駄目ゲーム部活動記録!

よなぷー

文字の大きさ
上 下
30 / 53

0030(四)05

しおりを挟む
「美夏!」

 母親は怒りで興奮したらしく、美夏先輩の袖を握り締めて揺さぶる。

「家族みんなで話し合って決めたやろ! 駄ゲー部は辞める、って! お父さんやお母さんとの約束を破るんか? 駄ゲー部を続けて成績が落ちたって、あんたも認めてたやろ!」

 訴えるように夫にすがりついた。

「なああなた、あなたからも言うたったりいや」

「そうだな……」

 父親は妻と正反対に冷めていた。いや、部員の説得や泣きじゃくる娘の姿に心をほだされているようには見えたが、後一歩何かが足りないとでも言うように、その口からは厳しい言葉が紡ぎ出される。

「口だけなら何とでも言えるわな。駄ゲー結構、みんなは継続したらええ。でもうちの娘にもそれを強制するのはどうやろか。決定権は娘の将来を預かる両親に帰結すると思わんか? そして、僕の意見としてはノーや」

 打つ手なし。場は沈うつな雪が降り積もるかの如しだった。母親が一気にまくし立てる。

「そうや! 友達や先輩後輩の仲よりも、大事なんは将来や! これで決まりやな」

 この場が彼女の憤怒で制御されかかったときだった。一本の手が挙がった。

 他ならぬ、俺の手だった。

「あの……俺にも一言言わせてください」

 今度は全員の目が一斉に俺を向く。俺は気圧(けお)されるものかと踵に力を込めた。からからの喉から必死に声を絞り出す。

「駄ゲー部に入部したばかりの俺が言うのも何なんですけど……『駄ゲーのせいで一条先輩の成績が落ちた』ってのが、今回の騒動のそもそもの発端なんですよね?」

 美夏先輩の父親がうなずいた。その目に奇妙な輝きがまたたいている。

「その通りや」

「それを崩せたら、問題は解決ってことになりませんか?」

 真樹先輩が俺を半信半疑のまなこで見つめる。

「つまり、どういうことだ?」

「俺が、これからの一年で、順位を100番上げます。駄ゲー部の活動を維持したまま……」

 一同が絶句した。そりゃそうだろう。俺自身すら、自分の考えに半ば呆れ果てていたのだから。

 もちろん、今俺が宣言した約定はかなり無理がある。俺の学年順位は153番。一気に53番まで、俺の頭をパワーアップできるものなのだろうか?

「無理だもん」

「無理なので」

「高松の脳髄ではなあ……」

 みんな散々だな。

 だが、賛同者は続々と現れた。先陣を切ったのは雲雀先輩だ。

「私もやるので! 私も、一年で100番上げるので!」

 続いて風林先輩。

「拙者も右に同じです」

 真樹先輩も頑張った。

「わしもやります! 一年で100人追い越します!」

 楓も続いた。

「あたしだって、100番くらい……!」

 駄ゲー部では唯一勉強の出来る由紀先輩は、

「ボクはもう100番以内なので、学年トップを目指すもん!」

 と高らかに吼えた。

 俺は感動していた。皆、無理難題を抱えてでも、美夏先輩を手放したくないのだ。不覚にも泣きそうになる。

 母親がいきり立った。

「あんたらの成績なんてどうでもええ! 問題なんは美夏の成績やろが!」

「いや、一理あるで」

 いさめたのは父親だった。その顔から険しさが消えている。

「美夏はいい部活に入った」

 満足そうに吐息した。そして俺に向かって愉快そうに頬を緩める。

「君、名前は?」

「高松豊です」

「では高松君。君の学年順位を、一年で100番上げなさい。――いや、一年はさすがに長過ぎるか。半年で50番や。それでええね?」

 こうなっては引くに引けない。

「はい」

「それじゃ、その間は美夏を駄ゲー部に置いておくとしよう。もちろん美夏も頑張って、順位の回復をねろうてもらう。ちゃんと両者が目標を達成したら、晴れて公認や。ええか?」

 美夏先輩が瞳を固く閉じた。涙腺から水滴が溢れて止まらない。

「ありが、とう……! おとん……!」

 母親は最後まで抵抗しようとしたのか、半ば口を開きかけたが、旦那に手を押さえられ何も言えなくなった。父はぐるりと室内を見渡した。

「他のみんなにまで重石を科すわけにはいかんからな。代表で高松君に背負ってもろうた。公認できる日を楽しみに待っとるよ」

 駄ゲー部員の安堵と歓声が室内を満たし、真樹先輩は俺に親指を立てて見せた。俺は大変な約束をしてしまったと後悔しつつも、美夏先輩と雲雀先輩の喜び合う姿を見て心が溶かされていくのを感じていた。とりあえず、ハッピーエンドかな?



「くぉらぁ高松! 寝るな!」

 ハッピーエンドどころではなかった。俺は翌日から、真樹先輩直々の講習を受ける羽目になったのだ。彼女は3年だけあって、1年の出題範囲なんてお手の物。俺の駄ゲーの時間を半分に削って、残りの時間は猛勉強に費やし始めていた。

「ね、寝てません……」

「なら今の構文を日本語に訳せ! 聴いていたんならできるだろ!」

 美夏先輩も駄ゲー部内で、雲雀先輩と一緒に勉強している。俺同様、駄ゲー攻略の時間を差っ引いてだ。さすがに駄ゲー一本槍でどうにかできるほど、事態は甘くなかったのだ。

「大変やな、高松の奴」

「彼は彼でいいので。言いだしっぺなので」

 俺は地獄耳で聞いていた。

「薄情な……」

 真樹先輩が耳元で怒鳴り散らす。

「さあ、これからは毎日家でも駄ゲー部でも勉強だぞ! 覚悟しろ、高松!」

 俺、駄ゲー部やめようかな……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
「アタシをボランチしてくれ!」  突如として現れた謎のヤンキー系美少女、龍波竜乃から意味不明なお願いをされた、お団子頭がトレードマークのごくごく普通の少女、丸井桃。彼女の高校ライフは波乱の幕開け!  揃ってサッカー部に入部した桃と竜乃。しかし、彼女たちが通う仙台和泉高校は、学食のメニューが異様に充実していることを除けば、これまたごくごく普通の私立高校。チームの強さも至って平凡。しかし、ある人物の粗相が原因で、チームは近年稀にみる好成績を残さなければならなくなってしまった!  桃たちは難敵相手に『絶対に負けられない戦い』に挑む!  一風変わった女の子たちによる「燃え」と「百合」の融合。ハイテンションかつエキセントリックなJKサッカーライトノベル、ここにキックオフ!

処理中です...