12 / 105
12.孤児院
しおりを挟む
「ベロム、粋のいい魚だろうな?」
「おいおい、お嬢さんの頼みだ。とれたてのピチピチじゃい!」
「ヨシ!じゃあ、さっさと仕込みしな!」
「ったく、女将は人使い荒いな!」
今日は孤児院の訪問日。院長先生に挨拶した後、ここのキッチンでわたくしとコリンヌ、それにオータン夫人と漁師のべロムさんが手伝ってくれて、お魚スープを作ろうとしています。
「お野菜まだかい?」
「只今、調達して来ましたよー!」
そこへお野菜を沢山抱えたバルナバさんとベルティーユが到着し、準備が整った。
「あら、生きてたのか?ベルティーユ」
「相変わらず口の悪いお人ですこと!」
「ふん、珍しいじゃない。アンタが手伝うなんて」
「私はアニエス様の侍女。これもお仕事ですから」
二人は幼馴染の様だ。いつも怖くて冷静なベルティーユだけど女将とは気が合うのか、二人であーだ、こーだとよく喋る。
「コリンヌ、ここは良いから表で子供らと遊んでなさい」
「えっ、でも?」
「皆んな、貴女と遊びたがってるじゃない」
ベルティーユが窓を見てと言わんばかりに目線を向ける。そこには子供らが窓越しにこちらの様子を伺ってる姿があった。
「あっ!…ありがとうございます!」
コリンヌは慌てて子供らを外へ連れ出した。彼女に纏わりついてキャッキャッとはしゃぐ子供の姿が微笑ましい。
そうこうしてるうちに女将とベルティーユの手捌きによりスープは煮込むだけとなった。
うーん、これではわたくしが作ったとは言えないな。…でもま、いっか。皆が喜んでくれるなら。
「アニエス様も子供らと遊んでみては如何です?」
「そうね。何だか楽しそうだわ」
「後は私どもにお任せください」
ベルティーユが微かに笑った。初めて見た。彼女の笑顔を。
お外に出るとコリンヌと院長先生が子供の相手をしていた。
「これはアニエス様、いやあ、子供が興奮しちゃって、とても楽しみにしてるんだと思います。ありがとうございます!」
「いえいえ、わたくしも楽しみでしたから!」
気がつくと子供たちに囲まれてしまった。中にはぎゅーっと抱きつく子供も居る。
「ねーねー、おねーたん、ダンスできるう?」
「これ、ファビアン!」
「ダンス?得意よお」
「一緒に踊ってえ!」
「僕も!」
「アタシも!」
「よおーし!」
八人の子供が輪になって先生から習ったダンスを披露する。わたくしも何となく動きを合わせて一緒に踊り出す。皆んなケタケタ笑ってたっぷりと汗をかいた。
「おーい、食事の時間だよー!」
「わあーー!」
「皆んな、たくさんあるからねー!」
駆け寄った子供らが我先にと、お魚スープを頬張る。「上手い、上手い」と声が聞こえて嬉しくなった。次々におかわりするので、わたくしとコリンヌは大忙しだ。すると、差し出された器にコリンヌが固まってしまった。
「おかわり…」
「えっ!?」
薄い唇の男がさりげなく関係者風に座っている。
な、何で薄唇さんがここに居るのよ!?
「監視官殿!?いつの間に!」
「何だ?食わせてくれないのか?でも、もう食っちゃったけどな」
「…コリンヌ、よそってあげて」
仕方ない。彼が罪人のわたくしを監視してる事実は子供らに悟らせたくはない。自然に振る舞おう。
「おい、アニエス。馬の鳴き声が聞こえないか?」
「はあ?」
「後ろの窓を見てみろ。面白いぞ」
何を仰って?…えっ!?あ、あれは、どなた!?
孤児院の裏側に位置する草原に、白馬に跨った王宮貴族がこちらを伺っている。髪の毛はグレー系ブラウンでミディアムヘアだ。そして碧眼の美形。
ま、まさか…。
「お前のことなんかまるで興味がない様で、実は気にしてるんだな。ジェラール王子様は」
──ジェラール様!?
