14 / 16
助左よ、ええ値つけられたやんけー⁈
しおりを挟む戦の終わった川原では、あちこちに兵士の死体が転がっている。彼らの首は無く武具も剥ぎ取られていた。カラスがその死骸へ群がり、坊主が経を唱えている。
萱津の合戦は信長の圧勝に終わった。柴田勝家の奮闘もあり清洲勢の50騎が討死、また松葉城、深田城とも上総介(信長)勢が押し寄せると、持ちこたえられず城を明け渡して退却した。上総介勢は余勢を駆って清洲の田畑を薙ぎ払ったという。ここで乱捕りしたと思われる。
以後信長は数年に渡り、一族と泥沼の争いを繰り広げながら尾張において勢力を拡大していったのである。
奴隷が列を作り歩いていた。その中に首に縄をくくられ暗くうつむき加減で歩いている少年、助左衛門がいる。
──ま、また、捕まってしもうた……なんやねん。所詮ワイは奴隷なんやな……ううっ……。
「天海様、妙でございます。中村の領民が見当たりません。松葉城は上総介勢が抑えたというのに」
「なに? 夜逃げか? いや、逃げれるとは思えんがの……それより」
前方から上総介勢が行進してきた。天海は合図して道を開け、荒れた田畑の上に立つ。すると後方より1人の男が馬上の信長に近づいて来る。その男は首級を何体も身体に巻きつけており、その異様ないでたちに旗本たちは驚いた。助左衛門もビビった。
男は信長に対し片膝をつく。
「お、おい、何者じゃ! 殿の御前であるぞ!」
「……よい。藤吉郎、ようやった。何か褒美を取らせるが何がよい?」
「されば、上総介様の家来になりとうございまする!」
「よかろう、生駒に寄宿するがよい」
「恐れながら、もう一つ……」
「なんだ」
「殿に敵対行為をとった中村の領民を、それがしの配下が捕らえておりますが、これらを帰農させるお許しを頂きたい!」
思わず近侍が口を挟む。
「こらっ、何を言うか!」
「もともと、中村の百姓は松葉方に監視され、半手の機会すら与えられず強制的に協力しただけの事。戦のたびに村を潰してはなりませぬ!」
信長は藤吉郎を睨んでいる。
「これは、上中村(木下村)の百姓より預かった物、今更ではございますがお受取り下さいませ」
藤吉郎は築阿弥が持っていた茶器を信長に差し出す。助左衛門はすぐ側の田畑に立ってその光景を見ていた。
「……ワシは茶器の価値がわからん」
信長は茶器を持った藤吉郎の手を払いのけた。信長の表情は厳しい。藤吉郎に冷や汗が出る。その茶器が助左衛門の前に飛んできた。反射的に茶器を受け取った助左衛門は驚く。
「おおぅ! こ、これは見事な美濃焼やァ! 色艶といい、さぞかし価値があるやろうなァ!」
信長ら一行がみすぼらしい助左衛門に注目する。
天海がほくそ笑む。
「……ボクめ、いらんことを」
信長の近侍が助左衛門に近寄った。
「こらーっ、小僧、ええ加減な事言うなっ!」
「ほ、ほんまですがな、ワイは陶器屋で丁稚をしてまんねん。目利きくらい出来ますわー!」
そこへ1人の武将が助左衛門から茶器を取り上げた。尾張きっての茶人で吏僚の松井友閑である。
友閑は茶器を眺め、信秀公がご愛用していた美濃焼だと確信し信長に目で合図する。
藤吉郎は、それを見て言葉を発した。
「なお、上中村(木下村)の有力者、築阿弥なる人物は此度の責任を取り自害致しておりまする。どうかお許しを!!」
信長は田畑にいる、傷だらけで首に縄がくくられた奴隷たちをぼんやり眺めていた。
「……藤吉郎、そちの故郷はどこじゃ?」
「木下村で……ござる」
「……で、あるか」
信長は何事もなかったように馬を進める。
そして藤吉郎とすれ違いざまに言い放つ。
「今日より、木下藤吉郎と名乗るがよい」
「はっ⁈ ははっー!!」
上総介勢が去って行った。
ホッとした藤吉郎が助左衛門の肩に手をかける。
「小僧、お前を買ってやろう」
「へっ?」
「お前のおかげで助かった……おい、小僧一匹、3貫でどうだ⁈ 」
「さ、3貫だぁ⁈ 」
手下らが信じられない値段に驚いていた。
「そのガキは売りもんじゃない」
「ええーーーーーーーーーっ⁈ 」
天海の言葉に助左衛門はびっくらこいた!!
「ボクよ、お前は一生マロの奴隷として生きるのじゃ!」
「い、いやや! いやや! ワイはあんたらの生き方が、むちゃむちゃ嫌やねん! 頼むわー、ワイを売ってぇなーっ!! 3貫やでー!!」
天海がロザリオを外し、助左衛門に投げた。
「ボクよ、マロのもとで貿易に携わり、もっと精進するのじゃ。お前には才能がある! ……のような気がする。かもしれん」
「どっちやねん!!」
「コスメ・デ・トルレスに会わせてやる」
「なにっ⁈ トルレスさま⁈」
「周防(山口県)におる。年末には日本最初のケェリスマァースが行われるぞ!」
──ちっ! な、なんかムカつくわー! 南蛮言葉何ぞ使いやがって。キモいんじゃ、クソじじいが!
と、思いながらも助左衛門は戸惑っていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~
佐倉伸哉
歴史・時代
その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。
父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。
稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。
明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。
◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

淡き河、流るるままに
糸冬
歴史・時代
天正八年(一五八〇年)、播磨国三木城において、二年近くに及んだ羽柴秀吉率いる織田勢の厳重な包囲の末、別所家は当主・別所長治の自刃により滅んだ。
その家臣と家族の多くが居場所を失い、他国へと流浪した。
時は流れて慶長五年(一六〇〇年)。
徳川家康が会津の上杉征伐に乗り出す不穏な情勢の中、淡河次郎は、讃岐国坂出にて、小さな寺の食客として逼塞していた。
彼の父は、淡河定範。かつて別所の重臣として、淡河城にて織田の軍勢を雌馬をけしかける奇策で退けて一矢報いた武勇の士である。
肩身の狭い暮らしを余儀なくされている次郎のもとに、「別所長治の遺児」を称する僧形の若者・別所源兵衛が姿を見せる。
福島正則の元に馳せ参じるという源兵衛に説かれ、次郎は武士として世に出る覚悟を固める。
別所家、そして淡河家の再興を賭けた、世に知られざる男たちの物語が動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる