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69.呆然

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王都に来てから五日後のことだった。ゲストルームへ監禁されたに等しいわたくしたちの元へ、コンコンっと久々のノック音がした。

「は、はい」と、バルナバさんが恐る恐る返事をすると、扉の向こう側から殿下の声が聞こえたのだ。

「ああ、殿下ーー!お会いしたかったですう!」
「バルナバ、遅くなったな」

ルームの中へ案内されたジェラール様は、大礼服に身を包まれていた。何かの儀式でしょうか?

「アニエス、心配かけて申し訳ない」
「い、いえ…あの殿下、先日窓から落ちた御方を見ましたが…」
「…あれはブリスだ。色々あってな。今も行方が分からない」
「やっぱり…!」

ブリスと聞いてベルティーユやコリンヌが心配の表情を浮かべる。これまで散々「薄唇さん」などと、悪い通称で呼んでいたが、ココロの中では仲間意識が芽生えているのだ。

「心配は要らない。総力を挙げて捜索してるから、そのうち見つかるだろう」

彼は一体何を…?と、聞きたいけど聞くのも怖いし、聞いてはいけない雰囲気を感じた。

「ところで、私はこれから即位の儀式がある。その後、宮殿へ来て欲しい。アニエスを陛下に紹介したいのだ」
「えっ?」

ち、ちょっと待って!?即位って何の?陛下って?わたくし、拝謁したことあるよ!婚約した時や断罪された時に…今さら何の紹介なの?

「すまないが時間がない。準備を頼む」

そう仰ってジェラール様はルームを後にした。慌ててバルナバさんが追いかける。

「殿下、殿下ーったらあ!」

ほんのひと時の時間だったけど、わけが分からないことだらけだ。でも、とにかく支度するしかない。

「アニエス様、ドレスを仕入れて参ります。コリンヌは髪結、お化粧の準備を!」

さっとベルティーユが動いた。こんな時は頼りになる。


暫くして、どこで手に入れたのか謎だけど、豪華なドレスや装飾品を持ったベルティーユが戻り、そしてバルナバさんも戻ってきた。彼は呆然としてる様だ。

「バルナバ…さん?」
「た、た、大変なことになってるよお!?」

とても興味があるけど聞くのも怖い気がする。でも、彼は言いたくてウズウズしてるみたいだ。

「落ち着いて説明してくださる?」
「は、はい。えーと…何から言おうか?…あ、そうだ。殿下が王太子に即位します!」
「はい???」
「何でもケヴィン様が不慮の事故でお亡くなりになったとか…それで王位継承にですね…」

──お、お亡くなりになった…?ケヴィン様が?

とても信じられない出来ごとに言葉を失った。

「えー、それから事情は分かりませんが、陛下の体調が優れないので、急遽ペチェア島から弟君を国王代理でお迎えしたそうです。なので、アニエス様はルーク様にご紹介されるわけで…」

頭がパニックになった。ベルティーユから髪結されてるのも忘れて、わたくしは呆然としてしまう。

「あと、監視官殿については情報が入りませんでしたので不明です。あ、殿下の付き人が呼びに来るので、それまでにご支度を!…アニエス様?」

ケヴィン様がお亡くなりになったってことは、カリーヌはどうなるのだろう?それからジェラール様はわたくしを呼んで何がしたいの???

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