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メリー・ウィドウ
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Bar Moonlightは、カウンター席が7つあるだけの小さな店だ。
照明は電球色のダウンライトがカウンター内を照らすだけで、客席側は仄暗い。
現在は、日付を跨いで終電が出てしまっている時刻。
店内に残る客は、男女が1人ずつだ。
「お客様。そろそろラストオーダーです」
バーテンダーが告げると、壁際に座る男は何食わぬ顔でウィスキーフロートをオーダーした。
男の口角が上がる気配に、バーテンダーは盛大なため息を飲み込む。
――こいつはいつもこれだ。
気持ちを切り替え、バーテンダーは1つ空けた席に座る女の方へと向き直った。
「じゃあ……メリー・ウィドウを」
バーテンダーは1つ頷くと、ウィスキーフロートとメリー・ウィドウを順に出す。
男はウィスキーフロートをひと口飲み、口角を上げた。
「“もう一度素敵な恋を”」
男の一言にグラスに伸ばした女の指が揺れる。
バーテンダーは見て見ぬふりをして、閉店の準備を始めた。
「ちなみにこれは、“楽しい関係”」
「……イヤな人」
「どうも。イヤな人ついでに、これ飲んだら、別のところで飲みませんか?」
男の言葉に、バーテンダーは隠さずにため息を吐いた。
「お客様。当店ではそういったことは……」
「もちろん無理強いはしない。ただ今日はもう電車が終わっているから、帰るとしても今更急ぐ必要はないだろ? 時間をつぶすなら、女性1人でいるよりも安全だ」
「お前が安全だという保証はないだろ」
口八丁な男に、バーテンダーが思わず声に出して毒づいた。
女の顔が驚いたように自分へ向けられるのに、バーテンダーは小さく手を挙げて自分と男が古い友人であることを告げる。
女は納得したように小さく「ああ」と頷いて、僅かに笑った。
「じゃあ、人柄はマスターが保証してくれますよね」
「むしろ安全じゃないという保証をしますよ、俺は」
女とバーテンダーのやり取りに、男はシニカルに笑ってグラスを煽る。
カランという氷の音が、シンキングタイム終了の合図だった。
会計を済ませ、2人は連れだって店を出て行く。
バーテンダーは盛大なため息を吐いて、閉店作業を再開した。
照明は電球色のダウンライトがカウンター内を照らすだけで、客席側は仄暗い。
現在は、日付を跨いで終電が出てしまっている時刻。
店内に残る客は、男女が1人ずつだ。
「お客様。そろそろラストオーダーです」
バーテンダーが告げると、壁際に座る男は何食わぬ顔でウィスキーフロートをオーダーした。
男の口角が上がる気配に、バーテンダーは盛大なため息を飲み込む。
――こいつはいつもこれだ。
気持ちを切り替え、バーテンダーは1つ空けた席に座る女の方へと向き直った。
「じゃあ……メリー・ウィドウを」
バーテンダーは1つ頷くと、ウィスキーフロートとメリー・ウィドウを順に出す。
男はウィスキーフロートをひと口飲み、口角を上げた。
「“もう一度素敵な恋を”」
男の一言にグラスに伸ばした女の指が揺れる。
バーテンダーは見て見ぬふりをして、閉店の準備を始めた。
「ちなみにこれは、“楽しい関係”」
「……イヤな人」
「どうも。イヤな人ついでに、これ飲んだら、別のところで飲みませんか?」
男の言葉に、バーテンダーは隠さずにため息を吐いた。
「お客様。当店ではそういったことは……」
「もちろん無理強いはしない。ただ今日はもう電車が終わっているから、帰るとしても今更急ぐ必要はないだろ? 時間をつぶすなら、女性1人でいるよりも安全だ」
「お前が安全だという保証はないだろ」
口八丁な男に、バーテンダーが思わず声に出して毒づいた。
女の顔が驚いたように自分へ向けられるのに、バーテンダーは小さく手を挙げて自分と男が古い友人であることを告げる。
女は納得したように小さく「ああ」と頷いて、僅かに笑った。
「じゃあ、人柄はマスターが保証してくれますよね」
「むしろ安全じゃないという保証をしますよ、俺は」
女とバーテンダーのやり取りに、男はシニカルに笑ってグラスを煽る。
カランという氷の音が、シンキングタイム終了の合図だった。
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