マイ•ダイアリー『書かれていることが実際に起こる日記』

鼻血の親分

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彼から聞いた話は想像を遥かに超える内容だった。私は3ヶ月前から人権相談窓口にモラハラを訴えていたが、曖昧な返答をしていたのは彼ではなく、上司の課長であり、森田課長と数回面談の実績もある。人事は何もしてない訳ではなかったが、根底に問題を有耶無耶うやむやにする意図がありありだった。無論、橘美咲を守るために。

残念ながら会社の体質を嘆いても仕方がない。しかし、高橋直人は上司に内緒で橘美咲に面談を申し込んだり、山本節子の行動を監視したりと、独自に調査を行っていた。
そんなある日、ショールーム近くのサテライトオフィスの一室で、あのダイアリーが置き忘れているのを発見したというのだ。

「これを見てください」
彼は鞄から折り畳んだ用紙を数枚取り出して私の前で広げて見せた。
「えええっ!こ、これは!?」

5月8日(月)
橘美咲は優秀な高野真由美に嫉妬し、また、無口で無愛想な彼女に苛立ちを覚えたため、無視することに決めました。今後は業務をメールだけで行うことになります。さらに、山本節子たちにも同じように要求しました。
一方、山本節子は業務負荷を減らすことを条件に同意し、彼女たちは連帯感を強めていきます。
このような動きを見て見ぬふりをする森田課長は人間関係を築けない高野の評価を下げ、異動させようと企てます。

これは破られていたダイアリーの中身だ。手書きで私を陥れる内容が書かれている。
「ひどいっ!こんなの誰が書いたの!?」
「それについて、僕はずっと調査していました」

彼は密かに私と周辺の動きを監視していたそうだ。それと同時に持ち主を見つける努力もしていた。大切な日記だから、きっとサテライトオフィスに戻って探すに違いないと張り込みをしていたのだ。

「で、持ち主は分かりましたか?」
「確証はありませんが、おそらくは……」
「おそらくって?名前を書く枠がありましたよね?」
「ええ、しかしその部分は消されていました」
「なるほど。その時点で、すでに消されていたんですね」
「あの、持ち主の話の前に確認したいことがあります」
「は、はい?」
「あれは『書かれていることが実際に起こる日記』と記載されています。かなり信じがたい話ですが、本当だと思いますか?」
「あ……それは」
「調査を進めるうちに気づかされました。書かれた内容は実際に現実化するようです。そのため、私は勝手にページを破棄させていただきました。貴女をお助けするために」
「やはり、高橋さんが私のアパートに侵入してダイアリーをお渡しになったのですか?」
「はい、申し訳ありません。緊急を要すると判断しまして」
彼は別の用紙を前面に出し、広げて見せた。

8月20日(日)
職場で同僚に無視され続けた高野真由美は、上司や人事労政Gr、労働組合に相談しても無駄だと悟り、自宅で命を断ちました──

「な、なんてことを!信じられないわ!書いていいことにも限度ってものがあるでしょうよ!」

私は怒りで震えながら、紙を握りしめていた。




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