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王族の闇
しおりを挟む俺たちは西に進む。
西には海があり、ハクとルナも遊んで楽しめるはずだ。
ただ、ネルの様子が少し暗い。先程少し言い過ぎたようだ。
「ネル、さっきはすまん。言い過ぎた」
「いいよ、シンヤが言ったことは本当だったし」
そう言うがまだ暗い。
俺は仕方なくハクとルナに小さな声で一つお願いをした。
そしてハクルナはネルに近づく。ルナは耳と尻尾を出しながら。
「ネルお姉ちゃん!元気出してッ!」
「ボクの耳と尻尾、触っていいよ!」
ハクとルナは満面の笑みでそう言った。
すると、ネルの顔が少しだけ緩む。
俺はもう一押しだ、と思い話に参加する。
「ネル、何でも一つ言うことを聞くから、その暗い空気を消してくれ」
「何でも一つ言うことを聞くから」。この言葉は日常的によく聞く言葉だろう。
何かやってはイケない事をしてしまった時、許してもらいたい時、この言葉はよく使われる。
だが、これを使ったとしても、本当に言うことを聞いてくれるあまり無いはずだ。
それは何故か。理由は言った本人が、それを行うための力を持ってないから。
だがしかし、俺はそれを実行する力を持っている。だから頼むネル。そのままずっと暗い空気を纏っていると、楽しい旅が暗くなってしまう。
俺はできるだけ必死の表情でそう言った。
すると、ネルから小さな笑い声が聞こえた。見てみると、ネルの顔から笑が浮かんでいる。纏っている空気も、明るくなってきた。
「言ったな~」
ネルは笑顔でそう言い、俺の体をつついてくる。
その笑顔からは先程の暗さが一切感じかられない。
まさかこいつ、この言葉を狙っていたのか。俺が大抵のことができるとわかっていたから。
そして笑顔のまま、ハクとルナに抱きついている。
ネルも少し変わった。初めにあった時はちょっとおどおどしてて、頼りなさそうだったのに、今ではそんな様子もなく冷静だ。最初は慌てていても、少しすれば冷静になる。アリアのときがそうだった。
「お前、急に明るくなったな」
「いや、急にじゃないよ。シンヤにめちゃくちゃに言われた時、確かに信じたくなかった。でも、あのお姉ちゃんの姿を見たら、シンヤの言葉を肯定して仕舞うよ」
「つまりお前は、外に出る前から認めていたのか」
「そう言うこと」
ネルは笑いながら「言質はとったよ」と言われたので、「わかった」と返した。
まぁ、楽しく旅ができるならそれでいい。
俺はそう思い、ハクとルナを抱きしめて遊んでいるネルの姿を見て笑った。
「それよりも、ネル」
「ん?どうしたの」
「今大多数の魔物と人間の群勢が近づいてきているんだが、殺してもいいのか?」
「え!?」
こいつ、ハクとルナを可愛がるのに夢中で、気配を感じてなかったのか。
「そうだ、面白いこと思いついた」
「なになに?」
「どんなこと?」
ハクとルナがキラキラした目で俺を見る。
「今来ている群勢を三人で全て、討伐するのはどうだ?あっ、でも人間は殺すなよ。気絶させろ」
「「おぉーーー」」
「えぇーーー!?」
俺の提案に喜ぶハクとルナ。逆にネルは驚きの声を出している。
「む、むりむりむり、絶対むり!」
ネルはむりを連呼しながら急いでこっちまで歩み寄ってきた。
「何でむりなんだよ。お前は大丈夫だって、自分に自信を持て」
「そんなの……。やっぱりむりむり!」
俺は必至に断っているネルのステータスを見た。
【名前】ネル
【種族】人族
【性別】女【年齢】15
【レベル】37
【HP】210
【MP】300
【攻撃力】151
【魔攻力】245
【防御力】197
【魔防力】260
【俊敏力】153
スキル
隠蔽Lv4 気配察知Lv3 魔力操作Lv5 火魔法耐性Lv3 水魔法耐性Lv2
魔法
水魔法Lv6 土魔法Lv5 雷魔法Lv4 回復魔法Lv3
ネルのステータスを見て驚いた。
魔物も人間にここまでの差があるとは。もしかすると、冒険者の高ランカー達も、俺より圧倒的にステータスが低いんじゃないか?
