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18.手編みのセーター

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※ジェラール視点

「どうした?ブリス監視官」

何の用だ。あまり会いたくはないんだが。

「殿下、俺は月一度、王都へ報告に行かなくてはなりません。まあ日帰りですが、いかんせん船の都合で延びてまして」
「そうか。定期便は明日だったな」
「はい、朝帰って夕方戻ります」
「王太子にアニエスの近況を報告するのか?」
「ええ、まあ異常なし。と簡単に報告するつもりですが、カリーヌ様が一緒に居れば細かく聞かれそうなので、なるべく彼女が不在の時にと…」
「なるほど。だが、罪人は慎ましく生活してる様だ。問題はあるまい」
「はぁ。…ところでちょっと暑いですな」

ん?暑い…か?

ブリスは「失礼」と言って上着を脱いだ。

「まだ昼下がり。やはりは暑かった。いやあ、街から急いで来たからかな…」

彼はこれ見よがしにセーターを見せつけた。

──はっ!?あ、あれは!!

バルナバと同じセーターだ。まさか、まさか、アニエスが編んだのか?だとしたら何でコイツが着てるんだ!?彼女から貰ったとでも言うのか?何で?何でだ!?

い、いかん。動揺を見せてしまった。だが気になる。いや、質問はよそう。気にしてると思われる。奴は明日、王都へ行くのだ。私のアニエスへの感情など不要な報告されては敵わない。

スルーだ。スルーしよう…。

「ブリス監視官、陛下や王太子へ何か献上品を送ろうと思う。届けてくれ」
「はい。了解しました」

ブリスは薄らと笑った。あれは動揺した私を蔑んでるに違いない。優越感に浸ってるのか?全く腹が立つ野郎だ!

「すまないが、一人にしてくれないか?」
「は…」

奴はとっとと出て行った。二度と来るな!と、思わず机を叩く。

「…羨ましい」

誰も居ないのを確認して、そっとつぶやいた。





夕方、執務を終えた頃にバルナバがデスクへ戻って来た。彼は知ってるのだろう。聞いてみたい。この経緯を。だが、自分から聞くのは気が引けるな。お喋り好きな彼が勝手に話すのを待ちたい。

「殿下、本日のご報告にあがりました」
「うむ」
「薄唇殿がウザかったです。ほぼストーカーですね。やっぱりアイツは暇人です。することないからアニエス様に纏わり付くんですよ」
「今日も漁港、浴場、食堂、手芸店のはしごか?」
「あ、はい。特に変わったことはありません」

ん?何もない?ブリスがセーターを貰ったことは報告しないのか?一番聞きたいのに。

「そう言えば…ブリスが暑がっていたな」

仕方ないのでさりげなく誘導してみた。

「え?そうなんですか。どうでもいいです」
「ま、まあな。…で、他に何かないのか?」
「いえ、特には…」
「お前、今日はセーター着てないんだな」
「はい。暑いですから」

うーん。バルナバは本当に何も知らないのか?だとしたら何を監視してるんだ?大事なことだろう??全く、ビソンの配下から聞いた方がよさそうだな。

「報告ありがとう。下がっていいぞ」
「あ、殿下。一つ思い出しました!」
「ん?」
「ちょっと待っててください!ね!」

彼は慌ててデスクへ戻った。

何だ、あの慌てようは…。

「ジャジャーーン!!」

バルナバはブラウンのセーターを私に見せつけた。ブリスが着てたのと同じ様な感じだが、所々金の刺繍が施されている。一見、上等な代物に見える。

「そのセーターがどうかしたのか?」
「アニエス様から殿下にプレゼントだそうです!」
「えーーっ!?」

な、何てことだ。信じられない…と言うか、こんな大事な報告を忘れそうになるなんて!!

「いやあ、アニエス様が必死で編んでたのを間近で見てたけど、素晴らしいでしょう?もうプロですね。刺繍はベルティーユに教わりながらですけど」

セーターを手にした私は感激していた。だが…。

「貰っていいのか?」
「勿論です。これは殿下のために編んだのですから!」
「罪人からこの様な物を貰うと言うのは…」
「えーっ?何てお固いことを!?」
「う、うーん…そう…だな。一応、貰っとこうか。着るか着ないかは別にして」
「殿下!必ず着てください!」
「う、うむ…」
「それと、お返しに何かプレゼントしてはいかがですか?殿下はアニエス様とお会いにならないので」
「分かったよ。考えておこう。…バルナバ、すまないが一人にしてくれないか?」

嬉しい気持ちを抑えきれない。私は喜びを爆発させたかった。




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