95 / 105
95.野放し
しおりを挟む
島に戻って四日目のこと。久しぶりのお城へベルティーユと参上した。殿下から呼ばれたのだ。
「殿下、長期の滞在許可をお許し頂き、ありがとうございました」
「うむ、暫くのんびりと過ごしてくれ。オードラン公爵には私から話を通してある」
「わあーー、嬉しいです!」
「いや、一緒に島へ行こうと誘っておきながら忙しくて、ゆっくり会えなかった。私はこれから王都へ帰らなければならない」
「えっ、そうなのですか?」
「ああ、だが直ぐに戻るつもりだ。だから島で待っててくれないか?」
「は、はい。お待ちしてます!」
──やった!この島にまだ居られるんだ!
サロンにはベルティーユが給仕してくれたお紅茶の芳醇な香りがする。それを一口頂き、ココロの中で喜びとともに深く味わっていた。
「ところで、ブリスのことだが…」
殿下は優しい眼差しから、少し厳し目の表情へ変わっていく。なのでわたくしも姿勢をただす。
薄唇さんのことはずっと気にかけていた。出来れば詳しい事情が知りたい。でも…、
「聞いても…宜しいのですか?」
「ああ。君達にとっては牧場の大切な仲間だしね」
「はい。わたくしは議会の窓から飛び降りたのを目撃しました。一体彼は…?」
「うむ、落ち着いて聞いてくれ。…あの日、ブリスはケヴィンを殺害して逃走したんだ」
えっ!?えっ!?ケヴィン様を彼が!?彼だったの!?
思わず手で口を覆う。お紅茶の味など吹っ飛んでいった。
シ、ショックだ。こともあろうか、王太子を殺害してたなんて想像もできないっ…!
「で、でも、何でそんな恐ろしいことを…?」
わけが分からないよ。
「理由は取り調べで明らかになっていくだろう。だが、これだけは言える。彼の行為は許されるべきではないが、それによってこの国の運命が大きく変わったのも事実だ」
そうだ。ジェラール様が王太子になられた。それに陛下も代わられた。そして何といっても、わたくしはケヴィン様の呪縛から解き放たれたのだ。
「実はルーク様からブリスの処分を一任されてね」
「…どうなさるおつもりですか?」
「悩んでる。彼は何人もの貴族を殺害してるしね。遺族のことを思うと…。また、王族に手をかけるのは絶対に許されないことだ。全ての真実を明らかにした上で判断するが、この状況では…ね」
「そうですか…」
でも、わたくしが知ってる彼は冷酷な殺し屋ではない。きっと理由があるはずだ。とはいえ、自分がどうこう言うべきではない。悲しいけど、ないのだ。
「どの様な結果になろうと、わたくしは殿下の判断を支持致します」
「そう言って貰えるとありがたい。彼は近いうちに監獄へ行くだろう。そこで最終判断をする」
「はい…」
ここで殿下の表情が少しだけ和らいだ。
「あ、そうだ。監獄と言えばカリーヌなんだが…」
「あ、あの、妹は改心したのでしょうか?」
「うむむ…それが…まあいい。聞きたいのは彼女が武術を嗜むのかどうかだ。そんな記憶はないが?」
あ…。これはカリーヌが暴れたのね。直ぐにピンときたわ。彼女が本気出せば…。
「殿下、妹はか弱い女性を演じていましたので、あまり表に出てないことですが、実はわたくしの練習相手を軽く倒すくらい強いです」
「…は?」
「幼い頃から一緒に特訓を積み重ねていました」
「な、何だって!?こ、これはいかん!!ベルティーユ、直ぐにバルナバの元へ!!」
やはり、監獄で手がつけられない状況になってるんだわ。でも、独房なのに?まさか、野放し?
「殿下、長期の滞在許可をお許し頂き、ありがとうございました」
「うむ、暫くのんびりと過ごしてくれ。オードラン公爵には私から話を通してある」
「わあーー、嬉しいです!」
「いや、一緒に島へ行こうと誘っておきながら忙しくて、ゆっくり会えなかった。私はこれから王都へ帰らなければならない」
「えっ、そうなのですか?」
「ああ、だが直ぐに戻るつもりだ。だから島で待っててくれないか?」
「は、はい。お待ちしてます!」
──やった!この島にまだ居られるんだ!
