上 下
34 / 105

34.涙の再会

しおりを挟む
ジェラール様と対面する──、そう考えると落ち着かないよ。この島で自由に過ごしているけれど、わたくしは。彼にどんな態度で接すれば良いの?だって、島流しされたオンナが自給自足したいから畑の土地をもっと欲しい!だなんて、どう考えても厚かましいでしょう!?

あー、マズい。絶対マズいよねー?

そうココロの中で叫んでいた。

そんな心境が伝わったのか、ベルティーユが心配しながらわたくしの髪を結っている。

「アニエス様、如何されました?」
「う…ん。お会いする自信がないって言うか…」
「大丈夫です。お綺麗ですよ。こんな日が来ると思ってお洋服も準備してましたし…まあ借り物ですけど。それに王都から取り寄せたお化粧品が間に合って良かったです」

鏡を見る自分は確かに罪人とは思えない。まるで貴族の様な装いに懐かしささえ抱いている。

「ねえ、やっぱり会いたくないな…」
「何故です?」
「だって…」
「自信をお持ちください。罪人とはいえ、貴女は立派な公爵令嬢です。それにいざとなればソフィアが上手く説明しますから」

脚が震えていた。でも、もう時間だ。わたくしは極度の緊張の中、重い足取りでお屋敷を出た。

「ふぅーー」

何度も深呼吸を繰り返しながら待っていると、白馬の王子様率いるお役人さんたち一行が見えてくる。

「あ、お越しになられましたよ」

コリンヌやソフィアはワクワクしてる様だ。それにしても結構な人数。もはやあれは視察団だ。

「バルナバさん含めて、十数人も居ますねえ」

そんな声が聞こえたけど、わたくしは白馬の主しか意識できない。

そしてパカッパカッという蹄の音が間近に迫った。いよいよあの御方が目の前に来るのだ。コリンヌ、ソフィア、ベルティーユ、そして今日は何故か無口な薄口さんが一斉に頭を下げて出迎えた。

「アニエス様ー、殿下がお越しになられましたよー!見て見て、あのセーター着てますよー!」

バルナバさんの明るい声が鳴り響く。

セ、セーター。そっか、わざわざプレゼントしたセーターを着てくれたんだ…。バルナバさん、きっとお話しやすい様に気を使ってるのね。

そうは思ったものの、どうリアクションして良いのか分からない。

そうだわ。お花の…ライラックの御礼を言わなきゃ。

「久しぶりだな、アニエス」

そう彼に声をかけられた瞬間、わたくしは頭が真っ白になってしまった。と、同時に十年ぶりの再会がこの様な形となって、申し訳ない気持ちが全面に出てしまう。

ま、先ずは謝らないと。罪人となってしまったことを。

「ジェラール様…」

でもそれ以上、言葉が出なかった。そんな自分が情けなくて涙が出そうだ。

「セーター、ありがとう。大事にするよ」

何も言えないわたくしに気遣って、彼は優しい言葉をかけてくれた。

謝らなきゃ!謝らなきゃ!

「わたくし…あの…」  

ダメだ。涙が溢れてしまった。

『ジェラール様、ごめんなさい。罪人となって。でもね、本当は違うの』

ココロの中で呟くので精一杯だった。

「わー、アニエス様、感激してるんですね?殿下、説明はソフィアにして貰います」
「う、うむ」

結局、ジェラール様はバルナバさんやソフィアに連れられ、牧場へ行ってしまう。

失意で項垂れてるわたくしの肩を、そっとベルティーユが支えてくれた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

聖なる巫女の条件は、私欲で変えられませんので

三谷朱花
恋愛
グラフィ・ベルガット公爵令嬢は、カムシャ国で代々巫女を輩出しているベルガット家の次期巫女だ。代々その巫女は、長女であることが通例で、その下の妹たちが巫女となることはなかった……はずだった。 ※アルファポリスのみの公開です。

『残念』悪役令嬢はざまぁを目指すようです

真咲
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生させられた仁科美華は、あれよあれよというまに断罪され、下町に追放された。 「さてと、今日もいっちょ頑張りますかぁ!」 衣食住、安定した収入はかかせませんね? とあるナルシストイケメンを脅し……いえ、かわいくお願いして家も貸してもらいましたし、和食とかの再現もできたらいいですねぇ。衣?えっと……お風呂どうしよう。 仕事は、まぁあたし魔法使える元貴族ですし? 魔法を利用すれば何でもできちゃうかなって☆ ほらあたし、デキる女ですから☆ ………………あ、それと忘れたりは絶対にしないんですが、バッチリ復讐はさせていただきたいものですっ! あたしを陥れた仕打ちはきーっちり受けてもらわなきゃいけないですもんね! ラブコメなファンタジーなので、よろしくですです!

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

婚約破棄からの国外追放、それで戻って来て欲しいって馬鹿なんですか? それとも馬鹿なんですか?

☆ミ
恋愛
王子との婚約を破棄されて公爵の娘としてショックでした、そのうえ国外追放までされて正直終わったなって でもその後に王子が戻って来て欲しいって使者を送って来たんです 戻ると思っているとか馬鹿なの? それとも馬鹿なの? ワタクシ絶対にもう王都には戻りません! あ、でもお父さまはなんて仰るかしら こんな不甲斐ない娘との縁を切ってしまうかもしれませんね でも、その時は素直に従いましょう

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

処理中です...