上 下
33 / 105

33.再会

しおりを挟む
※ジェラール視点

──結局、眠れなかった。コンデションは最悪だ。だが、アニエスが居るとは限らない…よな?

そんな淡い期待をしながら支度を整える。ふと、セーターが目に入った。今朝は肌寒いから丁度良い。などと思ったが、袖を通すのは何となく恥ずかしい。

コン、コン。

あ、バルナバだ。もう来たのか。気の早いやつだ。

「おはようございます。あれ?セーター着ないのですか?」
「えっ?」

何だ、こいつは。開口一番、私が気にしてることをズケズケと!

「き、着た方が良いのかな?」
「勿論です!アニエス様にお見せしないと!」

その瞬間、私の淡い期待は露と消え失せる。

やはり、彼女は居るんだ。ああ、ついに面と向かって話をしなければならないのか…?

『落ち着け、これは公務だ。冷静になれ!』

そう自分に言い聞かせて、やむなく出発した。


パカッパカッと白馬に跨った私は、多くの役人を引き連れ視察に向かう。大礼服ではないが、パールホワイトの制服でブラウンのセーターが垣間見える、それなりの正装だ。

「殿下、こんなに役人をぞろぞろ引き連れて…」
「うん?土地の区画を決めるんだ。専門家や担当の者が必要だろう?」
「まあ、そうですが」

と言うか、私一人では心細かったのだ。バルナバ、そこは察してほしいぞ。


さて、屋敷が見えてきたな。一人、二人…五人も居る。いよいよか。

「説明は誰がするのだ?」
「アニエス様に決まってるでしょう?」
「そ、そうか」

お前が上手く立ち回ってくれ。そうココロの中でバルナバに言ってみる。だが、それはかなりの危険を伴うだろう。そんな予感がした。

「アニエス様ー、殿下がお越しになられましたよー!見て見て、あのセーター着てますよー!」

こ、こいつ…!いきなり余計なことを!

屋敷の前で一礼するアニエス、コリンヌ、ベルティーユ、ソフィア。そしてブリスが居た。

ブリスが居るとプレッシャーになるな。いや、もう観念しろ。私は領主として来てるんだ。これは公務だ。堂々と振る舞え!

「久しぶりだな、アニエス」

意外と冷静な自分に驚いてる。彼女の目をしっかり見て、口にした。

「ジェラール様…」

彼女は言葉が詰まった様だ。私たちは幼馴染。十年ぶりの再会ではあるものの、立場は領主と罪人なのだ。恐らく気まずいのだろう。

「セーター、ありがとう。大事にするよ」

彼女が少し不憫に思えた。思わず、優しい言葉をかけてしまう。  

「わたくし…あの…」  

ん?泣いてるのか?これは予想外の展開だぞ?私はどうすればいいのだ?

「わー、アニエス様、感激してるんですね?殿下、説明はソフィアにして貰います」
「う、うむ」

ナ、ナイスフォロー、バルナバ。お前にしては機転が利くじゃないか。

その場にアニエスらを置いて、バルナバ、ソフィアに先導されながら、牧場の敷地内へと入って行く。
私はアニエスが気がかりだった。彼女は何かを訴えたいのかもしれない。自身の罪について、話を聞いて欲しいのではないだろうか?

もはや、そのことで頭が一杯だ。

「なあ、バルナバ。日を改めてアニエスと面談しよう」

王都で何があったのか知りたい。そして、私に出来ることはないのか?彼女のチカラになりたい。

──そう思った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もうあなたを待ちません。でも、応援はします。

LIN
恋愛
私とスコットは同じ孤児院で育った。孤児院を出たら、私はこの村に残って食堂で働くけど、彼は王都に行って騎士になる。孤児院から出る最後の日、離れ離れになる私達は恋人になった。 遠征に行ってしまって、なかなか会えないスコット。周りの人達は結婚して家庭を持っているのに、私はスコットを待ち続けていた。 ある日、久しぶりに会えたスコットの寝言を聞いてしまった私は、知りたくもない事実を知ってしまったんだ…

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

処理中です...