サロンにはベルティーユが給仕してくれたお紅茶の芳醇な香りがする。それを一口頂き、ココロの中で喜びとともに深く味わっていた。
「ところで、ブリスのことだが…」
殿下は優しい眼差しから、少し厳し目の表情へ変わっていく。なのでわたくしも姿勢をただす。
薄唇さんのことはずっと気にかけていた。出来れば詳しい事情が知りたい。でも…、
「聞いても…宜しいのですか?」
「ああ。君達にとっては牧場の大切な仲間だしね」
「はい。わたくしは議会の窓から飛び降りたのを目撃しました。一体彼は…?」
「うむ、落ち着いて聞いてくれ。…あの日、ブリスはケヴィンを殺害して逃走したんだ」
えっ!?えっ!?ケヴィン様を彼が!?彼だったの!?
思わず手で口を覆う。お紅茶の味など吹っ飛んでいった。
シ、ショックだ。こともあろうか、王太子を殺害してたなんて想像もできないっ…!
「で、でも、何でそんな恐ろしいことを…?」
わけが分からないよ。
「理由は取り調べで明らかになっていくだろう。だが、これだけは言える。彼の行為は許されるべきではないが、それによってこの国の運命が大きく変わったのも事実だ」
そうだ。ジェラール様が王太子になられた。それに陛下も代わられた。そして何といっても、わたくしはケヴィン様の呪縛から解き放たれたのだ。
「実はルーク様からブリスの処分を一任されてね」
「…どうなさるおつもりですか?」
「悩んでる。彼は何人もの貴族を殺害してるしね。遺族のことを思うと…。また、王族に手をかけるのは絶対に許されないことだ。全ての真実を明らかにした上で判断するが、この状況では…ね」
「そうですか…」
でも、わたくしが知ってる彼は冷酷な殺し屋ではない。きっと理由があるはずだ。とはいえ、自分がどうこう言うべきではない。悲しいけど、ないのだ。
「どの様な結果になろうと、わたくしは殿下の判断を支持致します」
「そう言って貰えるとありがたい。彼は近いうちに監獄へ行くだろう。そこで最終判断をする」
「はい…」
ここで殿下の表情が少しだけ和らいだ。
「あ、そうだ。監獄と言えばカリーヌなんだが…」
「あ、あの、妹は改心したのでしょうか?」
「うむむ…それが…まあいい。聞きたいのは彼女が武術を嗜むのかどうかだ。そんな記憶はないが?」
あ…。これはカリーヌが暴れたのね。直ぐにピンときたわ。彼女が本気出せば…。
「殿下、妹はか弱い女性を演じていましたので、あまり表に出てないことですが、実はわたくしの練習相手を軽く倒すくらい強いです」
「…は?」
「幼い頃から一緒に特訓を積み重ねていました」
「な、何だって!?こ、これはいかん!!ベルティーユ、直ぐにバルナバの元へ!!」
やはり、監獄で手がつけられない状況になってるんだわ。でも、独房なのに?まさか、野放し?
0
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「悪女」だそうなので、婚約破棄されましたが、ありがとう!第二の人生をはじめたいと思います!
あなはにす
恋愛
なんでも、わがままな伯爵令息の婚約者に合わせて過ごしていた男爵令嬢、ティア。ある日、学園で公衆の面前で、した覚えのない悪行を糾弾されて、婚約破棄を叫ばれる。しかし、なんでも、婚約者に合わせていたティアはこれからは、好きにしたい!と、思うが、両親から言われたことは、ただ、次の婚約を取り付けるということだけだった。
学校では、醜聞が広まり、ひとけのないところにいたティアの前に現れた、この国の第一王子は、なぜか自分のことを知っていて……?
婚約破棄から始まるシンデレラストーリー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします
tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。
だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。
「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」
悪役令嬢っぷりを発揮します!!!
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる