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48無限再生能力
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旅は順調だった。初夏に移り変わるこの季節、いよいよ快適な気候に差しかかり、緑の葉が微風を受けてさんざめいている。それは俺の鼓膜を優しく触って、清涼感で胸を一杯にさせた。すっかり雪解けしたデルガ連峰を仰ぎ見ながら、俺たちは馬を駆って何ごともなく進んでいく。
魔王ウォルグが人間のライデンに打ち倒されたためだろう、襲ってくる魔物たちは激減していた。それでも人間である俺たちを食おうとするものが現れるので、いい加減爪を飛ばして撃退しなければならない。
開けた場所に出た。日照り続きでちょろちょろとしか流れていない川を横目に見ながら、俺たちは大峡谷の内にひづめの跡を残していく。
「そろそろ休憩するか」
俺は自分の馬から降りると、適当な岩に手綱を繋げて、水筒に手を延ばした。シモーヌも同様にしてくつろぐ。亡霊がつぶやいた。
「もう東の谷の内部か……そろそろ魔界への通路――黒い火の玉が見つかってもよさそうなものだがのう」
俺は聞きとがめた。黒い火の玉?
「魔界へは扉とかで繋がってるんじゃないのか?」
「いや。約200年ごとに現れ、10~20年間は消えない漆黒の火炎球。それこそが魔界への通路なのだよ。ほっほっほ。それに触れたものは、吸い込まれて魔界へとおもむく――はずさ。当時のわしの研究によればな」
「ふうん。黒い炎の玉、ねえ……」
俺は川の水を水筒ですくい、そのフタを閉じて馬の鞍に引っかけた。これでまた当分乾きとはおさらばだ。
と、そのときだった。
「何者ですかね、あなた方は……」
俺たちの前に物凄い速さで飛来してきて、着地した男。そのコウモリの羽から魔族だと知れた。
20代半ばの見た目で、群青色の髪の毛を左右に垂らしている。整った顔立ちは紳士風だが、きつい眼差しがそれを裏切っていた。たくましい裸の上半身をさらけ出し、腰には長剣を佩いている。そして、肌は青白かった。
「あなた方はここをどこだと思っているのですか?」
俺は用心深く臨戦態勢を取りながら、慎重に答えた。
「どこって……デルガ連峰の『東の谷』だろ」
「わたくしは高級魔族ダルモア。ここは生前の魔王モーグさまより与えられ、死守するよう命じられた土地。侵入者、それも人間ならば、わたくしとしては排除させていただくしかありませんな」
ダルモアは長剣を鞘から抜き放った。死神の鎌を思わせる鈍い光が、俺の目を突く。そうしてできた一瞬の隙を見逃さず、魔族は滑るように襲来してきた。あっと思ったときにはもう、眼前に白刃が迫ってきている。俺は必死に避けようとしたがかなわず、左前腕を真っ二つに分断された。
「ぐあっ!」
激しい痛みに俺は倒れそうになる。だが相手が旋回する刹那のときを捉えないわけにはいかなかった。俺は踏ん張って右手人差し指を構え、こちらを向いたダルモアの頭部に狙いを定める。そして、豪雨のような鋼の爪を一斉に叩き込んだ。
ダルモアの頭は原形をとどめないほど爆砕される。哀れ魔族は血と骨と肉を撒き散らしながら、墜落して地面に激突した。勝った……!
だが喜びもつかの間だった。うつ伏せに倒れるダルモアの首から、新しい頭部が生えてきたのだ。時間にして数瞬の出来事だった。彼は自分の血だまりに仁王立ちすると、首の骨を鳴らしながら不思議そうにこちらを見る。
「何ですか、今の技は……!」
何ですかはこちらの台詞だ。俺は驚愕を押し殺すのに必死だった。
「ば、馬鹿な。確かに死んだはずなのに……!」
ダルモアは美しい微苦笑をたたえる。体中の破損したすべての箇所が、完全に元通りになっていた。
「わたくしは無限再生能力を持っているのですよ。人界ではあんまり見かけない能力ですがね。さあ、今度こそ始末させてもらいましょう!」
ダルモアが羽を広げて、長剣片手にまた俺へ攻撃しようと飛翔する。だがそれを制したのは、俺の爪ではなく炎の球5連発だった。ダルモアはすべてもらって、たちまち上半身を炎に包まれたが、やはりすぐに再生する。
俺が横を見ると、そこには『魔法使いの腕輪』をはめたシモーヌが立っていた。今の火球は彼女の技だったのだ。助太刀感謝。
ダルモアは感心したように、こちらへの攻撃の手を休める。相変わらず表情は厳しいが、好奇心の彩りがその表面にあふれ出ていた。
「ふむ。不思議な爪といい、今の炎の玉といい、どうやらあなた方が今回魔王征討をもくろんだ勇者一行のようですね。しかし、あの堕天使ウォルグの気配は途絶えたはずですが」
「残念だが俺はムンチ、勇者一行のおまけみたいなもんだ。……シモーヌ、すまねえが回復頼む」
「はい!」
シモーヌが新『僧侶の杖』を一振りすると、俺の左前腕がにょっきり生えてきた。と同時に痛みが嘘のように消え去る。これにはダルモアが口を開けっぴろげにして驚いた。
「今度は治癒……! これが勇者一行の実力ですか……!」
俺はやたらと驚くダルモアを前に、まだ続行する戦いへと闘志をみなぎらせる。ただ、言っておきたいことは言った。
「魔王モーグはもう死んでるんだ。いつまでもここにしがみついてても意味ないぞ、ダルモア」
「そんなことは分かってますよ。これはモーグさまへの義理です。――つかぬことをうかがいますが、あなた方は一体どこへ行くつもりでここを通っていたのですか?」
これにはシモーヌが答える。俺の斜め後ろから優しい声が響き渡った。
「亡くなった勇者一行の4人を、復活させることはできないものかと思って……。魔界へ通じる黒い火の玉があるという、この谷へやってきたのです」
「ははあ、そうでしたか……」
『勇者の剣』のケストラの亡霊が俺にひっそりささやく。
「小僧、お前あいつを斬れないかの? この『勇者の剣』で……」
「効くのか?」
「液体の体ではなく、単なる超再生能力ごときなら、たぶんいけると思うがの」
ダルモアは垂直に飛び上がると、俺目がけて滑空してきた。
「何をぶつぶつと……! 死になさい!」
俺はダルモアの目元に爪の塊を浴びせる。魔王ウォルグ戦でもやった目潰しだ。
「うぬっ! 前が見えない……!」
「食らえっ!」
隙だらけの魔族の羽を、『勇者の剣』で片方真っ二つにする。バランスを失ったダルモアは、地面を派手に転がって木に激突した。しかし……
魔王ウォルグが人間のライデンに打ち倒されたためだろう、襲ってくる魔物たちは激減していた。それでも人間である俺たちを食おうとするものが現れるので、いい加減爪を飛ばして撃退しなければならない。
開けた場所に出た。日照り続きでちょろちょろとしか流れていない川を横目に見ながら、俺たちは大峡谷の内にひづめの跡を残していく。
「そろそろ休憩するか」
俺は自分の馬から降りると、適当な岩に手綱を繋げて、水筒に手を延ばした。シモーヌも同様にしてくつろぐ。亡霊がつぶやいた。
「もう東の谷の内部か……そろそろ魔界への通路――黒い火の玉が見つかってもよさそうなものだがのう」
俺は聞きとがめた。黒い火の玉?
「魔界へは扉とかで繋がってるんじゃないのか?」
「いや。約200年ごとに現れ、10~20年間は消えない漆黒の火炎球。それこそが魔界への通路なのだよ。ほっほっほ。それに触れたものは、吸い込まれて魔界へとおもむく――はずさ。当時のわしの研究によればな」
「ふうん。黒い炎の玉、ねえ……」
俺は川の水を水筒ですくい、そのフタを閉じて馬の鞍に引っかけた。これでまた当分乾きとはおさらばだ。
と、そのときだった。
「何者ですかね、あなた方は……」
俺たちの前に物凄い速さで飛来してきて、着地した男。そのコウモリの羽から魔族だと知れた。
20代半ばの見た目で、群青色の髪の毛を左右に垂らしている。整った顔立ちは紳士風だが、きつい眼差しがそれを裏切っていた。たくましい裸の上半身をさらけ出し、腰には長剣を佩いている。そして、肌は青白かった。
「あなた方はここをどこだと思っているのですか?」
俺は用心深く臨戦態勢を取りながら、慎重に答えた。
「どこって……デルガ連峰の『東の谷』だろ」
「わたくしは高級魔族ダルモア。ここは生前の魔王モーグさまより与えられ、死守するよう命じられた土地。侵入者、それも人間ならば、わたくしとしては排除させていただくしかありませんな」
ダルモアは長剣を鞘から抜き放った。死神の鎌を思わせる鈍い光が、俺の目を突く。そうしてできた一瞬の隙を見逃さず、魔族は滑るように襲来してきた。あっと思ったときにはもう、眼前に白刃が迫ってきている。俺は必死に避けようとしたがかなわず、左前腕を真っ二つに分断された。
「ぐあっ!」
激しい痛みに俺は倒れそうになる。だが相手が旋回する刹那のときを捉えないわけにはいかなかった。俺は踏ん張って右手人差し指を構え、こちらを向いたダルモアの頭部に狙いを定める。そして、豪雨のような鋼の爪を一斉に叩き込んだ。
ダルモアの頭は原形をとどめないほど爆砕される。哀れ魔族は血と骨と肉を撒き散らしながら、墜落して地面に激突した。勝った……!
