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65.正義
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※ジェラール視点
「…は、拝謁した際はお元気そうでした。王弟殿下は自分の存在が政局の安定を損なうと、自らが監獄へお入りになったのです」
わ、私は何を正直に話してるんだ…?
「ジェラール!?」
雲行きが怪しいと思われたのか、陛下の声が聞こえた気がする。だが、それも気の所為かもしれない。それほど私は動揺していた。
「今でもルーク様を慕う貴族は多い。私もよからぬ嫌疑を掛けられない様、出来るだけ拝謁を避けていました。しかし…」
「しかし?…しかし何だ!?彼は亡くなったのだろう?さっさと言わんか!」
今度ははっきりと陛下の声が聞こえた。
やはり本当のことを言うべきではないのか…?
私はこの土壇場で“正義”の意思が目覚めた様だ。公の場でデタラメを言うわけにはいかない。例えそれが、どんな結末になろうとも──。
「陛下…申し訳ございません。虚偽の報告をしていました」
「なっ…?」
「皆さん、ルーク様は生きております!!」
「何だと!?」
「お、おい…今、生きてるって言ったか?」
その言葉をきっかけに貴族らが歓声を上げた。
「そ、そうだ!あの御方がお亡くなりになるわけがない!これは陰謀だ!」
「どういうことですか?なぜ嘘を?」
「ご説明頂こう!」
会場はざわめき、登壇へ向かう貴族たちを警護の者が必死に抑える。
「お、お前は国王である私を騙したのか!?」
「はい。それがルーク様を助ける手立てかと」
「貴様あああ!許さん!取り押さえろおお!」
陛下の号令とともに、背後から警護の者が私を捕らえた。
これは一体何だ?どうなってる?隣では兄がブリスに羽交締めされ、私たち第一王子、第二王子は宮廷の貴族院議会で無様に自由を奪われているのだ。
そして、その姿をブリスが微笑んで見ている。
…お前は私を助けないのか?まだ全ての真実を語ってないぞ?
「はははは…流石は正直者のジェラール殿下だ。よく言った。おっと、警護の者よ、俺に近づくな。王太子を殺すぞ?」
登壇から降りたブリスは、兄の首に刀を当てたまま議会の中央へ移動した。彼を中心に貴族らの輪ができている。
「皆の者!よおく聞け!」
「ブリス!?もうやめろ!死にたいのか!」
陛下の叫び声が鳴り響く。
「ふん!陛下は俺にルーク様の殺害を命じられたのだ!まあ、やらなかったがな」
「陛下が命じただと!?どう言うことだ?」
「自分にとって不都合な御方なんだろう。いや、それだけじゃないぞ。これまで何人ものルーク派の貴族を殺してきた。どうだ?此処に居る遺族どもよ、俺が憎いだろう。だがな、全ては勅命なのだ!」
貴族が一斉に陛下へ嫌疑の目を向けた。
「ば、馬鹿な。こんな血迷ったヤツの言うことなんか信じなくてもよい!」
「証拠ならある。これを見ろ!」
彼は懐から金貨の様なものをばら撒いた。チャリーンと床に転げ落ちたそれは、金の牡丹だ。
「エマール公爵、ブランザ公爵、エドガール公爵…まだまだあるぞ!彼らが身に付けていたものだ。確かめてみろ!」
「お…お前…」
わなわな…と、陛下は怒りと屈辱に満ちた表情を浮かべ、カラダを震わしている。
牡丹を拾った遺族は、それが父親のものだと分かり陛下へ詰め寄った。
「陛下!ご説明ください!」
「し、し、知らん!こいつが勝手に盗んだものだろう!」
暴動寸前の貴族が動いたその隙に、ブリスは兄を連れて議会の窓際まで移動していた。そして大声を発する。
「おい、お前らあ!陛下を責めるのは後にしろっ!その前に、もう一人断罪せねばな…」
『ガッシャーーン!!』
彼は徐に窓ガラスを割る。
な、何をする気だ?ブリス???
「…は、拝謁した際はお元気そうでした。王弟殿下は自分の存在が政局の安定を損なうと、自らが監獄へお入りになったのです」
わ、私は何を正直に話してるんだ…?
「ジェラール!?」
雲行きが怪しいと思われたのか、陛下の声が聞こえた気がする。だが、それも気の所為かもしれない。それほど私は動揺していた。
「今でもルーク様を慕う貴族は多い。私もよからぬ嫌疑を掛けられない様、出来るだけ拝謁を避けていました。しかし…」
「しかし?…しかし何だ!?彼は亡くなったのだろう?さっさと言わんか!」
今度ははっきりと陛下の声が聞こえた。
やはり本当のことを言うべきではないのか…?
私はこの土壇場で“正義”の意思が目覚めた様だ。公の場でデタラメを言うわけにはいかない。例えそれが、どんな結末になろうとも──。
「陛下…申し訳ございません。虚偽の報告をしていました」
「なっ…?」
「皆さん、ルーク様は生きております!!」
「何だと!?」
「お、おい…今、生きてるって言ったか?」
その言葉をきっかけに貴族らが歓声を上げた。
「そ、そうだ!あの御方がお亡くなりになるわけがない!これは陰謀だ!」
「どういうことですか?なぜ嘘を?」
「ご説明頂こう!」
会場はざわめき、登壇へ向かう貴族たちを警護の者が必死に抑える。
「お、お前は国王である私を騙したのか!?」
「はい。それがルーク様を助ける手立てかと」
「貴様あああ!許さん!取り押さえろおお!」
陛下の号令とともに、背後から警護の者が私を捕らえた。
これは一体何だ?どうなってる?隣では兄がブリスに羽交締めされ、私たち第一王子、第二王子は宮廷の貴族院議会で無様に自由を奪われているのだ。
そして、その姿をブリスが微笑んで見ている。
…お前は私を助けないのか?まだ全ての真実を語ってないぞ?
「はははは…流石は正直者のジェラール殿下だ。よく言った。おっと、警護の者よ、俺に近づくな。王太子を殺すぞ?」
登壇から降りたブリスは、兄の首に刀を当てたまま議会の中央へ移動した。彼を中心に貴族らの輪ができている。
「皆の者!よおく聞け!」
「ブリス!?もうやめろ!死にたいのか!」
陛下の叫び声が鳴り響く。
「ふん!陛下は俺にルーク様の殺害を命じられたのだ!まあ、やらなかったがな」
「陛下が命じただと!?どう言うことだ?」
「自分にとって不都合な御方なんだろう。いや、それだけじゃないぞ。これまで何人ものルーク派の貴族を殺してきた。どうだ?此処に居る遺族どもよ、俺が憎いだろう。だがな、全ては勅命なのだ!」
貴族が一斉に陛下へ嫌疑の目を向けた。
「ば、馬鹿な。こんな血迷ったヤツの言うことなんか信じなくてもよい!」
「証拠ならある。これを見ろ!」
彼は懐から金貨の様なものをばら撒いた。チャリーンと床に転げ落ちたそれは、金の牡丹だ。
「エマール公爵、ブランザ公爵、エドガール公爵…まだまだあるぞ!彼らが身に付けていたものだ。確かめてみろ!」
「お…お前…」
わなわな…と、陛下は怒りと屈辱に満ちた表情を浮かべ、カラダを震わしている。
牡丹を拾った遺族は、それが父親のものだと分かり陛下へ詰め寄った。
「陛下!ご説明ください!」
「し、し、知らん!こいつが勝手に盗んだものだろう!」
暴動寸前の貴族が動いたその隙に、ブリスは兄を連れて議会の窓際まで移動していた。そして大声を発する。
「おい、お前らあ!陛下を責めるのは後にしろっ!その前に、もう一人断罪せねばな…」
『ガッシャーーン!!』
彼は徐に窓ガラスを割る。
な、何をする気だ?ブリス???
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