マイ•ダイアリー『書かれていることが実際に起こる日記』

鼻血の親分

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うーん、やっぱりちょっと緊張するわね。せっかくお化粧したのに、逆に気取ってしまってる感じがするな……

意気込んで出社したけれど、実際に声をかけるとなると躊躇してしまう。佐藤拓也とは数ヶ月間も会話してないし、入社式以来のお化粧が恥ずかしいという思いもある。

いや、たかがボンクラだし。それに今日ほどのチャンスはそうそうあるまい。人が少ないタイミングを見計らって突撃してやろう。

彼はパープーと長々と話し込んでいるけど、仕事の話ではないことが明白だ。10メートル先からでも分かる。それに、彼女は明らかに嫌な表情をしている。佐藤の視線がいやらしいのだ。

──さっさと離れろ。

その願いが叶ったのか、しばらくして彼女はどこかへ行ってしまった。私は迅速に席を立つ。ただし、緊張しないようにと丸メガネを外した。視力は0.05なので、ボヤけた景色の方が勇気を出せると判断したからだ。

私はさりげなく彼のデスクの近くに移動し、背後から声をかける。
「佐藤くん、ちょっといいかしら?」
振り返った彼は目をまん丸に見開き、口を半開きにしている様子で声が出ないようだった。つまり、私が声をかけるとは全く思っていなかったから驚きの表情を浮かべているのだろう。
「ねえ、時間を取ってもらえるかしら?」
「あ……ああ」
彼は周りをキョロキョロと見回し、落ち着かない。誰かに見られたらマズいと考えているのかもしれない。
「何の話かな?」
「ここではちょっと難しいかも。自販機に行って話しませんか?」
「う、うん」
全く、何をおどおどしてるのかしら。橘美咲や山本節子はいませんよ。それに課長もね。こいつは余計な心配をしてるな。しかし、その割には私の顔からボディラインまでじっくりと見つめてくる視線がいやらしいわね。だからパープーも距離を置いたのよ。 

自販機コーナーには誰もいなかった。まさに絶好の機会だ。ベンチに座った彼は突っ立ったままの私の股間辺りを一点に見つめている。ちょっと怖いんだけど……
「で、何の話なの?」
「松本絵梨さんって知ってる?」
「えっ!?」
佐藤拓也は驚いて私を見上げた。
「彼女が所有していたと思われるノートを拾ったの。ただ、2、3点お聞きしたいことがあるから、サテライトオフィスに来るよう連絡してくれないかな?」
「……ああ、伝えるよ。俺も同席した方がいいかな?」
「できれば。じゃ、よろしくね」
さっと自販機から離れた私だったが、オフィスの入り口でパープーとばったり出会ってしまった。

あ、今の見られたかしら。これは少し面倒になるかもね。橘美咲とお局が不在の時に私と密会してたなんて、明日彼が取り調べを受けるかもしれないわ。まあ、知ったことじゃないけど。

私はダイアリーの力を借りずに、勇気を振り絞って彼と会話をした。そう思うと大きな自信と達成感を感じていた──




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