105 / 105
105.自由
しおりを挟む
あれから半年経つ。
わたくしはジェラール様との婚儀を済ませ、晴れて王太子妃となった。そして暫くは王室から出られなかったけど、ようやく自由に島へ行ける環境が整い今、楽しい気分で船上から降りていった。
でも気がかりが一つある。それは…。
「お迎えにあがりました。アニエス様」
「ありがとう、コリンヌ」
彼女は島駐在の侍女に任命していた。因みに殿下の計らいでバルナバさんは統括責任者として、男爵の爵位を授与される予定なのでコリンヌも近々男爵夫人になる。
「あー、帰って来たって感じ。この潮の香り、新鮮な空気にのどかな風景…懐かしいわ!」
「牧場も変わりないですよ。アレ以外は…」
そう、アレなのだ。問題はアレ。
馬車に揺られながら彼女から近況報告を聞く。ベルティーユは監獄の責任者となって、未だ死刑執行されない薄唇さんの面倒を見てるらしい。殿下が執行のサインをなさらないのが原因だけど。いつも間にか独房から出て一般棟で囚人に建設の指導をしてると言う。
「まあ彼は器用だからね。それより王女様が監獄におられたなんて殿下から聞いてびっくりしたわ」
「ベルティーユ様も時々お会いしてる様です。実質グレース様が監獄を仕切ってるって仰ってました」
わたくしはあの御方のお陰で強くなったの。妹と一緒に訓練しながら…。できればお会いしたいな。
「アニエス様、殿下はお変わりないのですか?」
「ええ、彼は特別任務をお受けになられて、毎日の様に山へお出掛けに…」
「山?…ですか?」
「わたくしにも詳細は教えてくれないのです。国の行く末を左右するほどの大事業みたい」
そうこうお話してるうちにお屋敷へ到着した。ソフィアが作物を持って歩く姿が見える。
「ソフィアーー!!」
「あ、アニエス様!お待ちしてました!」
「牧場や農園は順調?」
「はい。もう全て上手く育ち小麦や薬草も収穫して、あとは作るのみです」
念願のパン作り、それにわたくしの大事な任務であるお薬や薬膳料理、薬用酒、薬湯、化粧水に至るまで島やお国のため健康に役立てるものを作らないといけないのだ。
やることがたくさんある。
「…で、アレですけど」
あ、ああアレね。浮かれてる場合ではなかった。
「大丈夫かしら?」
「はい。なんとか。でも、細かいところはまだ…」
と、その時だ。
「ワンワン、ワ、ワーン!」
キースを連れた女性を見た時、わたくしは正直ゾッとした。まるで自分を見てるかの様なのだ。
「お姉様あーーん!!」
「カ、カリーヌ…!?」
独房で太ったって聞いてたけど、すっかり元のスタイルに戻って…いえ、寧ろ逞しくもなっていた。彼女はグレース様の指導もあって、すっかり反省して改心したらしく、バルナバさんの指示で仮釈放されている。そしてアレとは研修のこと。カリーヌは一週間前から牧場の仕事を手伝っていたのだ。
「お姉様、私にも色々教えてくださいね。うふふ」
「い、いいけど畑の匂いは慣れたの?」
「うん、いや苦手…でもね、毎日が楽しいよお」
わたくしはふと子供のころを思い出す。無邪気に笑う可愛い妹と今、重なった気がした。本来彼女は素直で明るい娘だ。これまで色々あったけど、やり直せるなら良好な関係を築きたい。ま、彼女は少々飽きっぽいのが欠点だけど。
「よおし、一緒にパン作ろうか?」
「やったー!お手伝いするよお!」
その晩、バルナバさんやベルティーユもお屋敷に訪れ、久々に皆んなと晩餐を楽しんだ。カリーヌと作ったパンを食べながら…。
わたくしはケヴィン様からの婚約破棄で人生が大きく変わっていった。勿論、それを望んだことは事実。でも、島流しされて良かったのだ。開放感満ち溢れた島で温かい人々に恵まれ、愛する人と結ばれた。好きなことを楽しめる喜びを知った。
全ては結果オーライなのだ。
だから、これからも“自由を満喫”します!!