それと、同じ人間である勇者たちと、この世界の人間のステータスの差が気になる。
まぁ、そういうことは置いといて、ネルのステータスを見終わった俺は、ネルに言う。
「でも、もう時間が無いぞ?」
俺はそう言って王国の方を指さした。すると少し待っていると、ドドドトドドドドッ、という地響きが鳴りその音は確実にこちらに近づいていた。
魔物の数は約五十匹、四足歩行の魔物でその上に黒のローブを着た人間が乗っている。
魔物のがもうすぐそこまで近づいてきたので、俺は履いている靴に付与されていた、空歩を使い空を階段登っていくように歩いていく。そして空に魔物がいないかを確認し、戦っているネルたちの姿を見るため【感覚強化(極)】で目を部分強化しその場に立った。
そこで魔物をよく見てみると、数匹の魔物のその口には人の腕や足、その毛色にはないはずの赤色が付着していた。恐らく、ここに来るまでにいた冒険者でも食っていたのだろう。
ネルたちと戦っている魔物を鑑定した。ステータスは五十前後。これなら勝てるはずだ。
ネルは魔法を撃って、ハクとルナは突撃して魔物を蹴散らしていく。魔物は次々と肉片に変わっていき死んでいき、人間はバタバタと気絶していった。
そして10数分後、戦っていた場所は緑は魔物の血である紫に染まった。
「おつかれさん」
空中を歩きながら三人のもとに向かう。そんな俺の姿を見て、ネル、ハク、ルナは口を開け呆然としていた。
「三人とも、体汚れているから一度お風呂に入れ」
そう言ってお風呂用の小屋を作っては三人が入っていく。やっぱり家が欲しいな。
俺は三人が小屋に入ったのを確認して、気絶している人間の一人に水魔法の水球を顔にぶつけた。
「ぷはっ、なんだお前は!」
俺が起こした男が声を荒らげる。
「質問に答えろ。誰の依頼で来た。どうして俺ではなく三人を狙った」
「な、何「その格好は盗賊や山賊じゃない。しっかりと店で買った装備の数々だ。言い逃れはできん。質問に答えろ」
俺は男の言葉を遮り同じ言葉を繰り返す。だが、男は無言を貫き通すようだ。
仕方なく周りで寝ている奴らにも水球をぶつけた。いきなりの水を顔にかけられたので驚き起き上がる男達。
「影の牢獄」
逃げても追いつくがめんどくさいので、男達の影から一人分の小さな牢屋を作った。その中に入った男達は、突然の出来事に驚いている。
「もう一度聞く、誰の依頼で来た。どうして俺ではなく三人を狙った」
まだ無言をする男達。
俺は影の牢獄の影から、大きな棘を数本出し、一人の男の全身に急所を外しながら刺した。
刺された男は苦痛の叫びをあげる。
「ぎゃああああ!!」
叫び終えた男は力なく地面に倒れた。
「質問に答えなければ、そいつと同じことになる」
そう言って「質問に答えろ」と言い放つ。だが、無言をする男達。なのでまた、影から作る影で刺す。黒い影の棘からは、刺された人間の赤い血がポツリポツリと地面に垂れ落ちる。
そんなことを何度か繰り返すと、一人の男が口を開いた。
「わ、わかった!言うから、もうやめてくれ!」
その声は後ろの方からだった。
俺は言葉を発した男の前に立った。
すると、男はニヤリと笑い俺の手を引き寄せ、ある腕輪をつけた。
「はっはっはー!ざまぁねぇ!EXランクの冒険者だろうと、これを付けられたらおしまいだぁ!」
俺が付けられたのは、帝国で初めて渡された道具。【隷属の腕輪】だった。
付けた男も、周りの男達も自分たちが勝ったと確信しているのか、笑い声が飛んでくる。
しかし、俺も男達に向かって笑い。
【隷属の腕輪】は、バチッと音が鳴り効果を無くした。
その様子を見て男達の笑い声が消え。
「悪いな、俺に魔法は効かない。こいつを付けてきたバツだ」
残っている半分の男の牢屋から、棘が現れ体を突き刺す。
男達が叫び出す。
