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0052(七)09
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立ち上がった黒潮先輩は、仲間たちとハイタッチをかわした。その直後、アルコールティッシュで自分の手を拭く。失礼な綺麗好きだった。
俺は抜け殻のようになって、真樹先輩と入れ替わるように自席へ戻る。
「すみませんでした、部長」
「何、構わん。まだ1敗だ」
有働部長が真樹先輩に冷笑をぶつける。
「まずは俺たちの勝ちだな。流れを止めたくない。次の勝負といこう。この作品でな。南!」
「はい!」
再び南副部長が巾着袋を漁る。取り出だしたるは――
「ファミコンの定番ソフト、『マリオブラザーズ』!」
その黄色いカセットに、駄ゲー部部員たちは歓声を上げた。そう、このソフトは「学習済み」のゲームの中の一本だったのだ。
俺たちの反応にぎょっとするパソコン部部員たち。南副部長が唾を吐きたそうな顔をした。
「どうやら遊んだことがあるみたいだな」
美夏先輩が真樹先輩とアイコンタクトを取り、椅子から離れた。
「うちがこのゲーム担当するで。相当やり込んだし、絶対負けへん」
有働部長が感心したかのように腕を組む。
「ほう、そうなのか。なら一条、15分の試遊はいらないな?」
「いりまへんで。うちはいつでも臨戦態勢や」
部長同士が目顔で確認しあう。真樹部長がメンバー表からパソコン部代表を素早く選出した。
「では、パソコン部虹野泰樹、前へ!」
背の低い太陽のような少年が、パソコン部側のプレイシートに着席する。
「お手柔らかに頼みますよ、一条先輩」
美夏先輩は余裕のあるところを見せ付けた。
「何、多少は花持たせてやるわ。もちろん勝利はいただきやけどな」
雲雀先輩が声援を送った。
「頑張ってなので、美夏ちゃん!」
有働部長がしわぶきを一つしてから、今回の勝敗条件を提示する。
「ルールは簡単。デスマッチだ。先に自キャラ――虹野ならマリオが、一条ならルイージが全滅すると負けになる。モードは2人対戦B。では、始め!」
ゲームに突入するというのに、さきほどまでの貫禄はどこへやら、美夏先輩は明らかに狼狽してみえた。
「ちょ、ちょい待ち! 『マリオブラザーズ』は協力して先の面に進んでいくゲームやろ? デスマッチって何やねん?」
クールな美夏先輩が崩壊する。とにもかくにも、ゲームは始まってしまった。
『マリオブラザーズ』は古いファミコンゲームの中でも更に古く、1983年の本体発売のすぐ後に発売されている。固定画面で、段差のある画面をマリオが駆け回り、上の管からやってくる亀や蟹(かに)を全滅させれば1面クリアとなる。
歩いている敵にそのままぶつかるとミスとなるが、床下からジャンプで叩くと敵がひっくり返るので、このときに走って蹴ると画面外へ叩き落すことが可能だ。また画面中央下部にはパワーボックスがあり、これを下から叩くと画面上の接地している敵を一斉に裏返すことができる。寝ている敵を下から叩くと、また元に戻って進み始めるから注意が必要だ。
美夏先輩のルイージが躍動する。
「要するにマリオをミスさせればええんやろ?」
画面上部の亀たちをほったらかしにして、美夏先輩は最下段左端の虹野マリオに体当たりをかました。もちろん、プレイヤー同士が接触しただけではミスとはならない。互いに押し合ったり出来るだけだ。
虹野はくすくす笑いながら美夏先輩をあおる。
「一条先輩、ほらほら、亀が来ますよ」
「分かっとるわい」
ルイージがマリオから離れる。行動の自由を得た後者は、パワーボックスを三回突き上げて消滅させた。驚く美夏先輩に、虹野はスマイルを見せた。
「さ、準備は整いました! 戦いましょう、一条先輩」
雑な効果音と共に画面端から緑色の炎の玉が現れる。それは高速で画面下部を真横に突き抜けようとした。
「あかん、炎や」
ルイージが避けて、上段の床へ飛び乗る。マリオはパワーボックスがなくなった空間を利用してジャンプで炎をかわした。
「うわっ、邪魔や」
亀が近づいてくるのを、美夏先輩は必死でやり過ごす。ちなみにこのゲーム、画面左端と右端は繋がっている。
またガスバーナーのような粗雑な音と共に、今度は三段目で緑の炎がルイージを襲った。
「ああ、しつこい」
二段目をうろうろするルイージ。亀たちがその行く手を遮る。
そのときだった。
「もらいました!」
虹野の笑いと共に、マリオが下からルイージの乗る床を突き上げた。ルイージは無様に跳ね上がり、歩いている亀に激突。1ミスとなった。
「あーっ! 何するねん!」
画面最上段で次のルイージがスタンバイされる。まさにそのとき、付近で今度は赤い炎が発生。斜めに移動し始めた。
俺たち駄ゲー部部員たちの声援が飛ぶ。
「頑張れ、美夏先輩! 負けないで!」
俺は抜け殻のようになって、真樹先輩と入れ替わるように自席へ戻る。
「すみませんでした、部長」
「何、構わん。まだ1敗だ」
有働部長が真樹先輩に冷笑をぶつける。
「まずは俺たちの勝ちだな。流れを止めたくない。次の勝負といこう。この作品でな。南!」
「はい!」
再び南副部長が巾着袋を漁る。取り出だしたるは――
「ファミコンの定番ソフト、『マリオブラザーズ』!」
その黄色いカセットに、駄ゲー部部員たちは歓声を上げた。そう、このソフトは「学習済み」のゲームの中の一本だったのだ。
俺たちの反応にぎょっとするパソコン部部員たち。南副部長が唾を吐きたそうな顔をした。
「どうやら遊んだことがあるみたいだな」
美夏先輩が真樹先輩とアイコンタクトを取り、椅子から離れた。
「うちがこのゲーム担当するで。相当やり込んだし、絶対負けへん」
有働部長が感心したかのように腕を組む。
「ほう、そうなのか。なら一条、15分の試遊はいらないな?」
「いりまへんで。うちはいつでも臨戦態勢や」
部長同士が目顔で確認しあう。真樹部長がメンバー表からパソコン部代表を素早く選出した。
「では、パソコン部虹野泰樹、前へ!」
背の低い太陽のような少年が、パソコン部側のプレイシートに着席する。
「お手柔らかに頼みますよ、一条先輩」
美夏先輩は余裕のあるところを見せ付けた。
「何、多少は花持たせてやるわ。もちろん勝利はいただきやけどな」
雲雀先輩が声援を送った。
「頑張ってなので、美夏ちゃん!」
有働部長がしわぶきを一つしてから、今回の勝敗条件を提示する。
「ルールは簡単。デスマッチだ。先に自キャラ――虹野ならマリオが、一条ならルイージが全滅すると負けになる。モードは2人対戦B。では、始め!」
ゲームに突入するというのに、さきほどまでの貫禄はどこへやら、美夏先輩は明らかに狼狽してみえた。
「ちょ、ちょい待ち! 『マリオブラザーズ』は協力して先の面に進んでいくゲームやろ? デスマッチって何やねん?」
クールな美夏先輩が崩壊する。とにもかくにも、ゲームは始まってしまった。
『マリオブラザーズ』は古いファミコンゲームの中でも更に古く、1983年の本体発売のすぐ後に発売されている。固定画面で、段差のある画面をマリオが駆け回り、上の管からやってくる亀や蟹(かに)を全滅させれば1面クリアとなる。
歩いている敵にそのままぶつかるとミスとなるが、床下からジャンプで叩くと敵がひっくり返るので、このときに走って蹴ると画面外へ叩き落すことが可能だ。また画面中央下部にはパワーボックスがあり、これを下から叩くと画面上の接地している敵を一斉に裏返すことができる。寝ている敵を下から叩くと、また元に戻って進み始めるから注意が必要だ。
美夏先輩のルイージが躍動する。
「要するにマリオをミスさせればええんやろ?」
画面上部の亀たちをほったらかしにして、美夏先輩は最下段左端の虹野マリオに体当たりをかました。もちろん、プレイヤー同士が接触しただけではミスとはならない。互いに押し合ったり出来るだけだ。
虹野はくすくす笑いながら美夏先輩をあおる。
「一条先輩、ほらほら、亀が来ますよ」
「分かっとるわい」
ルイージがマリオから離れる。行動の自由を得た後者は、パワーボックスを三回突き上げて消滅させた。驚く美夏先輩に、虹野はスマイルを見せた。
「さ、準備は整いました! 戦いましょう、一条先輩」
雑な効果音と共に画面端から緑色の炎の玉が現れる。それは高速で画面下部を真横に突き抜けようとした。
「あかん、炎や」
ルイージが避けて、上段の床へ飛び乗る。マリオはパワーボックスがなくなった空間を利用してジャンプで炎をかわした。
「うわっ、邪魔や」
亀が近づいてくるのを、美夏先輩は必死でやり過ごす。ちなみにこのゲーム、画面左端と右端は繋がっている。
またガスバーナーのような粗雑な音と共に、今度は三段目で緑の炎がルイージを襲った。
「ああ、しつこい」
二段目をうろうろするルイージ。亀たちがその行く手を遮る。
そのときだった。
「もらいました!」
虹野の笑いと共に、マリオが下からルイージの乗る床を突き上げた。ルイージは無様に跳ね上がり、歩いている亀に激突。1ミスとなった。
「あーっ! 何するねん!」
画面最上段で次のルイージがスタンバイされる。まさにそのとき、付近で今度は赤い炎が発生。斜めに移動し始めた。
俺たち駄ゲー部部員たちの声援が飛ぶ。
「頑張れ、美夏先輩! 負けないで!」
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