島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪
── END ──
わたくしはジェラール様との婚儀を済ませ、晴れて王太子妃となった。そして暫くは王室から出られなかったけど、ようやく自由に島へ行ける環境が整い今、楽しい気分で船上から降りていった。
でも気がかりが一つある。それは…。
「お迎えにあがりました。アニエス様」
「ありがとう、コリンヌ」
彼女は島駐在の侍女に任命していた。因みに殿下の計らいでバルナバさんは統括責任者として、男爵の爵位を授与される予定なのでコリンヌも近々男爵夫人になる。
「あー、帰って来たって感じ。この潮の香り、新鮮な空気にのどかな風景…懐かしいわ!」
「牧場も変わりないですよ。アレ以外は…」
そう、アレなのだ。問題はアレ。
馬車に揺られながら彼女から近況報告を聞く。ベルティーユは監獄の責任者となって、未だ死刑執行されない薄唇さんの面倒を見てるらしい。殿下が執行のサインをなさらないのが原因だけど。いつも間にか独房から出て一般棟で囚人に建設の指導をしてると言う。
「まあ彼は器用だからね。それより王女様が監獄におられたなんて殿下から聞いてびっくりしたわ」
「ベルティーユ様も時々お会いしてる様です。実質グレース様が監獄を仕切ってるって仰ってました」
わたくしはあの御方のお陰で強くなったの。妹と一緒に訓練しながら…。できればお会いしたいな。
「アニエス様、殿下はお変わりないのですか?」
「ええ、彼は特別任務をお受けになられて、毎日の様に山へお出掛けに…」
「山?…ですか?」
「わたくしにも詳細は教えてくれないのです。国の行く末を左右するほどの大事業みたい」
そうこうお話してるうちにお屋敷へ到着した。ソフィアが作物を持って歩く姿が見える。
「ソフィアーー!!」
「あ、アニエス様!お待ちしてました!」
「牧場や農園は順調?」
「はい。もう全て上手く育ち小麦や薬草も収穫して、あとは作るのみです」
念願のパン作り、それにわたくしの大事な任務であるお薬や薬膳料理、薬用酒、薬湯、化粧水に至るまで島やお国のため健康に役立てるものを作らないといけないのだ。
やることがたくさんある。
「…で、アレですけど」
あ、ああアレね。浮かれてる場合ではなかった。
「大丈夫かしら?」
「はい。なんとか。でも、細かいところはまだ…」
と、その時だ。
「ワンワン、ワ、ワーン!」
キースを連れた女性を見た時、わたくしは正直ゾッとした。まるで自分を見てるかの様なのだ。
「お姉様あーーん!!」
「カ、カリーヌ…!?」
独房で太ったって聞いてたけど、すっかり元のスタイルに戻って…いえ、寧ろ逞しくもなっていた。彼女はグレース様の指導もあって、すっかり反省して改心したらしく、バルナバさんの指示で仮釈放されている。そしてアレとは研修のこと。カリーヌは一週間前から牧場の仕事を手伝っていたのだ。
「お姉様、私にも色々教えてくださいね。うふふ」
「い、いいけど畑の匂いは慣れたの?」
「うん、いや苦手…でもね、毎日が楽しいよお」
わたくしはふと子供のころを思い出す。無邪気に笑う可愛い妹と今、重なった気がした。本来彼女は素直で明るい娘だ。これまで色々あったけど、やり直せるなら良好な関係を築きたい。ま、彼女は少々飽きっぽいのが欠点だけど。
「よおし、一緒にパン作ろうか?」
「やったー!お手伝いするよお!」
その晩、バルナバさんやベルティーユもお屋敷に訪れ、久々に皆んなと晩餐を楽しんだ。カリーヌと作ったパンを食べながら…。
わたくしはケヴィン様からの婚約破棄で人生が大きく変わっていった。勿論、それを望んだことは事実。でも、島流しされて良かったのだ。開放感満ち溢れた島で温かい人々に恵まれ、愛する人と結ばれた。好きなことを楽しめる喜びを知った。
全ては結果オーライなのだ。
だから、これからも“自由を満喫”します!!
島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪
── END ──
0
お気に入りに追加
295
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(20件)
あなたにおすすめの小説
もうあなたを待ちません。でも、応援はします。
LIN
恋愛
私とスコットは同じ孤児院で育った。孤児院を出たら、私はこの村に残って食堂で働くけど、彼は王都に行って騎士になる。孤児院から出る最後の日、離れ離れになる私達は恋人になった。
遠征に行ってしまって、なかなか会えないスコット。周りの人達は結婚して家庭を持っているのに、私はスコットを待ち続けていた。
ある日、久しぶりに会えたスコットの寝言を聞いてしまった私は、知りたくもない事実を知ってしまったんだ…
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
本編完結、お疲れ様でした!
やっぱり、ハッピーエンドはいいものです。
ヒロインであるアニエスが自分らしく、生きていけそうで未来もきっと明るいものになりそうですね。
しかし、ラスボス妹ちゃん改心のきっかけは根性と気合で夕陽に走っていくスポ根青春だったんですね!
妹ちゃんも根は悪い子ではなかったようですし。
甘やかされたり、色々あって後天的にああなってしまっただけで後は時が解決してくれて、姉妹の仲も子供の頃のように戻る時が来るといいですね。
くろいゆき様
妹がどうにかマトモになって良かったです♪終盤は囚人棟のボスをベルティーユにしようと考えてましたが流石に無理だなって…。なので「王女」と言う想定外のキャラを出してしまいました。
まー、何はともあれ、初めて100話を超える作品を描くことができ、目指した「毎日更新」と「10万文字以上」の目標が達成したので嬉しい限りです。
くろいゆき様には要所で感想頂きまして、とても励みになりました!感謝です!ありがとうございました。(=´∀`)人(´∀`=)🎈🎈🎈
おかりなさい、薄唇さんなんて、言ってる場合ではなくなってきましたね。
妹ちゃん、こんなにも超危険人物だったんですか。
このままだと悪のアニエスのような存在と化して、監獄で仁義なき戦いが…。
仁義なき戦い、そこなんです。愚妹を改心させたいのですが…。
海外でどうしようもない不良少年少女を更生させるのに刑務所の怖い人に実地で教えてもらうと途端に言うこと聞くいい子になっていましたが、カリーヌにも怖い姐さん達と共同生活で教えてもらうんですね。
見た目まで恰幅よくなってパワーアップしちゃいましたが、これをきっかけに更生するといいですね。
そう願って大部屋入れたけど、どーでしょうねえ…困ったちゃんの潜在能力は侮れませんから!?