上 下
97 / 105

97.秘策

しおりを挟む
※ジェラール視点

「陛下、取り調べの中間報告です」

私は王都へ舞い戻っていた。ブリスの件もあるが、この国の行く末について、ルーク様のご意見を伺いたい。いや、正直言えば今の状況で婚姻しても良いのか迷っているのだ。

陛下はチラッと書類を見て興味なさそうに机の上に置いた。

「ジェラール、他に用事があるのだろう?」
「は…その…ビソンから聞きましたが、我が国の進むべき道筋をお伺いしたく参りました」
「ライクス王国の脅威か」
「はい。何か手立てがございますでしょうか?」
「ふむ、そろそろ聞きに来ると思っておった。儂にはな、秘策があるのだ」
「…は?秘策?秘策とは?」

一体、ルーク様に何の策があると言うのだ?この資源のない貧乏国が大国を牽制するほどのモノがあるとは思えない。

「ソフィアに頼んでおいたが上手くいきそうだ」
「彼女が何を?」
「金鉱山の発掘だ。あのジェントリの持ってる山々には大きな金脈がある。十年前に気づいたが伏せておいた」
「金山ですって!?何故、隠していたのですか?」
「ん?王室に言ってみろ。兄の私腹を肥すだけだ。大国の脅威が迫ってくるまで、このことは公にできないと判断したのだ」
「なるほど…で、ソフィアが陛下の使用人だったのは、もしかして?」
「うむ、彼女は人質だった。儂は望んでなかったがジェントリのアダン家から忠誠の証として差し出されたのだ。まあ一緒に暮らしてると情がわいてな。孫の様に可愛がっていた…」

陛下の話だと、正確な金脈の場所を知ってるのはアダン家当主とソフィアのみだったらしく、その当主は昨年亡くなっていた。つまり、現在知ってるのは彼女しかいない。十年前の記憶を頼りに金脈を当てたというわけだ。

「我が国に金脈が見つかったのは大変喜ばしいですが、金の使い道は武器を揃えることですか?」
「まあ自衛というより、密かに西国、東国の支援に使う。勿論、武器も含めてな」
「それはかなり危険な行為だと思いますが?」
「戦争反対派のビソンがルートを作っている。あいつなら上手くやるだろう。もし見つかったら我が国も戦乱に巻き込まれるが…」

な、な、何と恐ろしいことを…!?

「儂はな、西国、東国をライクス王国から独立させたい。それが我が国を守ることになる。そして三国同盟を結ぶ。金や武器はその手土産だ」

い、いかん、余りにも想像を超えた話についていけない。一人になりたいぞ。いや待て、逃げるな。私にはもう一つ相談せねばならないことがある。

超個人的な話で恥ずかしいが──。

「ではライクス王国に『恭順の意』を示すことはないと?」 
「あるわけがない。内乱が治らない限り奴らは我が国を攻める余裕がない。支援しながらチカラを蓄えておくのだ」

ならばっ…!

「陛下、実は私にはココロに想った人がおります。その人と結ばれたいのです。彼女にプロポーズしても宜しいでしょうか?」

言った、言ったぞ。我が国の行く末を案じる話の中で、自分勝手な願いで凄く恐縮だが…。

「あん?この前の公爵令嬢だろ?さっさと結婚して後継ぎを作れ。儂はそう長くはないぞ?」
「えっ?…で、では?」
「直ぐにプロポーズしてこい。必ず成功させろ。これは勅命だ!」

私は全身から汗が吹き出した…。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

もうあなたを待ちません。でも、応援はします。

LIN
恋愛
私とスコットは同じ孤児院で育った。孤児院を出たら、私はこの村に残って食堂で働くけど、彼は王都に行って騎士になる。孤児院から出る最後の日、離れ離れになる私達は恋人になった。 遠征に行ってしまって、なかなか会えないスコット。周りの人達は結婚して家庭を持っているのに、私はスコットを待ち続けていた。 ある日、久しぶりに会えたスコットの寝言を聞いてしまった私は、知りたくもない事実を知ってしまったんだ…

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

処理中です...