「さて、質問に答えろ」
「わ、わかった!本当のことを言う!言うから!」
男達の視線から感じる恐怖、声音に宿る感情、表情に現れる絶望。それらから読み取れる。これから言うことは本当のことなんだ、と。
「じゃあ答えろ」
「依頼してきたのは国王からだ!国王から冒険者ギルドに依頼してきた!」
「どうして三人を狙った」
「あ、あいつらを人質に取れば、有効に話が進むと思ってたんだろう」
まさか依頼してきたのが国王だったとは思わなかったが、こいつらは馬鹿なのか?どうして力量の差がわからない。
「わかった、帰ったらこう伝えてくれ。『力量の差を考えろ。それでも来るならいつでもかかってこい。返り討ちにしてやる』と植物の波」
男達の体は、地面に生えている植物の大波に押し流され、王国の方に戻っていった。
それが見えなくなったところで、三人が出てくる。
ハクとルナに視線を向ける。ハクとルナの武具がボロボロになっていたのだ。王国のお店で買ったものだが、ここまで脆いとは。
「ハク、ルナ。今使っている武具の状態が酷い。俺が新しく作るから、それはどこかに捨てておけ」
ハクとルナはわかった、と返し周りにある木の一つの根元に埋め込んだ。
俺は自然魔法の最低ランクである、地魔法で武具を作るのに必要な道具を即席で作り、無限収納から勇者としてこの世界に召喚されクラスメイトとともに行ったダンジョンで見つけた、オリハルコン、ミスリル、アダマンタイト取り出した。
「ちょっと待って!それ、オリハルコンにミスリルとアダマンタイトじゃない!」
そこでネルが、俺の取り出した鉱石に反応する。
「ああ、武具を作るにはこれらが最適だからな」
「どこで手に入れたの、そんな珍しい鉱石」
「ダンジョンの最深部で見つけたんだ。いっぱいあったぞ」
そう言うと、時空魔法で新たな空間を作り、俺はその中に作った道具と鉱石を入れ、三人に「少し待っていてくれ」と言い自分も入った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「国王様!冒険者ギルドに依頼したクエストが、失敗されました!」
王城の中、王の椅子がある部屋に一人の騎士が入ってきた。
「やはりか、何ランクの冒険者が向かった?」
「Cランク冒険者、Bランク冒険者、合わせて約五十名です!」
騎士は綺麗な敬礼をしたまま、話を続ける。
「そして、狙った冒険者から伝言で、『力量の差を考えろ。それでも来るならいつでもかかってこい。返り討ちにしてやる』とのことです!」
「わかった。下がれ」
「はっ!」
国王の一言に、その場から離れる騎士。
騎士がいなくなると、一人の女性が現れた。その女性とは、ミリーナ・ルミナ。国王の娘だ。
「お父様。失敗したのですか?」
「ああ、そのようだ。すまぬな、お前の願いだったのに」
そう、シンヤを捕まえることを願ったのは、ミリーナであった。
「仕方ないですよ。相手はEX冒険者。今度はもっとランクが高い冒険者に依頼しなければ」
「そうじゃな。ミリーナよ、なぜあの男を狙ったのじゃ?」
「それは、私の趣味の為ですよ」
「そういうことか」
会話が終わり、ミリーナは部屋を出た。
「あんな綺麗な瞳、口、体、初めて見た。早くあの方を捕まえて、遊びたいわぁ」
顔を歪ませながらそう言って廊下を歩くミリーナ。
そして、地下に行く階段を降りて、ある扉を開けた。
その中には、沢山の拷問器具。精液まみれで、あざが沢山ついている女性。解剖のための道具。大きな牢屋に入っている奴隷達。
もう一つの牢屋にゴブリンやオーク、トロールにオーガと、どの魔物も女性の天敵だ。
ミリーナの趣味とは、拷問器具を使ったものだった。
その事は、家族全員が知っていた。
なぜなら、王族全員が狂っているからだ。
