マイ•ダイアリー『書かれていることが実際に起こる日記』

鼻血の親分

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鉛筆を握る手が震えている。私はあることを思いついて、ダイアリーに追記してしまったのだ。

『屋上で昼食を摂っていたら、高橋直人が現れてお話をしました。彼は私の味方です。』
いや、『彼は私の味方です。』は消そう。これでは本当の真相が分からない。よし、勝負よ。どうか彼が私の味方でありますように。願わくばイケメンでありますように──

高橋直人に会いたいのだ。会って確かめたい。彼がこのダイアリーを私にくれたのか……

お昼休憩と共に屋上に向かった。いつものベンチで彼を待つ。緊張してるので、サンドイッチが食べられず、代わりにパックのコーヒー牛乳を一気に飲み干した。気温は30℃越えの真夏で日陰ではあるけれど、とても暑い。澄んだ青空を見上げながら、全くのすっぴんであることを思い出し、若干後悔の念に駆られた。明日にすれば良かったかな、と思った。

「高野さん?」

不意に名前が呼ばれ、私は「ついに来た!」と緊張と興奮が最高潮に達する。ちらりと後ろを振り返ると、そこにはワイシャツにスラックス姿の男性が立っていた。スラっとした長身で、うっすらとたくましい筋肉が透けて見える。ご尊顔を拝見すると、おそらく30歳くらいだろうか、キリッとした美しい目が印象的で、端正な顔立ちを持つ、まさに眉目秀麗びもくしゅうれいな男性だった。

──すごいイケメンだ!
心の中でハートマークが飛び交い、私は喜び勇んでドレスを身にまとい、舞い踊るように回り始めることを想像した。

「はい。高野は私です」
「お話、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」

彼は「失礼します」と言って隣に座ってきた。胸がドキドキと高鳴る。こんなことが日常で起こるなんて、本当に信じられない。

「僕は人権相談窓口を担当している高橋と申します。初めまして……ですよね?」
「はい。メールではお世話になっています」
「実は貴女から相談されて独自に調査をしていました」
「独自に、ですか?」
「はい。上司から止められていたので」
「……それは専務が関係しているからでしょうか?」
「仰る通りです。相談窓口のアドレスは僕だけではなく係長、課長まで送信されます。橘美咲の名を見て、逆に高野さんの落ち度を探れと指示されまして……」
「なるほど。美咲を庇う忖度が働いたのですね」
「はい。しかし、僕はそれはおかしいと思って、独自に橘さん、山本さんの動向を調査していました」

彼は私の味方だ。ダイアリーに書かなくて良かった。これが真実だから。

「高橋さん、私からも質問していいですか?」
「はい、何でしょう?」
「私に謎めいた日記を渡したのは貴方ですか?」
その問いに彼は少し考える素振りを見せた。
「高橋さん?」
「これからお話することが真実です。どうか、聞いてください。そして信じてください」
彼の真顔、その印象的な目が私に向けられた。ドキリと緊張しながらも、そんなにじっと見つめられると恥ずかしい。お化粧しとけばよかったとやっぱり後悔したのでした。




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