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助左よ、これが天海の正体や⁈
しおりを挟む京内裏。
その一角にある大きな屋敷はかなり痛んでいた。手入れの行き届いてない松が生い茂り、中庭にある茶室の外壁はその原型がないくらい壊れている。
そこで2人の男が密談していた。
「尾張の信長なる武将に種子島を売りたいと?」
狩衣をまとった上座の男は茶器を手に取り、その価値を確かめるかのように撫で回している。
「は、まこと立派な武将でございます」
「ほう……」
「種子島が100丁あれば、近いうちに尾張をまとめる事が出来ましょう」
「ふーむ。父、織田弾正忠信秀はかつて、内裏の築地修理費や言うて4000貫も献上しはったな。官位欲しさやろうが。……果たして信長にも、そないな心があるやろか?」
下座に座る男は、茶を飲み終え顔を上げた。天海である。
「マロは信長に肩入れしとうございます」
「見込みがある、と申すか?」
「はっ!」
茶器を眺めていた男は、天海の前に向き直す。
「ふむ、そうか……では天海よ、信長を助け上洛させるんや。そして内裏に献上させよ!」
「御意でございます。……それにしても殿下もお人が悪い。マロに娘っ子の忍びを放しましたな?」
「ほほほほ……知ってはったか」
「マロは内裏の隠密頭ですぞ!」
「まぁまぁ、怒るな……今日よりそちの配下として使いなされ。ほほほほ」
そう笑いながら天海のお土産を嬉しそうに眺める男は、関白・近衛前久である。
天海は奴隷商人でありながら同時に、全国の情勢を内裏に報告し、献上できそうな領主を見極め、助ける「朝廷の隠密」でもあった。
***
近衛邸からほど近い天海の屋敷にいる助左衛門は馬の世話をしていた。近くでは源六らが武芸の稽古に勤しんでいる。
と、助左衛門の前に突如、あの時の娘が現れた。
──ああっ⁈ アンタは⁈
娘は笑っている。そして黒猫を抱いていた。
助左衛門が恐る恐る近づく。
「あ……あの、おたくは一体?」
「ニヤーァ!」
「!!」
黒猫が牙を剥く。
助左衛門は次第に意識が薄れ、暗闇の中へ倒れていく。周りには何も無い。何処からともなく声が聞こえてきた。
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