モブ乙女の反逆 ～乙ゲーの運命を変えてやるっ！

１６話 処刑された過去

「ウフフ。アリアナ様の攻撃くらい躱すのは造作もないことですわ」
「逃げるのは天才的だからね」
　確かに自由自在に瞬間移動するエリザベスを仕留めるのは容易ではない。多少の犠牲は覚悟しなければならないわね。ならばっ。

「風の力よ、渦巻ける竜巻となりて現れん！　実態魔法、オクタゴン・トルネード！」

　力強く魔法の呪文を唱えると、周囲に強力な風が荒れ狂い、その強風によって八つの竜巻が一斉に発生した。竜巻は八角形を描いて巨大な渦巻きとなり、地面から高く舞い上がる。その勢いは樹木を無惨に折り、校舎の窓ガラスを割るほどだ。しかし、それはわたくしとエリザベスを囲むように形成された。
「……っ！　アリアナ様、学園を破壊するおつもり！？　いえ、それだけではなくてよ、生徒も竜巻に巻き込まれてしまったわ！」
「貴女を排除するにはこれしか手段がないのよ」
「くっ、正気を失ってますわ！　この悪役令嬢が！」
「誠の悪役令嬢は貴女よ！　エリザベス！」
　わたくしは微笑みを浮かべ、魔法剣を取り出した。そして、彼女にゆっくりと近づいていく。

「雷よ、剣に宿れ！　サンダーブレード！」

　呪文を唱えながら手に持つ剣を高く掲げる。すると雲が暗転し、雷光が闇を貫くように舞い始めた。その雷のエネルギーは次第に魔法剣へと集中していき、剣身は輝く青い光に包まれた。空中からは轟音が響き渡り、稲妻が剣を取り巻くように舞い踊る。わたくしの剣は雷霆の力を宿し、破壊と戦闘の象徴となった。

「……ああっ！」
　さすがにエリザベスは手も足も出せず、おずおずと後ずさる。──と、その時だ。わたくしの前に突如として強烈な光が発生し、竜巻や魔法剣に宿った雷のエネルギーが一瞬で消え去ったのだ。そして静寂が訪れ、エリザベスは目を見開いて戸惑いと安堵の表情を浮かべる。

「そこまでだ！」
　気がつけば目の前に王太子と騎士が馬上にいる。何が起こったのか理解できない。わたくしの魔力が封印され、勝手に解呪されたのだ。彼らにそのような能力があるとはとても思えないが、正気を失ったわたくしは騎士たちに捕まり、無慈悲にも処刑台に磔にされてしまった。

　目の前に広がる光景は、魔法で暴れた痕跡が痛々しく映る。荒れ果てた学園に、巻き込まれて怪我をした多くの生徒たち。何か大きな力によって制止されたのでしょう。そして、わたくしは処刑されるのだ。
「アリアナ、お前は危険だ。その魔力は魔物と化す可能性がある。我々が追っている『闇の王、クリエイター』に憑依されてしまっては困るからな」
　銀髪の騎士隊長であるレオンハルトはそう告げると、彼の魔法剣がわたくしの胸に深く突き刺さった。

──グサァーーッ！

「わあああああっ！　痛っ……いった～いよお！」
　あたしは叫び声を上げながら、ガバッと布団を引っくり返して上半身を起こした。頬から汗が滴り落ち、身体は戦慄に震えている。
「ふぁ……なーに、アリアナ」
　テント内には静寂が広がり、夜風が薄い生地を通り抜けてやわらかく揺らめいている。この中は生徒たちの穏やかな安息に包まれていた。
「リンダーー！」
　夢だと気づいた瞬間、思わず彼女を抱きしめた。リンダは驚いた表情を浮かべながらも、優しくあたしを抱き返してくれた。

　悪夢だった。いや、あれは前世の記憶に違いない。処刑された過去の出来事が蘇ってきたのだ。王太子との会話が夢に影響を与えたのかもしれない。しかし、クリエイターとは一体何者なの？　闇の王というのは王太子のお兄様？

　心に湧き上がる疑問と不安。混沌とした過去の謎に向き合いながら、あたしはさらなる真実を追い求めることを決意した。