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そこのモンスター社員、今すぐ退職届を書きなさい!

第19話 品転①

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「係長、このノートを是非ご覧ください」

私は腰を折って深々と頭を下げながら、お恥ずかしい『新入社員日誌』を差し出した。

「ん、何だこれは。お前の成長記録か? 興味ないんだが」
「そんなこと言わないでくださいよ! 入社から一年間、指導員に日誌を確認して頂くことはご存知ですよね?」

我が社では入社式、合同新入社員研修、職場見学、現場実習、配属とあらゆる場面で感じたことを日々日誌に書き留め、指導員のコメントを頂く古めかしい風習がある。

「俺はお前の指導員ではない。確かマネージャーだったよな?」
「はい。ここに配属されてからは青葉マネージャーにコメント頂いております」
「何故、俺に見せる?」
「それは……」

ーー私は知ったのだ。そして誓った。この日本でトップクラスの大企業に蔓延るに対峙しようとなさる伊集院係長に、微力ながら助太刀することを。

「この日誌はお目付役として渡されておりました。私の成長記録というより係長の粗探し日誌でございます」
「ま、そうだろうな。……で?」
「本日より私は係長の味方です。係長の言動、行動に関して嘘偽りの報告をさせて頂き、専務派のマネージャーを欺きます。なので、ご自身の使命を全うしてください」

係長の御妹、伊集院ララさんは財務部で不正な事案を発見し調査していた。それは『品転』だ。その証拠を掴んだ彼女は上司へ相談した途端……

ーー消えた。

池園先輩にとメッセージを残して。

※品転とは領収書など書き換えて実際に購入した商品とは異なる取引を行うことであり、立派な脱税行為です。

「お前のことは池園から聞いてる。が、俺に協力するのは大いなるカケだぞ? 本当に良いのか?」
「カケではございません。当時の財務部部長は門前専務。失踪の件、知らぬはずがないし、私もララさんを助けたいです。そして巨大モンスターに裁きを下さなければなりません!」
「お前が裁く訳ではないけどな……だが、ありがとう。綾坂花」

あっ、初めて名前で呼ばれた。い、いかん。今としたぞ。無精髭でボサボサ頭の見るからに不潔そうな彼なのに何故か素敵に見える。いかん。いつもの悪い癖が出そうだ……
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