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第3章〜芸州編(其の参)〜
第38話
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宮迫神社は行き場をなくした領民の “避難所” であり、また村の行政を司る “庄屋” を兼ねた施設となっていた。
夕方にもなると、炊き出しや洗濯物を取り込む女衆や社殿から村を見下ろし復興状況を確認をする郎党たち、それに子供をあやす老人など、さまざまな人々で多くの賑わいを見せていた。
そこへ息を切らした国宗の郎党らが駆け寄ってきた。どの表情も明らかに興奮してる様子である。
「はぁはぁはぁはぁ……」
忠吾郎は丁度、敷地内の焚き火に薪をくべていた。
「あ、ど、どうしたんですか?」
「ち、忠吾……忠次郎さまとお久さまは!?」
「忠次郎さまは社殿ですよ。お久さまは……ほら、あそこ」
お久は炊き出しの最中で女衆とともに雑炊を作っている。
「真田さまが戻ってきたぞ」
忠吾郎はあまりにも突然の吉報に一瞬戸惑った。反応が鈍い忠吾郎に郎党は苛立つ。
「生きておいでじゃ!!」
やがて言葉の意味を理解した忠吾郎は、驚きをとともに期待に胸を膨らまし郎党に聞き返す。
「あ、あ、そ、そりゃ誠でございますか!?」
「ああ、そうじゃ。忠次郎さまとお久さまを至急呼んでこいと旦那さまから言付かったのだ……」
「あああああああっ!! お、お久さまあーー!! 大変だあーっ!!」
「え? 忠吾……呼んだ?」
「なぁに、うるさいわねー」
忠吾郎の大声は敷地に居る領民は無論のこと、社殿にいた忠次郎までも聞こえた。
「なんだ、なんだ……騒がしい」
「どうしたの忠吾……?」
忠吾郎は大きく息を吸う。そしてありったけの声を発した。
「大助さまが生きてるぞおーーっ!!」
神社は一瞬時間が止まったかの如く静まり返る。
「な、なんだと……!?」
社殿から慌てて飛び出した忠次郎は、国宗の郎党に詰め寄った。その足は微かに震えている。
「そりゃ、ま、まことか……?」
「へい。お元気でいらっしいます!」
「わあああああーーっ!! やっぱり僕の師匠は不死身だあーーい!! 大助さまあーーっ!!」
忠吾郎は国宗の屋敷へと走り出した。
「あ、ま、待て忠吾……私も行くっ!!」
炊き出しの前では、女衆がお久の元で泣きあっていた。皆、お久のことを心配していたのだ。
「……ああっ、よ、良かったですね」
「お久さまも、さあ、行ってらっしゃい……」
「い、いいのかしら……」
「いいも何も! 後は私どもにお任せください!」
お久はフラフラと2、3歩前へ出る。そこへ女将が手を差し伸べた。
「お久、今日はもう帰ってこなくて良いから」
「母上……」
「さ、お久さま。参りましょう」
郎党と山を下るお久は、信じられない出来事に直面し緊張の面持ちであったが、徐々に希望に満ちた表情へと変化していった。そして一心不乱に走った。
国宗の母屋で忠左衛門らと寛いでる最中に、忠吾郎が勢いよく「バアン」と戸を開け騒々しく現れた。
「大助さまあああああああああっ!!」
「ち、忠吾郎か!?」
「うわーーーーん!!」
忠吾郎は人目もはばからず抱きついて大泣きする。
「おい、泣くことはないだろ……」
「だって、だってもう会えなくなったと思ってたんだよお!」
「まあ何とか助かったよ。もう大丈夫だ」
「うわーーーーん!!」
そこへ忠次郎も戻ってきた。
「大助さま……心配しました、心配……うぅ……」
「おいおい、忠次郎もか」
「若のこと、皆心配してたんですな」
「私は大助さまに色々相談したかったんです……心細かったです……ううっ……大助さま」
忠次郎はその場で泣き崩れた。
「心配かけてすまん。許せ、忠次郎、忠吾郎」
「わ、若……」
「ん?」
六郎が何を言わんとしたか直ぐに分かった。お久が息を切らしながら土間に立ち尽くしていたのだ。
「若、行っておやりなされ」
「う、うん」
俺は立ち上がり土間へと行く。
「お久……」
「……おかえりなさいませ。大助さま……」
お久はうつむきながら俺の袖を引っ張った。
「ただいま、お久」
「……あい」
俺は思わずお久を抱きしめる。
「あっ……」
