34 / 62
0034(五)04
しおりを挟む
その言葉が終わるか終わらぬかうちに、由紀先輩を除く全部員が片手を高々と突き上げた。
「わしが行くしかない!」
「拙者にお任せあれ!」
「うちの応援が必要やないか?」
「私が声援を送るので!」
「私が由紀先輩をサポートします!」
「俺が代表で出ます!」
俺を含めた六人の視線が空中で激突し、見えない火花を散らした。みな由紀先輩の晴れ姿を瞳に焼き付け、かつ、その応援に力いっぱい声を張り上げたいのだ。
「み、みんな……」
由紀先輩がおろおろと両手をさ迷わせる。俺は叫んだ。
「ここは公平にじゃんけんで決めましょう!」
この提案に、俺と由紀先輩以外の10の眼球が逡巡した。だが公平で迅速な決着はそれ以外にないと判断したのだろう、皆の目から迷いが消え失せる。
「いいだろう。みんなもいいな?」
真樹先輩が一座を見渡す。不承を訴えるものは皆無だった。
「よし、ではいくぞ……。最初は、グー!」
六人が一斉に握り拳を差し出す。そして――
「じゃんけん……ぽい!」
次の瞬間、計ったように六人の右手がそれぞれの形で中央に差し出された。俺は飛び上がった。
「勝ったっ!」
何と俺以外の部員が全てチョキ、俺だけグーだったのだ。死闘が予想された戦いは一瞬で決着を見た。
「ちくしょう……」
真樹先輩がうなだれる。美夏先輩が頭を抱えた。
「何でやねん」
雲雀先輩、風林先輩、楓が悄然と椅子に座り込む。そんな中、俺はグーを打ち振るって勝利に酔いしれた。
「由紀先輩、俺、見届けますからね! 駄ゲー部員として、先輩が勝つところを!」
由紀先輩は嬉しそうに親指を立てた。
「オッケーだもん! 駄ゲー部として、ボクは……」
そこで急に語尾がしぼむ。その変化に、ふと一同の視線が彼女に集まった。
「由紀先輩……?」
楓がいぶかしむ。由紀先輩は両肘を抱えた。
「ボク、やっぱり趣味は駄ゲーだもん。読書もそうだけど、駄ゲーの次だもん。やっぱり嘘をつかず、駄ゲーで世の中と向き合いたかったもん」
楓が顔を赤くして机を叩いた。
「まだそんなことを言ってるんですか? 駄ゲーが趣味だなんて言ったら落選確実です。ここは事実を捻じ曲げてでも、漱石でいくべきです。いいですね? い・い・で・す・ね?」
楓が由紀先輩に、鼻が引っ付きそうなぐらい正面から迫る。由紀先輩は譲歩せざるを得ない。
「わ、分かったもん、楓ちゃん。そんなに怒らなくてもいいもん。……明日は練習の成果を発揮して、期待に応えるもん」
楓はすっと身を引いてにっこり笑った。
「それでいいんです。みんなで神様に願ってますから。実力を出し切ってください、由紀先輩」
当日はあいにくの雨天だった。幸先の悪さを感じるが、考えてみればよその参加者も条件は同じだ。俺は由紀先輩とその母親と駅で待ち合わせし、隣県に電車を乗り継いだ。
会場は駅徒歩5分圏内に組み込まれていた。『ワタプロ新人発掘オーディション2018』北陸大会第二次審査、その参加者と保護者と応援団で、足の踏み場もないほど人が溢れかえっている。公会堂の内外は立錐の余地もないぐらいだった。喧騒は1メートル範囲の物音さえ聞こえにくいほどだ。
「凄いもん……。緊張してきちゃったもん」
「もう、由紀がそんなじゃお母さんまで固くなるじゃないの」
由紀先輩は受け付けを済ませると、俺と母親に別れを告げた。
「じゃあ、ここからはボク一人で行くもん。応援よろしくだもん」
俺は胸いっぱいで何も言えず、ただ大きくうなずくのみだった。母親は「頑張りなさいよ」と心配そうに最後の声かけをする。
「行ってくるもん」
由紀先輩は笑顔で手を振って、参加者控え室へとその姿を消した。
「じゃ、席に着こうか、高松君」
由紀先輩の母は俺をうながし、場内へ足を進めた。湿気と熱気で独特の雰囲気が醸成されている。
正面ステージは豪華に飾り立てられていた。既に30脚ほどの装飾された椅子が並べられている。30人ずつ壇上にのぼり、椅子で待機しつつ、一人ずつスピーチを行なう……そういうことなんだろう。がやがやと騒がしく、他の客たちが自分の座席を求めて右往左往していた。
「意外に前の方なんですね」
俺は舞台の側から数えた方が早いであろう自分たちの位置に喜んだ。これなら由紀先輩に「あれ」を見せてあげられる。豆粒ぐらいの大きさにしか捉えられないんだろうけど……。
ほどなくして、席はそのほとんどが埋め尽くされた。咳払いや細かな物音が頭上の広い空間に吸い込まれていく。静まり切れない静けさが辺りに立ち込めた。
「そろそろね」
由紀先輩の母親が腕時計を見る。俺はごくりと唾を飲んだ。
会場が暗転する。ステージにまばゆい照明が殺到した。妙齢の赤いスーツ姿の女性が、舞台袖から中央へ歩み寄った。マイクスタンド前に立ち、朗々とアナウンスする。
