだと判断し、持ち帰ってしまいました。
「長嶺理子!?」
「ええ、どうやら彼女が最初の所有者のようですね」
彼女の名前を社内で知らない人はいないでしょう。謎の自死を遂げた女性です。私は彼女の死にダイアリーの秘密があると思い、その恐怖心から思わず高橋直人の手を握り締めてしまった。そして彼も確信した表情を浮かべて握り返してくれた──
お化粧を施し、入念に髪を整え、カジュアルながら清楚でエレガントなスタイルで駅に向かう。
「社外で会うなんて……」
ワクワクするデート気分に浸っていた。会社主催のボランティア活動なのに、業務の一環ということを忘れ、頭の中は妄想でいっぱいだ。手を繋いで仲良くお散歩し、美しい花道をスキップしたり、子犬を撫でたりする。この世界は二人だけの特別なもの。
あぁ、今日あたり……ええっと、愛を深める時が来るのかしら。うふふ。大切な瞬間なので、ちゃんと恥じらわないとね。ついに、処女喪失……いえ、新たな一歩を踏み出す時かな~。
駅前には多くの従業員が集まっていた。社名が掲げられた幟も立っており、ボランティア活動の雰囲気に呑まれて、私の妄想は薄れていく。
コンビニ前で待っていると、高橋直人が現れ、ジーパンにポロシャツ姿という爽やかな風貌にうっとりしてしまい、再び妄想の扉が開かれる。しかし、「はい」と火バサミとビニール袋を渡され、「あ、ゴミ拾いだったんだ」と、また現実に戻る。とは言え、休日に彼と会えることの喜びは変わらず、たとえ会社の地域貢献活動であっても、嬉しい気持ちが優っていた。
手を繋ぐことは叶わなかったけれど、私たちはダイアリーの謎解きに取り組む前に、少しだけ世間話をして笑い合った。彼の笑顔を目の前で見て、この時間が永遠に続くことを願わずにはいられない。
そんな素敵な時間は容赦なく過ぎていく。拾ったゴミの回収袋を担当者に渡して、はい終わり。そして、待ち合わせの喫茶店に到着すると、松本絵梨は既にそこにいた。
「これが山田係長の一年分の日記です」
厚めのファイルに収められた用紙は収集状態も良く、三百枚以上のページが並んでいる。隣に座った高橋直人と一緒にファイルを開き、パラパラとめくっていくうちに私たちは驚きを感じた。
「え、手書きはないの?」
「そうだね、全て印字されてるね」
「はい。山田さんは、単に予言書として活用していたと思います」
「うーん。まぁ、明日の出来事が大まかに分かってるから、リスク回避の行動が取れる。それだけでも便利なものではあるけれど……」
「彼は若くして幹部社員の登用試験を受けるほど優秀だと聞いています。この日記がアシストしていたのかもしれませんね」
「このあたりを見てください。気になることが書かれています」
松本絵梨はファイルの特定のページを指した。
9月2日(金)
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「長嶺理子!?」
「ええ、どうやら彼女が最初の所有者のようですね」
彼女の名前を社内で知らない人はいないでしょう。謎の自死を遂げた女性です。私は彼女の死にダイアリーの秘密があると思い、その恐怖心から思わず高橋直人の手を握り締めてしまった。そして彼も確信した表情を浮かべて握り返してくれた──
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