やがてお久も手を回し、きつく抱きしめられた。
「もう、何処にも行っちゃイヤです」
「ああ……」
──その晩、俺はお久を抱いて寝た。
夕方にもなると、炊き出しや洗濯物を取り込む女衆や社殿から村を見下ろし復興状況を確認をする郎党たち、それに子供をあやす老人など、さまざまな人々で多くの賑わいを見せていた。
そこへ息を切らした国宗の郎党らが駆け寄ってきた。どの表情も明らかに興奮してる様子である。
「はぁはぁはぁはぁ……」
忠吾郎は丁度、敷地内の焚き火に薪をくべていた。
「あ、ど、どうしたんですか?」
「ち、忠吾……忠次郎さまとお久さまは!?」
「忠次郎さまは社殿ですよ。お久さまは……ほら、あそこ」
お久は炊き出しの最中で女衆とともに雑炊を作っている。
「真田さまが戻ってきたぞ」
忠吾郎はあまりにも突然の吉報に一瞬戸惑った。反応が鈍い忠吾郎に郎党は苛立つ。
「生きておいでじゃ!!」
やがて言葉の意味を理解した忠吾郎は、驚きをとともに期待に胸を膨らまし郎党に聞き返す。
「あ、あ、そ、そりゃ誠でございますか!?」
「ああ、そうじゃ。忠次郎さまとお久さまを至急呼んでこいと旦那さまから言付かったのだ……」
「あああああああっ!! お、お久さまあーー!! 大変だあーっ!!」
「え? 忠吾……呼んだ?」
「なぁに、うるさいわねー」
忠吾郎の大声は敷地に居る領民は無論のこと、社殿にいた忠次郎までも聞こえた。
「なんだ、なんだ……騒がしい」
「どうしたの忠吾……?」
忠吾郎は大きく息を吸う。そしてありったけの声を発した。
「大助さまが生きてるぞおーーっ!!」
神社は一瞬時間が止まったかの如く静まり返る。
「な、なんだと……!?」
社殿から慌てて飛び出した忠次郎は、国宗の郎党に詰め寄った。その足は微かに震えている。
「そりゃ、ま、まことか……?」
「へい。お元気でいらっしいます!」
「わあああああーーっ!! やっぱり僕の師匠は不死身だあーーい!! 大助さまあーーっ!!」
忠吾郎は国宗の屋敷へと走り出した。
「あ、ま、待て忠吾……私も行くっ!!」
炊き出しの前では、女衆がお久の元で泣きあっていた。皆、お久のことを心配していたのだ。
「……ああっ、よ、良かったですね」
「お久さまも、さあ、行ってらっしゃい……」
「い、いいのかしら……」
「いいも何も! 後は私どもにお任せください!」
お久はフラフラと2、3歩前へ出る。そこへ女将が手を差し伸べた。
「お久、今日はもう帰ってこなくて良いから」
「母上……」
「さ、お久さま。参りましょう」
郎党と山を下るお久は、信じられない出来事に直面し緊張の面持ちであったが、徐々に希望に満ちた表情へと変化していった。そして一心不乱に走った。
国宗の母屋で忠左衛門らと寛いでる最中に、忠吾郎が勢いよく「バアン」と戸を開け騒々しく現れた。
「大助さまあああああああああっ!!」
「ち、忠吾郎か!?」
「うわーーーーん!!」
忠吾郎は人目もはばからず抱きついて大泣きする。
「おい、泣くことはないだろ……」
「だって、だってもう会えなくなったと思ってたんだよお!」
「まあ何とか助かったよ。もう大丈夫だ」
「うわーーーーん!!」
そこへ忠次郎も戻ってきた。
「大助さま……心配しました、心配……うぅ……」
「おいおい、忠次郎もか」
「若のこと、皆心配してたんですな」
「私は大助さまに色々相談したかったんです……心細かったです……ううっ……大助さま」
忠次郎はその場で泣き崩れた。
「心配かけてすまん。許せ、忠次郎、忠吾郎」
「わ、若……」
「ん?」
六郎が何を言わんとしたか直ぐに分かった。お久が息を切らしながら土間に立ち尽くしていたのだ。
「若、行っておやりなされ」
「う、うん」
俺は立ち上がり土間へと行く。
「お久……」
「……おかえりなさいませ。大助さま……」
お久はうつむきながら俺の袖を引っ張った。
「ただいま、お久」
「……あい」
俺は思わずお久を抱きしめる。
「あっ……」
やがてお久も手を回し、きつく抱きしめられた。
「もう、何処にも行っちゃイヤです」
「ああ……」
──その晩、俺はお久を抱いて寝た。
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