駄目ゲーム部活動記録!

よなぷー

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0013(一)12

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 俺は深甚な疲れから授業中何度も居眠りした。舟を漕ぐたび先生から注意され、クラスの笑いものとなったが、それでも眠気には抗えなかった。昼休みも脇澤らの心配をよそに、ジャーヴァスをやりたい気持ちを抑えて乏しい食欲を奮い立たせた。 そして放課後。俺は最前線の老練兵もかくやという状態で部室へ直行した。時間は午後3時。後2時間。大丈夫、余裕はある。透き通るような青空を窓の外に見ながら、俺は生徒たちの間を縫って足を速めた。考えうる最速のスピードで駄ゲー部部室の前に立つ。

「おおっ?」

 部室のドアを開けると――3年の真樹先輩が下着姿で立っていた。

 俺は目をしばたたいた。頭に血がのぼせる。水玉模様……。

「きっ、貴様ぁ!」

 真樹先輩が顔を真っ赤にしてヘルメットを投げつけてきた。それは狙いあやまたず、俺の顔面にジャストミートする。

「出てけ! 着替え中だ!」

「は、はいぃ……!」

 俺は部室のドアを閉めて寄りかかった。まぶたの裏に焼きついた大人な肢体に興奮が抑えきれない。そうか、普段よく見る迷彩服は部室で着脱していたんだ、と納得する。

「もういいぞ」

 気を張った、しかしやや恥ずかしさの混入する声に、俺は心臓の高鳴りを覚えながら再度入室する。兵隊姿の真樹先輩が、ヘルメットを被っているところだった。

「これからは早く来た場合はまずノックだ。いいな」

「はい……」

 真樹先輩は気まずそうに視線をよそへ向けている。頬が朱に染まっていて、その手は心もとなく上着の裾をいじっている。俺も羞恥に声が出ない。

 と、そんな場合ではなかった。ジャーヴァスだ。ジャーヴァスをやらねば。

 俺はファミコンとソフト、小型液晶テレビをセットした。電源アダプターをコンセントに差し込み、コントローラーを握り締める。

 だがその間も、俺の頭には今しがた視界に映りこんだ真樹先輩の五体が縦横無尽に乱舞していた。すぐ隣で自分のゲームを準備している彼女の、あられもない姿……。12歳の俺には刺激が強過ぎて、鼻血がこぼれないのがいっそ不思議だった。

「おっ、やっとるな高松」

「もうラスボス戦なので」

「いよいよラストスパートだもん!」

「『未来神話ジャーヴァス』もいよいよ王手というわけじゃな」

 部員たちが続々やってくる。その間も、俺は色々な意味で震える指で、ラスボスのいるキネラシア城前で最後の準備にいそしんでいた。

 ああ、真樹先輩、胸が大きいんだな……。

 ちらりと隣を見る。海兵そのものないでたちの彼女は、『たけしの挑戦状』に夢中でこちらには気づかない。俺はその胸元を注視した。ごくりと喉を鳴らす。いかんいかん、何を考えてるんだ、何を。

 気がつけば期限である午後5時まで残り1時間を切っていた。俺は盛大に頭を振った。馬鹿なことを妄想している間にタイムリミットが迫って来ている。何たるザマだ。集中だ、集中。

 俺は雲雀先輩を一瞥(いちべつ)した。彼女は先ほどからの俺の不審な挙措(きょそ)にあからさまな疑いの色を向けていたが、それでも俺に付きっ切りで最後を見届けようとしてくれている。その赤いツインテールを見て、その黒く澄んだ瞳を見て――俺の心は静まった。

「見ていてください、雲雀先輩。俺がジャーヴァスをクリアするところを」

「うん、なので」

 俺は画面に正対し深呼吸した。もう惑わない。俺は最後のキネラシア城前で最後のセーブを行なうと、勇躍その中に乗り込んだ。

 だが……。

「つ、強い……」

 ラスボスは強かった。マントをなびかせ、炎の玉を撃って攻撃してくる。俺は何度となくダメージを受けながらも積極的に攻撃を加えた。だが勝てない。幾度もゲームオーバーを迎えた。「テーレーレーレー」と敗北を告げる曲が何回も流れる。

「頑張れ、高松!」

 気がつけば部員全員が、俺の後ろで声援を送ってくれていた。

「後15分しかないで。大丈夫なんか」

「頑張れだもん、高松君!」

「高松! クリアしないと銃殺だぞ!」

「兵法じゃ! 兵法を考えるのじゃ!」

 そして、雲雀先輩。

「もういいので」

「え?」

 全員が押し黙り、その視線が雲雀先輩の顔に集まる。彼女は悲しげに笑った。

「もういいので、と言ったので。高松君、ヒントなしではラスボスは倒せないので」

 そうなのか? 俺は胸底の最後の砦が崩れる音を聞いた。雲雀先輩はゆっくり首を振る。

「もう分かったので。高松君、ジャーヴァスをクリアしなくても、私は部に残るので。もう十分気持ちは伝わったので。安心して、やめていいので」

 その言葉に、俺だけを置き去りにして部員一同が沸騰した。由紀先輩がショートカットの黒髪を撫でる。

「本当だもん? 雲雀ちゃん!」

「本当なので。駄ゲー部を続けるので」

 美夏先輩が雲雀先輩の両手を取って軽やかなステップを刻む。親友の心変わりがよほど嬉しかったのか、常の冷静さが吹き飛んでいた。

「ほんまか! ごっつ嬉しいわ!」

 真樹先輩、風林先輩も欣喜雀躍といった体(てい)だ。
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