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「こちらには膨大な練習時間があるんだ。たかが15分、くれてやっても惜しくはない」
側近中の側近はためらいを顔上に反復させたが、やがて引き下がった。
「分かりました。全ては部長のご意志のままに……」
俺は聞きとがめた。
「膨大って……。まだ答えてもらってませんよ。いつ勝負するんですか?」
「一週間後」
有働部長は叩きつけるように宣言した。
「それまではパソコン部は活動を休止し、俺の自宅でファミコン名作ゲームの猛特訓だ。従ってブレーカー問題は起こらない。そちらもせいぜい練習に励むがいい」
会見はパソコン部有利に進んでいるかのように見える。俺は打開策を見出せず、悔しさにほぞを噛んだ。
そのときだった。真樹先輩のしなやかな腕が、まっすぐ上に直立したのは。
「こちらからも条件がある。聞いてもらえるかな」
有働部長が少々面食らって、一拍遅れて答えた。
「何なりと」
「選手オーダーは、駄ゲー部パソコン部どちらも、こちらが決めさせてもらう」
「げえっ」
有働部長と南副部長が、初めてあからさまにうろたえた。
「ふ、ふざけるな! それじゃこちらは誰がどのゲームを担当するか分からないまま練習することになるじゃないか!」
真樹先輩は冷厳に畳み掛けた。
「それのどこが不利だ! テレビゲームというものは、他人のプレイを横から眺めるだけでも上達するものだ。それにそちらには1週間の練習時間がある。7本全てのゲームに、7人全員が精通することは自明の理ではないか! こちらには開始前の15分しかないのだ。ならば選手オーダーぐらいはこちらが決めさせてもらわねば不公平と言うものだろう。違うか?」
正論だ。会議の主導権は、いつの間にか真樹先輩がその手に掌握していた。有働部長は効果的な反論を宙に探し、意見を求めて南副部長を見た。だが南副部長も立ち直れていない。あたふたした、らしくない顔で見返すばかりだ。結局しばらくの逡巡の後、有働部長の顎は静かに上下した。
「……分かった。選手オーダーはそちらが決めていい。後でこちらの7人の名簿を出そう」
「助かる」
真樹先輩は半ば本音でつぶやいた。これで多少は天秤がこちらに傾いたか。
「では、決戦は1週間後。この部室で、7対7のファミコン名作ゲーム対決だ! 負けた側はブレーカー落ちの全責任を負うこととする。いいな?」
「よし、いいだろう。それで決まりだ!」
こうして決闘は正式に定められた。
「いやー、でもまいったな。ファミコン名作ゲームか……」
パソコン部のツートップが去った後、さすがに駄ゲー攻略は中止して、会談の興奮の余韻に皆が浸っていた。真樹先輩は机に身を投げ出し、冒頭の弱音を吐く。
「どうしたのですので? 普段くそつまらない駄ゲーを遊んでいる私たちからすれば、名作ゲームなどちょちょいのちょいですので?」
楓が椅子に深々と腰掛けている。今まで立ちんぼうで足がくたびれたのだろう――今の俺と同じように。
「でも私たちみたく駄ゲーが骨身に染み付いていると、かえってスムーズな自機の動きや滑らかなスクロール、理不尽でない敵の攻撃に戸惑ってしまうかもしれません」
俺は首肯した。
「とりあえず近所のハードオンや中古ゲームショップで、名作と思われるファミコンソフトを片っ端から買ってきましょう。それが実際に勝負で使われるかどうかは関係ありません。まず全部員が、名作ゲームの空気に慣れる必要があると思いますから」
「金がない」
部長はぼそりと決定的な言葉を吐き出した。
「駄ゲー部の部費じゃもうまかなえない。そうでなくてもかつかつだってのに、今更高価なファミコンソフトなんぞ買えるわけがないだろう」
「金が……」
俺は絶句した。そうか、肝心なことに今まで気がつかなかった。
「拙者が何とか工面しよう」
風林先輩が殊勝にも明言した。
「拙者の家は多少なりとも裕福じゃ、と思っておる。小遣いも割りと多くいただいておると思っておる」
楓がぶしつけに質問した。
「一月いくらぐらいですか?」
「3万じゃな」
「3万!」
風林先輩以外の全員が仰天した。月額5千円の俺にとっては天文学的数字だ。
真樹先輩が風林先輩の兜を鷲掴みにしてこね回した。
「決まりだな。風林二等兵、この戦いには駄ゲー部の未来がかかっている。ファミコン名作ソフト、余裕のある範囲で片っ端から買ってくるんだ!」
「ははーっ」
俺はすかさず言い添えた。
「俺もついていきます」
さすがに年頃の女の子一人をゲーム買い漁りの旅に単独で出かけさせるわけにはいかない。
「なら私も」
楓が挙手した。ふうむ。まあ、俺と風林先輩でデートっぽくなるのも何だし、これはこれでいいかもしれない。
「じゃあ水仙もついてこい」
「任せて」
由紀先輩が両手を重ねて拝み倒した。
「頼むもん! 駄ゲー部の未来は風林ちゃんたちにかかってるもん!」
側近中の側近はためらいを顔上に反復させたが、やがて引き下がった。
「分かりました。全ては部長のご意志のままに……」
俺は聞きとがめた。
「膨大って……。まだ答えてもらってませんよ。いつ勝負するんですか?」
「一週間後」
有働部長は叩きつけるように宣言した。
「それまではパソコン部は活動を休止し、俺の自宅でファミコン名作ゲームの猛特訓だ。従ってブレーカー問題は起こらない。そちらもせいぜい練習に励むがいい」
会見はパソコン部有利に進んでいるかのように見える。俺は打開策を見出せず、悔しさにほぞを噛んだ。
そのときだった。真樹先輩のしなやかな腕が、まっすぐ上に直立したのは。
「こちらからも条件がある。聞いてもらえるかな」
有働部長が少々面食らって、一拍遅れて答えた。
「何なりと」
「選手オーダーは、駄ゲー部パソコン部どちらも、こちらが決めさせてもらう」
「げえっ」
有働部長と南副部長が、初めてあからさまにうろたえた。
「ふ、ふざけるな! それじゃこちらは誰がどのゲームを担当するか分からないまま練習することになるじゃないか!」
真樹先輩は冷厳に畳み掛けた。
「それのどこが不利だ! テレビゲームというものは、他人のプレイを横から眺めるだけでも上達するものだ。それにそちらには1週間の練習時間がある。7本全てのゲームに、7人全員が精通することは自明の理ではないか! こちらには開始前の15分しかないのだ。ならば選手オーダーぐらいはこちらが決めさせてもらわねば不公平と言うものだろう。違うか?」
正論だ。会議の主導権は、いつの間にか真樹先輩がその手に掌握していた。有働部長は効果的な反論を宙に探し、意見を求めて南副部長を見た。だが南副部長も立ち直れていない。あたふたした、らしくない顔で見返すばかりだ。結局しばらくの逡巡の後、有働部長の顎は静かに上下した。
「……分かった。選手オーダーはそちらが決めていい。後でこちらの7人の名簿を出そう」
「助かる」
真樹先輩は半ば本音でつぶやいた。これで多少は天秤がこちらに傾いたか。
「では、決戦は1週間後。この部室で、7対7のファミコン名作ゲーム対決だ! 負けた側はブレーカー落ちの全責任を負うこととする。いいな?」
「よし、いいだろう。それで決まりだ!」
こうして決闘は正式に定められた。
「いやー、でもまいったな。ファミコン名作ゲームか……」
パソコン部のツートップが去った後、さすがに駄ゲー攻略は中止して、会談の興奮の余韻に皆が浸っていた。真樹先輩は机に身を投げ出し、冒頭の弱音を吐く。
「どうしたのですので? 普段くそつまらない駄ゲーを遊んでいる私たちからすれば、名作ゲームなどちょちょいのちょいですので?」
楓が椅子に深々と腰掛けている。今まで立ちんぼうで足がくたびれたのだろう――今の俺と同じように。
「でも私たちみたく駄ゲーが骨身に染み付いていると、かえってスムーズな自機の動きや滑らかなスクロール、理不尽でない敵の攻撃に戸惑ってしまうかもしれません」
俺は首肯した。
「とりあえず近所のハードオンや中古ゲームショップで、名作と思われるファミコンソフトを片っ端から買ってきましょう。それが実際に勝負で使われるかどうかは関係ありません。まず全部員が、名作ゲームの空気に慣れる必要があると思いますから」
「金がない」
部長はぼそりと決定的な言葉を吐き出した。
「駄ゲー部の部費じゃもうまかなえない。そうでなくてもかつかつだってのに、今更高価なファミコンソフトなんぞ買えるわけがないだろう」
「金が……」
俺は絶句した。そうか、肝心なことに今まで気がつかなかった。
「拙者が何とか工面しよう」
風林先輩が殊勝にも明言した。
「拙者の家は多少なりとも裕福じゃ、と思っておる。小遣いも割りと多くいただいておると思っておる」
楓がぶしつけに質問した。
「一月いくらぐらいですか?」
「3万じゃな」
「3万!」
風林先輩以外の全員が仰天した。月額5千円の俺にとっては天文学的数字だ。
真樹先輩が風林先輩の兜を鷲掴みにしてこね回した。
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楓が挙手した。ふうむ。まあ、俺と風林先輩でデートっぽくなるのも何だし、これはこれでいいかもしれない。
「じゃあ水仙もついてこい」
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