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89.ツボ

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※ジェラール視点

あれから一晩中考え、考え、考え抜いた。恐ろしい現実だが受け入れなければこの国は消滅する…そう結論づけた。ビソンの志しを信じよう。老獪なルーク様から学び、私の代で明るい未来を掴んでやる。

新たに決意を胸へ刻んだ。気がつけば朝。「コンコン」とノックが聞こえた。

バルナバだな。彼の愚痴を聞くのを忘れてた…。

「殿下あぁぁ、悩みごとは解決しましたかぁ?」
「うむ、すっきりした。バルナバ、改めて礼を言おう。この二ヶ月間、良くやったな」
「はい。死ぬほど頑張りました!」
「そ、そうか。死ぬほどな…まあ見たところ大体の執務はできてる様だ。決済は今日中に処理しよう。で、何か言いたいことがある様だが?」

彼は目を麗し何度も「うんうん」と頷いた。

「本題の前に先ず、アニエス様の滞在許可申請をお願いします。短期ですか?それとも多めに長期にしときます?」

あ、そうだ。彼女へプロポーズする予定だったな。だが…本当にしても良いのだろうか?

色々と考えてるうちに迷いが出た。気になることもある。先ず、当たり前のことだがアニエスがどう思ってるかだ。彼女はこれまでケヴィンの婚約者として英才教育を受けてきた。ずっと我慢して生きてきたのだ。それが島流しされて緩い監視の元で自由を覚えた。王都より生き生きしてる。私と結ばれて王太子妃になることは望んでない気がする。

それと王国の脅威だ。たとえ戦争は回避できても、もし属国となればライクスの皇室と婚姻を結ぶってことにならないか?

無論、受け入れたくはないが。

考えられる最悪のシナリオは、アニエスと結婚した後で無理矢理引き裂かれるってこと。そうなれば彼女はどうなる?守ってやりたいが我が国は弱い立場だ。彼女を不幸にするかもしれない…。

「殿下?殿下?…何かツボにハマっちゃいました?短期か長期かの単純な選択なんですけど…?」

これは焦って結論を出さぬ方が良い。彼女の気持ちを確かめることは勿論、戦略を練っておられるルーク様にもご相談すべきだ。今は時間が欲しい。

「バルナバ、長期にしよう」
「はい、かしこまりました」

ソフィアが予定通り帰って来るとは限らないしな。

「それで本題ですけどね…話していいですか?」
「…ん?ああ、何だ?じっくり聞こうではないか」
「はいっ、聞いてください!罪人カリーヌのことですう!!」

そこからバルナバは、これまでの経緯を愚痴混じりで長々と話し出した。永遠に続くかと思った。だが二ヶ月間頑張ったので我慢して聞いてあげた。

彼女を更生させるべく、様々な取り組みをしたが、ことごとく裏切り続けるカリーヌへの失望。凶暴な性格が全然治らない。不健康な生活により醜く太っていく姿…更生しないのは自分が無能だと思えてくる。そして何よりもアニエス様に申し訳ないと…。

「僕はどうしたらいいのですか!?」
「うむ、バルナバ…妙案が浮かんだ」
「ええっ?そ、それは何ですか??」

私は悩める彼にある策を授けた。更生するかどうかの確証はないが…。














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