「おいおい、お嬢さんの頼みだ。とれたてのピチピチじゃい!」
「ヨシ!じゃあ、さっさと仕込みしな!」
「ったく、女将は人使い荒いな!」
今日は孤児院の訪問日。院長先生に挨拶した後、ここのキッチンでわたくしとコリンヌ、それにオータン夫人と漁師のべロムさんが手伝ってくれて、お魚スープを作ろうとしています。
「お野菜まだかい?」
「只今、調達して来ましたよー!」
そこへお野菜を沢山抱えたバルナバさんとベルティーユが到着し、準備が整った。
「あら、生きてたのか?ベルティーユ」
「相変わらず口の悪いお人ですこと!」
「ふん、珍しいじゃない。アンタが手伝うなんて」
「私はアニエス様の侍女。これもお仕事ですから」
二人は幼馴染の様だ。いつも怖くて冷静なベルティーユだけど女将とは気が合うのか、二人であーだ、こーだとよく喋る。
「コリンヌ、ここは良いから表で子供らと遊んでなさい」
「えっ、でも?」
「皆んな、貴女と遊びたがってるじゃない」
ベルティーユが窓を見てと言わんばかりに目線を向ける。そこには子供らが窓越しにこちらの様子を伺ってる姿があった。
「あっ!…ありがとうございます!」
コリンヌは慌てて子供らを外へ連れ出した。彼女に纏わりついてキャッキャッとはしゃぐ子供の姿が微笑ましい。
そうこうしてるうちに女将とベルティーユの手捌きによりスープは煮込むだけとなった。
うーん、これではわたくしが作ったとは言えないな。…でもま、いっか。皆が喜んでくれるなら。
「アニエス様も子供らと遊んでみては如何です?」
「そうね。何だか楽しそうだわ」
「後は私どもにお任せください」
ベルティーユが微かに笑った。初めて見た。彼女の笑顔を。
お外に出るとコリンヌと院長先生が子供の相手をしていた。
「これはアニエス様、いやあ、子供が興奮しちゃって、とても楽しみにしてるんだと思います。ありがとうございます!」
「いえいえ、わたくしも楽しみでしたから!」
気がつくと子供たちに囲まれてしまった。中にはぎゅーっと抱きつく子供も居る。
「ねーねー、おねーたん、ダンスできるう?」
「これ、ファビアン!」
「ダンス?得意よお」
「一緒に踊ってえ!」
「僕も!」
「アタシも!」
「よおーし!」
八人の子供が輪になって先生から習ったダンスを披露する。わたくしも何となく動きを合わせて一緒に踊り出す。皆んなケタケタ笑ってたっぷりと汗をかいた。
「おーい、食事の時間だよー!」
「わあーー!」
「皆んな、たくさんあるからねー!」
駆け寄った子供らが我先にと、お魚スープを頬張る。「上手い、上手い」と声が聞こえて嬉しくなった。次々におかわりするので、わたくしとコリンヌは大忙しだ。すると、差し出された器にコリンヌが固まってしまった。
「おかわり…」
「えっ!?」
薄い唇の男がさりげなく関係者風に座っている。
な、何で薄唇さんがここに居るのよ!?
「監視官殿!?いつの間に!」
「何だ?食わせてくれないのか?でも、もう食っちゃったけどな」
「…コリンヌ、よそってあげて」
仕方ない。彼が罪人のわたくしを監視してる事実は子供らに悟らせたくはない。自然に振る舞おう。
「おい、アニエス。馬の鳴き声が聞こえないか?」
「はあ?」
「後ろの窓を見てみろ。面白いぞ」
何を仰って?…えっ!?あ、あれは、どなた!?
孤児院の裏側に位置する草原に、白馬に跨った王宮貴族がこちらを伺っている。髪の毛はグレー系ブラウンでミディアムヘアだ。そして碧眼の美形。
ま、まさか…。
「お前のことなんかまるで興味がない様で、実は気にしてるんだな。ジェラール王子様は」
──ジェラール様!?
1
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
もうあなたを待ちません。でも、応援はします。
LIN
恋愛
私とスコットは同じ孤児院で育った。孤児院を出たら、私はこの村に残って食堂で働くけど、彼は王都に行って騎士になる。孤児院から出る最後の日、離れ離れになる私達は恋人になった。
遠征に行ってしまって、なかなか会えないスコット。周りの人達は結婚して家庭を持っているのに、私はスコットを待ち続けていた。
ある日、久しぶりに会えたスコットの寝言を聞いてしまった私は、知りたくもない事実を知ってしまったんだ…
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる