上 下
38 / 105

38.宝の山

しおりを挟む
「あ、此処にもあった!」

わたくしは驚いている。この島に、これほどの薬草が眠っているとは思わなかったからだ。子供の頃から、よく山へ登って薬草や山菜採りを楽しんでいたけど、今まで経験がないくらいの収穫に興奮が冷めやらない。

「アニエス様、よく見つけますね」
「うん、バルナバさん。この島は宝の山よ!」

今日は朝からペチェア島の東南にある小高い山へ、薬草や山菜採りに出掛けていた。薄唇さん、バルナバさん、コリンヌ、それに島の役人が五人も居る。それと、番犬キースもね。

「僕はよく分からないのですが…」
「何だ。お前、知らんのか?」
「むむっ、監視殿はご存知なんですか?」

薄唇さんはカゴに入った薬草を取り出し解説する。

「ふん。この可憐で青い花がブラッククミンだ。鎮痛や抗菌作用がある。“祝福の種”とも呼ばれている。そして、この小ちゃい黄色の花がスベリヒユ。食用でもイケるが虫刺されに効用がある。にしても、こんなに多く自生してるとは驚きだな」

確かにそう。これ以外にも女性向け生薬のチェストベリー、喉や気管の炎症を抑えるオルガノなど、この島に育まれている植物は素晴らしいと思った。

「へえー、詳しいんですね」
「まあな、特殊部隊にいたから山で食べられるものは見分けがつく」
「あ、僕も山菜なら分かりますよ!」

別のカゴにはキノコや三つ葉、アスパラソバージュなどが一杯入っている。

「キノコは毒性もあるんだ。素人が勝手に採るんじゃないぞ」
「むむっ、そーですね。分かりましたよ。僕は指示されたモノだけをひたすら採りますから!」

バルナバさんはちょっぴりはぶてていたけど、それを無視して別の話をする。

「にしてもだ。この薬草は島の財源になるかもしれないな。そのために役人も来てるんだろ?」
「え?いえいえ、殿下は財源と言うより、島の医療に役立てたいとのお考えですよ」
「ふーん。島の医療ねえ。だが、大量に作れば本土へ売ることも出来るよな」
「そ、そうかもしれませんが…」
「これはアニエスにかかってるぞ」
「はい?」

そう言われるとプレッシャーに感じてしまう。

島の財源ですか。正直そこまでは考えてなかったよ。それにお薬作るにはそれなりの人手が必要だしね。でも、わたくしの知識が少しでもお役に立つなら島のために頑張ってみようかしら…。

そうポジティブに捉えることにした。

「まあ、そこは今後の話ということで…あー、もうお昼ですねー!皆さん、食事にしましょうー!」

バルナバさんの掛け声で、コリンヌが用意していたお弁当を皆んなに配っていく。

「お?これはベルティーユが作った弁当か?どれどれ!」
「監視官殿、美味しいですねー」
「ん?まあまあだな!」

誰よりも薄唇さんが美味しそうにがっついている。それをバルナバさんが微笑ましくも冷静に見てる姿が印象的だった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もうあなたを待ちません。でも、応援はします。

LIN
恋愛
私とスコットは同じ孤児院で育った。孤児院を出たら、私はこの村に残って食堂で働くけど、彼は王都に行って騎士になる。孤児院から出る最後の日、離れ離れになる私達は恋人になった。 遠征に行ってしまって、なかなか会えないスコット。周りの人達は結婚して家庭を持っているのに、私はスコットを待ち続けていた。 ある日、久しぶりに会えたスコットの寝言を聞いてしまった私は、知りたくもない事実を知ってしまったんだ…

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...