マイ•ダイアリー『書かれていることが実際に起こる日記』

鼻血の親分

文字の大きさ
上 下
3 / 35

3

しおりを挟む
改めてパラパラとめくるものの、特に変わった気づきは得られなかった。文字は裏表紙のタイトルだけ。
「──ん?」
ふと、その下に名前を書くであろう枠があり、消された形跡が見受けられる。目を凝らしても全く解読不能だが、前の所有者が消したのだろう。つまり、この日記は放棄されたものと推測される。では、なぜ私に手渡されたのか?どんな意図があったの?

善意か悪意か、もし善意なら、私を応援するための意図があるのかもしれない。悪意ならば、この日記を私に所有させて罠に嵌めようとする策略だろう。残念ながら私を応援する存在はいないと思う。考えるとしたら悪意の方が妥当だ。盗まれたと主張し、騒ぎを起こしたいたいのだろう。しかし、わざわざ部屋に忍び込んでまでそんなことをする?職場で離席している間に鞄に入れておけば十分だったはず──

短時間で結論は得られなかった。しかし、簡単に手放すことはできない。真相を明らかにしたいのだ。この日記は今や私の所有物。
そうだ!名前を書いてしまおう。罠だろうが自分のだって言い張ってやる。誰かがプレゼントしてくれたんだって。
そう覚悟を決めて、さらっと鉛筆で『高野真由美』と記入した。すると──
「は?えっ!?」と思わず声が上がった。空白だったページに文字が浮かんできたのだ。昨日と今日の日記が印字されている。私は恐怖に身震いし、背筋が凍りつくような感覚が走った。書かれた文字を追いながら、畏怖の念が心を支配する。

8月21日(月)
橘美咲と購買部の山田係長がデートのため有休を取得しました。美咲が強引に誘ったようですが、山田は専務に気を遣っているだけです。
一方、山本節子は美咲の不在時にさらに我儘になり、仕事をパープー女子に押し付けました。しかし、ミスを犯したため残業でフォローする羽目に。イライラしていた節子はスズランの花びらをちぎって退社しました。
森田課長は提出ファイルの中身を確認せず、ただ印鑑を押して私の机に投げて退社しました。

なんなん、コレ!?

私は冷静な態度を装いながら、立ち上がったパソコンにログインし、メールボックスを開いた。仕事をしてるように見せかけつつも、頭の中はさまざまな思考が渦巻いている。
しかし、花びらをちぎる手法は山田節子の特徴だと瞬時に理解した。また、剪定鋏を使って切り落とすパターンもあり、これはおそらく橘美咲の仕業だろう。ファイルを投げるのはいつものことなので驚かない。いや、そんな過ぎ去ったことはどうでもよい。信じられないことだが、この日記は過去、そして未来のできごとが書かれているのだ。ちなみに今日は──

8月22日(火)
橘美咲はご機嫌な一日を送ります。デートの成果を感じたものと思われますが勘違いです。付き合わされた山田係長はお気の毒ですが、目くそ鼻くそです。そんな彼女から2件の仕事を丸投げされました。大した内容ではありません。
一方、山本節子は機嫌が直らず、午後のオンライン会議で意図的に私を招待から外してしまいます。それが原因で課長から叱責を受けました。また、10時15分に皆を誘って自販機前で私の悪口で盛り上がっていました。
森田課長は私が人事部に送ったモラハラ画像に関して担当課長と面談しましたが、何ごともなかったかのように戻りました。そして、提出ファイルを机に投げて退社しました。

な、なるほど。あり得る。事実ならこれはとっても便利なシロモノだ。だってストレスの原因が事前にわかることで、対処法も見つけやすくなるわ。もしや神様からの贈り物かもしれない。そうだ、そうよ。この日記は誰にも渡さないわ。

マイ、ダイアリーよ!




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

六華 snow crystal 5

なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 5 沖縄で娘を産んだ有紀が札幌に戻ってきた。娘の名前は美冬。 雪のかけらみたいに綺麗な子。 修二さんにひと目でいいから見せてあげたいな。だけどそれは、許されないことだよね。

“K”

七部(ななべ)
現代文学
これはとある黒猫と絵描きの話。 黒猫はその見た目から迫害されていました。 ※これは主がBUMP OF CHICKENさん『K』という曲にハマったのでそれを小説風にアレンジしてやろうという思いで制作しました。

処理中です...