15 / 16
助左よ、これが天海の正体や⁈
しおりを挟む京内裏。
その一角にある大きな屋敷はかなり痛んでいた。手入れの行き届いてない松が生い茂り、中庭にある茶室の外壁はその原型がないくらい壊れている。
そこで2人の男が密談していた。
「尾張の信長なる武将に種子島を売りたいと?」
狩衣をまとった上座の男は茶器を手に取り、その価値を確かめるかのように撫で回している。
「は、まこと立派な武将でございます」
「ほう……」
「種子島が100丁あれば、近いうちに尾張をまとめる事が出来ましょう」
「ふーむ。父、織田弾正忠信秀はかつて、内裏の築地修理費や言うて4000貫も献上しはったな。官位欲しさやろうが。……果たして信長にも、そないな心があるやろか?」
下座に座る男は、茶を飲み終え顔を上げた。天海である。
「マロは信長に肩入れしとうございます」
「見込みがある、と申すか?」
「はっ!」
茶器を眺めていた男は、天海の前に向き直す。
「ふむ、そうか……では天海よ、信長を助け上洛させるんや。そして内裏に献上させよ!」
「御意でございます。……それにしても殿下もお人が悪い。マロに娘っ子の忍びを放しましたな?」
「ほほほほ……知ってはったか」
「マロは内裏の隠密頭ですぞ!」
「まぁまぁ、怒るな……今日よりそちの配下として使いなされ。ほほほほ」
そう笑いながら天海のお土産を嬉しそうに眺める男は、関白・近衛前久である。
天海は奴隷商人でありながら同時に、全国の情勢を内裏に報告し、献上できそうな領主を見極め、助ける「朝廷の隠密」でもあった。
***
近衛邸からほど近い天海の屋敷にいる助左衛門は馬の世話をしていた。近くでは源六らが武芸の稽古に勤しんでいる。
と、助左衛門の前に突如、あの時の娘が現れた。
──ああっ⁈ アンタは⁈
娘は笑っている。そして黒猫を抱いていた。
助左衛門が恐る恐る近づく。
「あ……あの、おたくは一体?」
「ニヤーァ!」
「!!」
黒猫が牙を剥く。
助左衛門は次第に意識が薄れ、暗闇の中へ倒れていく。周りには何も無い。何処からともなく声が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる