上 下
75 / 105

75.責任者

しおりを挟む
※バルナバ視点

辛いお別れだった。アニエス様はお付きの侍女と公爵家へお戻りになられた。ただ、僕は悲し過ぎるはずの感情がちょっと違っている。

あの時、印象的だった姉妹の会話を思い出す。

「カリーヌ。これでおあいこかしら?」
「…おあいこ???」
「ええ。貴女には腹が立つけど、わたくしもケヴィン様とは人生をともにしたくなかったからね。だから貴女には関係なく、結局は島流しされたのかなって…」
「ふーーん!」
「でもね、あんな真似しなくても譲れるものなら譲りたかったよ」
「ふーーん!」
「罪を償って島から戻って来たら、子供のころの様に仲良くしようね。…じゃあ」

そう言い残し去って行くアニエス様を、皆んなで涙を浮かべてお見送りしてたら、彼女は「ふんっ!」と、言葉を吐き捨てた。鬼の形相だった。

そっくりな容姿だけど、性格が真逆なカリーヌを僕は監獄の責任者として、面倒見なければならない。そう思うと憂鬱にもなるさ。

「殿下…やっぱり僕では荷が重いよう」

定期便の船上で王都を眺めながら一人呟いた。僕たち一行は厳重な監視の元、罪人カリーヌを島へ移送している最中なのだ。
 
ここで殿下とのやり取りを思い出し、更にネガティブな気分になる。

「バルナバ、ペチャア島は一旦お前に任す。責任者だ。島や監獄の運営を頼む。私も時々行くから」
「は…?せ、責任者って…そんないきなり…」
「お前なら出来る。あ、カリーヌには厳しくな」
「いや、あの…」
「それと特別室にを連れて行く。準備を整えておくように」
「だから、ちょっと待って!待ってよ殿下!殿下ったらーーっ!」

王太子になられて滅茶苦茶忙しいのか、そう簡単げに仰った殿下は風の様に去って行く。残された僕は途方に暮れた。

そりゃあ僕だって島のために尽くそうと思ってる。守ってやるって誓ったさ。だけど、責任者って…!いやいや、無理があり過ぎるだろ!

「ああ、せめてアイツが居てくれたらな…」

ふと、監査官殿のことが頭をよぎった。口は悪いが頼りになる。それに人には厳しい。だけど、殿下から密かに聞いて皆んなには詳しく言ってないけど、彼はケヴィン王太子を殺した犯罪者だ。手配されている。捕まったとしても…。

ハッ!や、やつも監獄へ収監されるのか?僕はブリスの面倒も見ることになるのか?いや、やつは色んな貴族も殺したんだ。速攻死刑だろう。それでも殿下は…助けるだろうか…?

そんな暗いことばかりを思い浮かべているうちに、船はペチャア島へ着港した。

「バルナバ様、一旦、お屋敷へ戻りますが、私どものをお考えくださいね」
「ん?」

あ、そうか。もうアニエス様は居ないんだ。ベルティーユやコリンヌの配置も決めないと。考えることが多すぎるな。

取り敢えずは、この罪人を収監しなければ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

もうあなたを待ちません。でも、応援はします。

LIN
恋愛
私とスコットは同じ孤児院で育った。孤児院を出たら、私はこの村に残って食堂で働くけど、彼は王都に行って騎士になる。孤児院から出る最後の日、離れ離れになる私達は恋人になった。 遠征に行ってしまって、なかなか会えないスコット。周りの人達は結婚して家庭を持っているのに、私はスコットを待ち続けていた。 ある日、久しぶりに会えたスコットの寝言を聞いてしまった私は、知りたくもない事実を知ってしまったんだ…

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...