駄目ゲーム部活動記録!

よなぷー

文字の大きさ
上 下
5 / 62

0005(一)04

しおりを挟む
「そして愛。これは大事じゃ。駄目ゲームを遊ぶことで自然と万物に対する愛情が育まれるんじゃ。拙者は今遊んでいる『バンゲリングベイ』のおかげで毎日が楽しくて仕方がない。学校に行ったが最後、あの駄目ゲーを無理矢理プレイさせられるのかと思うと、そうでない一瞬一瞬が素敵に感じられて仕方なくなるのじゃ。下校時間になって解放されるときの清々しさなど、筆舌に尽くしがたいものがある。分かるな?」

 風林先輩は遥か高みで遊泳しており、目の前の俺に焦点が合っていない。彼女はスイマーとして恍惚の極みにあった。

「更に友情。映画を観て『面白かったね』と会話が弾むのはいいことじゃ。じゃがそれはただじっと椅子に座ってスクリーンを二時間見つめていただけの話。すぐに話題は枯渇する。じゃがどうじゃろう、駄目ゲームの場合は。『2×2ドットの弾丸でウルトラマグナスが吹っ飛ぶんだよね』とか『ステージ9の地下機械都市で延々ループしちゃったよ』とか、本心から苦痛やトラウマを語ることで強い連帯感が得られるのだ。それは友情という名の固い結束へ昇華される。駄ゲーは絆を紡ぎ社会的繋がりを縦横に走らせる礎となるのじゃ。納得したか?」

 風林先輩はこちらににじり寄り、鼻同士がぶつかりそうなほど近くで俺の両目を射抜く。俺は圧倒されてうなずくことしかできない。風林先輩はすっと距離を取ると、腕を組んでにやついた。

「どうじゃ、拙者ら駄ゲー部の魅力が理解できたか? さあ、もう迷いはなかろう。この入部届けに」

 といいながら、どこにしまっていたものか『入部届け』と書かれたプリントを取り出す。

「この入部届けに署名せい。その瞬間からお主はかけがえのない駄ゲー愛好仲間となるのじゃ」

 俺はプリントとボールペンを機械的に受け取った。しかし俺は動けなかった。

「ん?」

 風林先輩が首を傾げる。雲雀先輩が両目一杯に期待をまたたかせている。だが、俺はやはり動けなかった。

 俺は軽い気持ちでこの場所に来た。超絶面白い、最新ゲームの数々を遊んでいる先輩たちを見学し、その素晴らしい部活動に感激するつもりだった。なんならすぐ自主的に入部届けを書いて提出していたかもしれない。

 だがこの駄ゲー部は違った。部員がやっているのは糞つまらない駄ゲーばかりだ。それもファミコンのような数十年前の、ロムカセット時代の古臭い据え置きゲーム機のみ。前世で神を殺したとしてもこんな手酷い罰は受けないだろう。とてもつき合える世界ではなかった。

 しかし、兜先輩……じゃなくて風林先輩が語る、駄ゲーならではの魅力というのも一応は……半分ぐらいは……いやさ十分の一ぐらいは……分かる。それに憑かれて駄ゲーをやり続ける部員の皆さんの熱意を馬鹿にするつもりはない。箸をつける前から味を論評できないのと同様、駄ゲーに触れずして駄ゲーを見下すというのは――これは俺の価値観の問題なんだろうが――それも筋が通らない気がした。

 結局悩んだ挙句、俺は折衷案を提示した。

「入部は考えさせてください。その代わり、しばらくの間仮入部というのはどうでしょうか?」

「仮入部?」

 雲雀先輩と風林先輩は互いの顔を見やった。そして同時に噴き出した。華やかな笑顔が面上に満ちる。

「それでいいので。高松君はしばらく駄ゲー部仮入部員として参加してもらうので」

「ではそうと決まれば早速駄ゲーを遊んでもらおうかの。拙者が今まで遊んでいた『星をみるひと』をプレイするのじゃ」

 聞いたことないゲームタイトルに――まあ俺が生まれる前のゲーム機とソフトなんだから当然といえば当然なのだが――俺は尻込みした。確実に分かっているのは、そのゲームがつまらない、理不尽な「駄ゲー」であることだけだ。

「いったいどんなゲームなんです?」

「やれば分かるので」

 俺は座布団に座らされ、強制的に赤いコントローラーを持たされた。風林先輩が本体のボタンを押すと、リセットでもかかったのか、画面がタイトルに戻る。宇宙を描いたそれは古臭さの中にも情緒が感じられる絵で、俺は少し安心して「START」を選択した。

「ん?」

 液晶画面一杯に草原だか森だかが広がり、中央にプレイヤーらしき人物が表示されている。他には何もない。俺は軽い困惑に囚われて両先輩を振り返った。

「これ、どうしたらいいんですか?」

 二人は顔を見合わせて楽しそうに噴き出した。だがそれも一時で、すぐ真面目な相貌を取り戻す。

「駄ゲーに情報は無用なので。あんまりひどい状況に置かれた場合のみ、攻略本やネットを見ることは許されるけど、そうでもない限りは自力で解き明かしていくしかないので。高松君、いきなり他人頼みは駄目なので」

 やれやれ、こりゃ他力本願とはいかなさそうだ。そもそもこれ、ジャンルは何なんだろう? 分からないことばっかりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

女性漫画家いちご先生を復活させたい男性編集者の物語

北条丈太郎
キャラ文芸
引きこもりで描かない女性漫画家と貧乏な男性編集者の仕事なのか恋愛なのか中途半端な物語

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...