「わしが行くしかない!」
「拙者にお任せあれ!」
「うちの応援が必要やないか?」
「私が声援を送るので!」
「私が由紀先輩をサポートします!」
「俺が代表で出ます!」
俺を含めた六人の視線が空中で激突し、見えない火花を散らした。みな由紀先輩の晴れ姿を瞳に焼き付け、かつ、その応援に力いっぱい声を張り上げたいのだ。
「み、みんな……」
由紀先輩がおろおろと両手をさ迷わせる。俺は叫んだ。
「ここは公平にじゃんけんで決めましょう!」
この提案に、俺と由紀先輩以外の10の眼球が逡巡した。だが公平で迅速な決着はそれ以外にないと判断したのだろう、皆の目から迷いが消え失せる。
「いいだろう。みんなもいいな?」
真樹先輩が一座を見渡す。不承を訴えるものは皆無だった。
「よし、ではいくぞ……。最初は、グー!」
六人が一斉に握り拳を差し出す。そして――
「じゃんけん……ぽい!」
次の瞬間、計ったように六人の右手がそれぞれの形で中央に差し出された。俺は飛び上がった。
「勝ったっ!」
何と俺以外の部員が全てチョキ、俺だけグーだったのだ。死闘が予想された戦いは一瞬で決着を見た。
「ちくしょう……」
真樹先輩がうなだれる。美夏先輩が頭を抱えた。
「何でやねん」
雲雀先輩、風林先輩、楓が悄然と椅子に座り込む。そんな中、俺はグーを打ち振るって勝利に酔いしれた。
「由紀先輩、俺、見届けますからね! 駄ゲー部員として、先輩が勝つところを!」
由紀先輩は嬉しそうに親指を立てた。
「オッケーだもん! 駄ゲー部として、ボクは……」
そこで急に語尾がしぼむ。その変化に、ふと一同の視線が彼女に集まった。
「由紀先輩……?」
楓がいぶかしむ。由紀先輩は両肘を抱えた。
「ボク、やっぱり趣味は駄ゲーだもん。読書もそうだけど、駄ゲーの次だもん。やっぱり嘘をつかず、駄ゲーで世の中と向き合いたかったもん」
楓が顔を赤くして机を叩いた。
「まだそんなことを言ってるんですか? 駄ゲーが趣味だなんて言ったら落選確実です。ここは事実を捻じ曲げてでも、漱石でいくべきです。いいですね? い・い・で・す・ね?」
楓が由紀先輩に、鼻が引っ付きそうなぐらい正面から迫る。由紀先輩は譲歩せざるを得ない。
「わ、分かったもん、楓ちゃん。そんなに怒らなくてもいいもん。……明日は練習の成果を発揮して、期待に応えるもん」
楓はすっと身を引いてにっこり笑った。
「それでいいんです。みんなで神様に願ってますから。実力を出し切ってください、由紀先輩」
当日はあいにくの雨天だった。幸先の悪さを感じるが、考えてみればよその参加者も条件は同じだ。俺は由紀先輩とその母親と駅で待ち合わせし、隣県に電車を乗り継いだ。
会場は駅徒歩5分圏内に組み込まれていた。『ワタプロ新人発掘オーディション2018』北陸大会第二次審査、その参加者と保護者と応援団で、足の踏み場もないほど人が溢れかえっている。公会堂の内外は立錐の余地もないぐらいだった。喧騒は1メートル範囲の物音さえ聞こえにくいほどだ。
「凄いもん……。緊張してきちゃったもん」
「もう、由紀がそんなじゃお母さんまで固くなるじゃないの」
由紀先輩は受け付けを済ませると、俺と母親に別れを告げた。
「じゃあ、ここからはボク一人で行くもん。応援よろしくだもん」
俺は胸いっぱいで何も言えず、ただ大きくうなずくのみだった。母親は「頑張りなさいよ」と心配そうに最後の声かけをする。
「行ってくるもん」
由紀先輩は笑顔で手を振って、参加者控え室へとその姿を消した。
「じゃ、席に着こうか、高松君」
由紀先輩の母は俺をうながし、場内へ足を進めた。湿気と熱気で独特の雰囲気が醸成されている。
正面ステージは豪華に飾り立てられていた。既に30脚ほどの装飾された椅子が並べられている。30人ずつ壇上にのぼり、椅子で待機しつつ、一人ずつスピーチを行なう……そういうことなんだろう。がやがやと騒がしく、他の客たちが自分の座席を求めて右往左往していた。
「意外に前の方なんですね」
俺は舞台の側から数えた方が早いであろう自分たちの位置に喜んだ。これなら由紀先輩に「あれ」を見せてあげられる。豆粒ぐらいの大きさにしか捉えられないんだろうけど……。
ほどなくして、席はそのほとんどが埋め尽くされた。咳払いや細かな物音が頭上の広い空間に吸い込まれていく。静まり切れない静けさが辺りに立ち込めた。
「そろそろね」
由紀先輩の母親が腕時計を見る。俺はごくりと唾を飲んだ。
会場が暗転する。ステージにまばゆい照明が殺到した。妙齢の赤いスーツ姿の女性が、舞台袖から中央へ歩み寄った。マイクスタンド前に立ち、朗々とアナウンスする。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる