マイ•ダイアリー『書かれていることが実際に起こる日記』

鼻血の親分

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「窓、玄関、鍵閉めよし!」

きたきり雀のスーツに牛乳瓶の底ような丸メガネ、そしてやたらデカいマスクといういつものスタイルで会社に向かう。もちろんバザバザの髪にすっぴんだ。おしゃれなんて興味ない。私には二十代で家を建てる目標があるのだ。だから無駄な経費を計上するつもりはないし、当然、飲み会なんて死んでも行かない。いや、誘われないけどね。

さて、今日は勝負の日よ。鞄にしまった退職届を定時退社の1時間前にドカンと叩きつけよう。クソ課長の間抜けづらが見ものよね。ふふふ。
そう意気込みながら立派なオフィスビルを見上げ、ゲートパスをくぐる。

しかしながら、あの日記が気になるわ。まあ、ばかげたタイトルはどうでもいいけど、誰が私の部屋に無断で入り込んで、わざわざ手渡したのかしら?それってこの会社の誰かなの?
と、胸騒ぎが収まらない。そんなことを考えながら職場に到着したが──

……なるほど、今日はスズランの花がちぎられていたか。

私はデスクに季節の花を飾る習慣がある。これは唯一の贅沢だけど、美しさと香りに癒されるからだ。それにきちんと片付けて帰ったつもりだったけど、ファイルや書類が乱雑に積み重ねられていた。まあ、これはいつもの光景だけどね。
とりあえず、無残に散ったスズランの写真を撮っておく。虐めを受けた証拠として適切な部署に提出してやろう。

カメラ保管庫から腕章とカメラを取り出し、朝っぱらからシャッターを切る音が響いた。周囲は「また始まったわね」と、ニヤけながら横目で見る人たちがいる。彼女らの顔には陰湿な悪意が満ちている。以下、低俗な人間どもを紹介しよう。

虐めの首謀者、橘美咲(26歳)は専務執行役員のお嬢様。容姿端麗ようしたんれいとは裏腹に傲慢で自己中心的、父親の地位を悪用し、他人を蔑視し、権力を振りかざす卑劣な女性だ。
山本節子(37歳)はデブで陰湿で嫉妬深く、長い間部署内のご意見番として君臨し続けるお局。能力は残念な部類で仕事は人任せ。早く辞めてほしい。
森田秀夫(45歳)は無関心で優柔不断、問題を見て見ぬふりし、部下を助けようとしないクソ課長。おそらく橘美咲の父親に遠慮してるのだろう。実にくだらないチンカス野郎だ。
それに同調するような同期入社のボンクラや新入社員のパープー女子など、この職場の半数は私の敵対者なのだ。

ああ、腹が立つ。

人の心は陰湿で深い闇を秘めているもの。私自身もそうだと自覚してる。怒りが湧くと、心の中で拷問場が現れる。あの三人は何十回ともお仕置きした相手だ。ロープで縛り上げ、パイプ椅子に座らせ、私は鞭で叩く。今日は面倒くさいので、親衛隊に叩かせてやったわ。ふん、もがけ、苦しめ。私は忙しいのよ。仕事の準備をしなければ。

パソコンを起動する間に、自分が担当でないはずのファイルや書類整理を済ませる。そしてスズランを破棄して新しいお花に取り替える。なんとなくそんな予感がしてたから、今日はお花を用意していた。ピンクの花びらが可愛らしいバッカリアだ。

うん、素敵な香りね。気分が一新されるわ。

そして鞄から印鑑の入ったケースを取り出した時、あの日記が目に留まった。気になってしまい持ってきてしまったのだ。私はつい、手に取って再び中身を確かめることにした。もしかしたら何か手掛かりがあるのかもしれない──




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