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16.庶民

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※ブリス視点

「監視官殿が居れば安心ですね。僕は晩飯の魚を届けに帰ります。昼前には食堂へ行きますから」
「お、おう」

バルナバは仕入れた魚を女将に渡すと一旦、屋敷へ戻って行く。

お前はまるで使用人だな。まあ、美味しそうな魚だったから早くベルティーユに渡してくれ。…ふふ、今晩の飯が楽しみだ。

一方でアニエスとコリンヌは汚れたカラダを洗うべく、大衆浴場へ入って行く。

大衆浴場だって?こんな労働者階級が行く大風呂へ入るのか?コリンヌはともかく、アニエスは上級貴族だろ?…い、いや、今はただの罪人か。

にしてもだ。

彼女の行動は庶民そのもの。単なる好奇心なのか?王都で出来なかったことを満喫したいのか…?

流石に女風呂まで監視出来ない。折角だから通りすがりのに声をかけよう。朝、爺さんと話した質問を何人かにぶつけてみた。だが…。

「領主様は立派な御方です。良くしてくれます」

誰に聞いても同じことを言う。殿下はよっぽど島民を大切にしてるんだと感心してしまう。監獄や港、街の警備も万全を機してる。小さな島とは言え、彼はシャイだが、間違いなく立派な名君領主だ。報告すればケヴィン様は益々警戒されるだろうな。


やがて、アニエスはメイドの様な出で立ちで浴場から現れた。コリンヌとお揃いでピンクのエプロンが眩しい。

おいおい、何とも派手だな。ふん、まあ二人ともそこそこ美人だから似合うけどな。何か腹が立つ。

それから大衆食堂を覗くと皆んな従業員の様に働いていた。全く意味が分からない。彼女らは女将の指示で黙々と仕込みを行い、バルナバに至っては店内の清掃に勤んでいる。

お前、もはや役人ではないな…。

少しチャラ男に同情した。私だけカウンターに座ってワインをちびちび飲んでいるのが申し訳ない気になる。だが、開店と同時に庶民が多く入って来たので罪悪感は無くなった。

おい、俺にも飯をくれ…と言おうとした瞬間、コトッと、熱々のお魚スープが目の前に置かれた。

「いつものやつですよね?」

アニエスが満面の笑みで給仕してきた。その美しさにドキッとしたが何とか平静を装う。

「おう、これで良い。ふふん」

一口スープを飲む。

うめぇ…。これだ、これこれ。堪らん。

にしてもだ。

店内のあちこちから「アニエスちゃん、アニエスちゃん」と、やかましい声が聞こえてくる。バルナバも居るのに彼女ばかりが呼ばれていた。

全く、庶民に大人気だな。まあ、あの美貌はそうそう居ない。メイドの様な格好だが滲み出るオーラはやはり貴族だ。

誰にでも愛想良く振る舞う彼女を見てると「本当に罪人なのか?」と疑念が浮かぶ。

俺の中で段々とと言うイメージが薄れていってるのは間違いない。




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