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25.羊舎
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※バルナバ視点
コン、コン、コン、コン!
「おい、先にこっちだろ!お前らさっさと釘持ってこい!」
慣れた手つきで柱に釘を打ち付ける薄唇殿を見上げながら、僕は不満に思っていた。
何でこいつが仕切ってるんだ?
「あの、監視官殿。アニエス様の監視はいいのでしょうか?」
「あん?お前が言い出したんだろ。不在の間に羊舎を建てて、びっくりさせようって」
「いや、だから、それは、こうして城から番匠を呼んでですね…」
この作業を行ってるのは僕らだけじゃない。と言うか、僕が携わる予定ではなかった。
確かにそう言ったさ。ニワトリに続いて羊を飼いたいってアニエス様が仰るから、漁港へ行ってる間に建てときたいと。だから殿下の許可を得て、昨日のうちに番匠へ頼んでおいたんだ。それはあくまでも建築屋のプロが建てるのであって、僕はいつもの如く、彼女について行こうと思っていた。
それを薄唇殿がしゃしゃりでて「お前も手伝え」って言うから…現在に至ってる。
「どうせいつもの行動パターンだろ?後で食堂で合流すればいい」
「いや、でも…職務として」
「大丈夫だ。彼女は逃げない。それに万が一、襲われても負けはしないだろう」
そ、そりゃあそうだよ。アニエス様は脱走なんかしないし、武術も嗜んでるから問題ない。それくらい分かってるよ。
僕の心境は最早「監視」ではなく「付人」なんだ。この島で一生過ごすことになった令嬢に寄り添い、手助けをしたいって思ってる…。
しかしコイツ、今更何をそんなに張り切ってるのか。心境の変化でもあるなら確認したい。
「ところで監視官殿はペチェア島が気に入りましたか?」
少し意地悪な質問をしてみた。
「はあ?ここは魚が美味い以外、なーんもない退屈な島だ。だから大工して気を紛らわせてるんだよ」
そ、そうですか…って聞くんじゃなかった。
「僕はてっきり子供に懐かれて、島が好きになったのかと!」
「…ふん!子供は苦手だ!」
いやいや、子供に抱きつかれて満更でもない様子だったでしょう?
「そんな話より、羊の手配はしてるのか?」
くそお。話を逸らされた。
「ええ、ジャコブを三頭ほど」
「ほう。古代種の血を引く希少種じゃないか。奮発したな」
「乳用として、殿下がお選びになりました」
「殿下がねえー」
「如何しましたか?」
「いやあ、随分と罪人に甘いんだなと思ってね」
「特別待遇だからでしょう。それにアニエス様だけじゃないです。島民には大抵甘いです。殿下は!」
コン、コン、コン、コン!
薄唇殿は無言で釘を打つ。
おい、何とか言えよ?
「バルナバ、お前の主人は立派な御方だ。第一王子だったら良かったのにな…」
コン、コン、コン、コン!
「え?今、何て?」
「だーかーらー、釘を持ってこいって言ったんだ」
偉そうに。コイツはやっぱり好きになれないな…。
でも、何だかんだと言いながらも、昼前には羊舎が出来上がったのだ。悔しけど薄唇殿のおかげだと、ほんの少しだけココロの中で彼を褒めてやった。
コン、コン、コン、コン!
「おい、先にこっちだろ!お前らさっさと釘持ってこい!」
慣れた手つきで柱に釘を打ち付ける薄唇殿を見上げながら、僕は不満に思っていた。
何でこいつが仕切ってるんだ?
「あの、監視官殿。アニエス様の監視はいいのでしょうか?」
「あん?お前が言い出したんだろ。不在の間に羊舎を建てて、びっくりさせようって」
「いや、だから、それは、こうして城から番匠を呼んでですね…」
この作業を行ってるのは僕らだけじゃない。と言うか、僕が携わる予定ではなかった。
確かにそう言ったさ。ニワトリに続いて羊を飼いたいってアニエス様が仰るから、漁港へ行ってる間に建てときたいと。だから殿下の許可を得て、昨日のうちに番匠へ頼んでおいたんだ。それはあくまでも建築屋のプロが建てるのであって、僕はいつもの如く、彼女について行こうと思っていた。
それを薄唇殿がしゃしゃりでて「お前も手伝え」って言うから…現在に至ってる。
「どうせいつもの行動パターンだろ?後で食堂で合流すればいい」
「いや、でも…職務として」
「大丈夫だ。彼女は逃げない。それに万が一、襲われても負けはしないだろう」
そ、そりゃあそうだよ。アニエス様は脱走なんかしないし、武術も嗜んでるから問題ない。それくらい分かってるよ。
僕の心境は最早「監視」ではなく「付人」なんだ。この島で一生過ごすことになった令嬢に寄り添い、手助けをしたいって思ってる…。
しかしコイツ、今更何をそんなに張り切ってるのか。心境の変化でもあるなら確認したい。
「ところで監視官殿はペチェア島が気に入りましたか?」
少し意地悪な質問をしてみた。
「はあ?ここは魚が美味い以外、なーんもない退屈な島だ。だから大工して気を紛らわせてるんだよ」
そ、そうですか…って聞くんじゃなかった。
「僕はてっきり子供に懐かれて、島が好きになったのかと!」
「…ふん!子供は苦手だ!」
いやいや、子供に抱きつかれて満更でもない様子だったでしょう?
「そんな話より、羊の手配はしてるのか?」
くそお。話を逸らされた。
「ええ、ジャコブを三頭ほど」
「ほう。古代種の血を引く希少種じゃないか。奮発したな」
「乳用として、殿下がお選びになりました」
「殿下がねえー」
「如何しましたか?」
「いやあ、随分と罪人に甘いんだなと思ってね」
「特別待遇だからでしょう。それにアニエス様だけじゃないです。島民には大抵甘いです。殿下は!」
コン、コン、コン、コン!
薄唇殿は無言で釘を打つ。
おい、何とか言えよ?
「バルナバ、お前の主人は立派な御方だ。第一王子だったら良かったのにな…」
コン、コン、コン、コン!
「え?今、何て?」
「だーかーらー、釘を持ってこいって言ったんだ」
偉そうに。コイツはやっぱり好きになれないな…。
でも、何だかんだと言いながらも、昼前には羊舎が出来上がったのだ。悔しけど薄唇殿のおかげだと、ほんの少しだけココロの中で彼を褒めてやった。
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