王女であるミリーナは拷問器具で気に入った男性を拷問すること。
王子であるレミルスは女性を山賊に金を渡し誘拐、部屋に連れ込み強姦、暴行して、使い物にならなくなれば自分がテイムしているゴブリンやオークに遊ばせること。
王であるエルフレストとは奴隷を麻薬漬けにすること。
妃のクリファストはレミルスと誘拐した女性を生きたまま解剖すること。
これが王族の裏の姿であった。
王族は、自分たちが持っている権利で、己の欲望を満たす化け物たちだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
空間の中は、三人がいる世界の一分が一時間になる空間だった。
この空間に入れば、すぐに完成できる。
俺は修行中と同じくらい集中して取り組んだ。
溶かし、形を整え、打って、冷まし、作るのに必要な工程を何度も繰り返す。
そして出来上がったハクのガントレット。ガントレットはアダマンタイトで出来ているため、ものすごく硬い。ルナに作ったダガーは、オリハルコンとミスリルを合わせたもので、魔力を通しやすくして、ミスリルの軽さと、アダマンタイトには劣るがその次に硬いオリハルコン硬さを利用している。
そして二人の防具は、急所の部分はオリハルコンを、脚につける装備はミスリルにして動きやすくし、風魔法で素早くするため、風魔法の魔法陣を付与しておいた。
こうして出来上がったので、空間から出た。
「シンヤ、もう出来たの?」
「ああ、ちゃんと出来た。ネルも壊れそうになった時は俺に言ってくれ、新しいのを作ろう」
「シンヤって、武器とか作れたの?」
「そうだぞ、こいつも俺が作ったんだ」
俺は自分の腰に下げている凍篭華を鞘から抜いた。凍篭華は俺が一番最初に作ったもので、光が透き通るような白くほとんど透明の美しい刀だ。この姿を作り出すのに、どれほどかかったものか。
そんな凍篭華の美しさに惹かれたのか、三人は刀身を触ってきた。
そしてその触った指は凍った。
三人は慌てて動き出し、ハクが三人の指に火魔法をかけた。だが溶けない。
「ちょっと動くなよ。凍篭華、『戻れ』」
そう言うと、凍った指の氷が凍篭華の刀身に吸い付き元に戻った。
「凍篭華の氷は凍篭華溶かせない。溶かせるとしたら豪炎魔法をぶつけるしかないから、無闇に触るなよ」
ネルたち三人は首を縦に振る。
そしてまた、海に向かうため西に進もうとしたとき、俺の頭の中でビービービー、という音が鳴った。
俺はすぐ、盤上の地図を頭の中に広げた。そして見つけた。アラームが鳴った原因の場所が。
「ネル、ハク、ルナ。急用ができた。ここで待っていてくれ」
そう言って、フードを被り、マフラーをつけ、アラームの鳴る盤上の地図専用に指してあったピンにスキルのロックオンを使い、転移した。
「え、ちょっ……何があったのよ」
ネルのそんな小さな呟きが、風の音に流されて、消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺が転移した場所には、クラスメイトたちがボロボロでいる。その後ろで、傷を癒されている俺の担任の先生。
そして、空中に立っている額に角が生え、背中に巨大なハンマーを背負っている男。
その下には、S+クラスの魔物が数千。
その男は、俺の幼馴染である、気絶している愛菜と雫を抱えている。
その愛菜と雫も怪我を負っている。
男の存在感からして、俺と似た存在。
盤上の地図から、そいつのマークは赤色に光っている。
敵だ。
「おい、そこの奴」
「ああ?」
俺の殺気が乗った冷たい声を聞いても、動揺が見て取れない。後ろにいるクラスメイトは、ガタガタと震えている。
「その二人を離せ」
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