だが喜びもつかの間だった。うつ伏せに倒れるダルモアの首から、新しい頭部が生えてきたのだ。時間にして数瞬の出来事だった。彼は自分の血だまりに仁王立ちすると、首の骨を鳴らしながら不思議そうにこちらを見る。
「何ですか、今の技は……!」
何ですかはこちらの台詞だ。俺は驚愕を押し殺すのに必死だった。
「ば、馬鹿な。確かに死んだはずなのに……!」
ダルモアは美しい微苦笑をたたえる。体中の破損したすべての箇所が、完全に元通りになっていた。
「わたくしは無限再生能力を持っているのですよ。人界ではあんまり見かけない能力ですがね。さあ、今度こそ始末させてもらいましょう!」
ダルモアが羽を広げて、長剣片手にまた俺へ攻撃しようと飛翔する。だがそれを制したのは、俺の爪ではなく炎の球5連発だった。ダルモアはすべてもらって、たちまち上半身を炎に包まれたが、やはりすぐに再生する。
俺が横を見ると、そこには『魔法使いの腕輪』をはめたシモーヌが立っていた。今の火球は彼女の技だったのだ。助太刀感謝。
ダルモアは感心したように、こちらへの攻撃の手を休める。相変わらず表情は厳しいが、好奇心の彩りがその表面にあふれ出ていた。
「ふむ。不思議な爪といい、今の炎の玉といい、どうやらあなた方が今回魔王征討をもくろんだ勇者一行のようですね。しかし、あの堕天使ウォルグの気配は途絶えたはずですが」
「残念だが俺はムンチ、勇者一行のおまけみたいなもんだ。……シモーヌ、すまねえが回復頼む」
「はい!」
シモーヌが新『僧侶の杖』を一振りすると、俺の左前腕がにょっきり生えてきた。と同時に痛みが嘘のように消え去る。これにはダルモアが口を開けっぴろげにして驚いた。
「今度は治癒……! これが勇者一行の実力ですか……!」
俺はやたらと驚くダルモアを前に、まだ続行する戦いへと闘志をみなぎらせる。ただ、言っておきたいことは言った。
「魔王モーグはもう死んでるんだ。いつまでもここにしがみついてても意味ないぞ、ダルモア」
「そんなことは分かってますよ。これはモーグさまへの義理です。――つかぬことをうかがいますが、あなた方は一体どこへ行くつもりでここを通っていたのですか?」
これにはシモーヌが答える。俺の斜め後ろから優しい声が響き渡った。
「亡くなった勇者一行の4人を、復活させることはできないものかと思って……。魔界へ通じる黒い火の玉があるという、この谷へやってきたのです」
「ははあ、そうでしたか……」
『勇者の剣』のケストラの亡霊が俺にひっそりささやく。
「小僧、お前あいつを斬れないかの? この『勇者の剣』で……」
「効くのか?」
「液体の体ではなく、単なる超再生能力ごときなら、たぶんいけると思うがの」
ダルモアは垂直に飛び上がると、俺目がけて滑空してきた。
「何をぶつぶつと……! 死になさい!」
俺はダルモアの目元に爪の塊を浴びせる。魔王ウォルグ戦でもやった目潰しだ。
「うぬっ! 前が見えない……!」
「食らえっ!」
隙だらけの魔族の羽を、『勇者の剣』で片方真っ二つにする。バランスを失ったダルモアは、地面を派手に転がって木に激突した。しかし……
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