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助左よ、羽ばたくんやァーー⁈
しおりを挟む堺、納屋邸。
「旦那はーん! 旦那はーん!」
黄金の屏風に南蛮色の強い装飾品、ルソン壺、南蛮傘、巨大な金魚鉢などが置かれた豪華絢爛な部屋で、助左衛門は目を覚ました。意識が戻ったのだ。
「おおっ、目が覚めましたか! 旦那はん!」
「……ワイは助かったんやな」
「ずいぶん、うなされはって」
「久しぶりに、関白……いや、木下藤吉郎に会ったせいか、むかしの夢を見てたんや」
「むかしの?」
「ワイが天海と出会った頃のことや……」
助左衛門は涙ぐむ。
「ワイは、ワイは、あれから30年以上、何万人もの日本人奴隷を海外に売る手伝いをしてきたんや。ううっ、無論ワイも奴隷や……一生奴隷やと思った」
「だ、旦那はん⁈」
「ご、ごめんなさい」
1587年(天正15年)九州を制圧した秀吉は突如、バテレン追放令とともに人身売買禁止令を発し、奴隷の海外流出に歯止めがかかる事となった。
これは自らが介入した九州征伐によって、より激化した奴隷売買の救済でもある。同胞の日本人が二足三文で海外へ売られていく事への道徳的観点。戦後の復興に必要な労働力の確保、そして何より天下統一事業の一環とした平和令の意義を持っていた。
また、バテレン追放に至ったのは長崎の一部がイエズス会領になっている事実、キリスト教が拡大(大名にまで広まっている)し、領民の強制的な改宗、神道・仏教への迫害、スペイン艦隊を背景としたキリシタンによる反乱の懸念などが挙げられる。
ともあれ、助左衛門が少年時代に予言した天下人の出現によって、天海ら奴隷商人は自然淘汰されていったのである。
作次郎が静かに口を開く。
「助左よ、それでもお主は成功した。そしてルソンに流れたワテら奴隷を救ってくれはったやないか」
「作次郎ー」
「せやけど、せやけど……お主も、ここまでやな!」
助左衛門の涙が止まる。
「関白殿下は、お主のような海賊商人を嫌っておる!!」
助左衛門は鼻で笑った。
「そのことよ、ワイはどないすればええんや?」
「全てを投げ出し、日本を脱出するならワテらは喜んでついていきまっせ!!」
「日本を脱出……か」
助左衛門はしばらく天井を眺める。
「せやな、カンボジアあたりで貿易やって、日本人町でも作ったろうかい……なァ、作次郎よ!」
「せや! ワテらは、ワテらはな、海外で羽ばたくんやァーー!!」
納屋助左衛門はやがて、貿易を統制しようとする秀吉との対立により死を承ることとなり、歴史から排除されていく。
その後、彼の記録は残っていない──。
華やかに見える戦国時代でも、人々の暮らしは貧しく戦争で生計を助けている現状があった。そして戦争によって生まれた奴隷は、物として扱われ悲惨な人生を歩むことになる。
この時代に推定10万人の奴隷が海外へ流出したと言われている。
あれから約400年……現代の世でもその構造は形を変え、どこかで存在しているだろう。
「 奴隷少年♡助左衛門 」
──完──
ご愛読ありがとうございました。
なお、納屋助左衛門は1565(永禄8年)堺で生まれたという説がありますが、勝手ながら1540年(天文9年)誕生と設定しました。ご了承ください。
令和元年5月 鼻血の親分
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凄く面白かったです。圧倒的なリアリズムとユーモアが交互に押し寄せて、楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます。
kikazu様 感想ありがとうございます♪
二年前の作品で読み返すのが怖いですけど…(笑)
人が物の如く売られていた戦国時代の陰を重くならずに描いてみました。お褒めくださり嬉しい限りです🥲
戦国ピカレスク・ロマンの傑作でした。ふざけた口調のナレーションからは、洒脱な品格と戦争への強い憤りを感じました。
ありがとうございます。
この作品は、戦争の側面で起こる、あまり知られてない現実を、少しコミカルに描いてみたかったので、この感想はとっても励みになりました!
今後とも宜しくお願いします。
by 鼻血の親分